SHARE 五十嵐淳建築設計事務所による、北海道・札幌の「小さな矩形」
all photos©佐々木育弥
五十嵐淳建築設計事務所が設計を手掛けた、札幌市の、築40年以上のマンションの1室の改修「小さな矩形」です。
札幌市の中心部にある、築40年以上の古いマンションの1室の改修である。改修というのはある意味二重の環境の中にある。大きな環境といえる地球空間の中に属するマンションという塊を注視し、さらに小さな環境といえる建築空間の中のどの部分に属しているかを考える。
寒冷地において築年数の古い建物は、大きな環境と向き合うことが必然的に必要となる。それは主に性能(スペック)についてである。マンションの規約により大抵の場合、古く性能の低いサッシ(窓)を交換できない。今回、それに加えてFFストーブの位置も移動が不可能であり、暖房器具の追加も不可能であった。壁の断熱スペックだけ高くしても、コストの割にあまり効果を得られない。寒冷地で古い建物の活用が困難なのは大きな環境の影響が大きいからだ。
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以下、建築家によるテキストです。
「小さな矩形」
札幌市の中心部にある、築40年以上の古いマンションの1室の改修である。改修というのはある意味二重の環境の中にある。大きな環境といえる地球空間の中に属するマンションという塊を注視し、さらに小さな環境といえる建築空間の中のどの部分に属しているかを考える。
西側に大きな通りがあり開かれてたマンションの敷地の北西の角に小さな環境は位置する。
この位置が今回の設計の大きな要素となった。
昨今、リノベーションが注目されている。メディアの影響もあるが多様な活動が繰り広げられている。少々、スタイルやレシピのように形式化されたデザインが多いことが気になるが、様々に展開している。デザインは自由だが、特に大きな環境である地球空間との関係性によるリノベーション作品が少ないと思う。
寒冷地において築年数の古い建物は、大きな環境と向き合うことが必然的に必要となる。それは主に性能(スペック)についてである。マンションの規約により大抵の場合、古く性能の低いサッシ(窓)を交換できない。今回、それに加えてFFストーブの位置も移動が不可能であり、暖房器具の追加も不可能であった。壁の断熱スペックだけ高くしても、コストの割にあまり効果を得られない。寒冷地で古い建物の活用が困難なのは大きな環境の影響が大きいからだ。
これらの環境の状態により、西側の窓側に小さな縁側(緩衝空間)を、北側の外気に接する側にボイラー室、寝室、収納などの空間を配置し、緩衝空間として扱うことにした。その間仕切りに布の比重の高いカーテンを設置し断熱効果を高めている。小さな縁側には熱と光を制御する2種類のカーテンを設置した。レースのカーテンは光を拡散しつつ、都市との関係性を穏やかに繋ぎ距離感を生む。比重の高いカーテンは強い断熱効果を得る。それらの仕組みを切りとる「小さな矩形」は二重の環境の中に、もうひとつの小さな環境をつくり出す。腰壁はコールドドラフトを回避する。光を切り取った矩形はその向こう側のふたつの環境との適度な関係性をつくる。
今回、改修プロジェクトではあったが、過去の自身の作品の多様な「環境の状態」に注視し設計をして来た思考がここでも展開できた。環境の状態の読み解きにはまだまだ無限の可能性があり、私は注視し続けながら、まったく新しい建築を見つけたいと考えている。
■建築概要
題名 : 小さな矩形
設計:五十嵐 淳/五十嵐淳建築設計事務所
担当:五十嵐 淳+川瀬 璃以子
住所:北海道札幌市
主用途:専用住宅
施工:丸繁 赤坂建築
階数:地上6階(既存建物)
床面積:54.95㎡
構造:鉄骨鉄筋コンクリート造(既存建物)
竣工:2016年2月
写真:佐々木育弥