SHARE 原田祐馬率いるUMA / design farmによる展覧会「Tomorrow is Today」の会場写真と、榊原充大によるレビュー「Tomorrow Never Knows時代の希望と絶望」
原田祐馬率いるUMA / design farmによる、銀座クリエイションギャラリーG8での展覧会「Tomorrow is Today」の会場写真と、榊原充大(RAD、株式会社都市機能計画室代表)によるレビュー「Tomorrow Never Knows時代の希望と絶望」を掲載します。会期は2020年3月28日まで。
こちらは展覧会公式の概要。
原田祐馬により2007年に設立されたUMA / design farmは大阪を拠点に活動するデザインスタジオです。グラフィックはもちろん、建築家や編集者と協働し、図書館や学校、障害者福祉施設などの仕組みづくりからサイン計画も手掛け、プロジェクトの上流から地域とその場に介在し、当事者と「ともに考え、ともにつくるデザイン」を、対話と実験を繰り返して実践しています。人、場所、分野を越境するそのデザイン手法により、循環と可能性を生み出す仕組みを提案しつづけています。
本展では、プロジェクトにどんな人たちが関わり、何を思い、ともににつくりあげたのか、その言葉や関係性、デザインプロセス、そこで紡がれた物語を交えて展示します。奈良県奈良市の福祉施設たんぽぽの家と障害のある人たちの仕事づくりを行う「Good Job! Project」、大津湖岸なぎさ公園サインデザインのプロセスや、UR 都市機構での鳥飼野々2丁目団地などの色彩計画では、デザインがどのように地域の人々の暮らしの一部になっているのかをご紹介します。
領域横断的にプロジェクトを進めるUMA / design farmは、日常の未来を考え、デザインが日々の生活に溶け込む環境を探究しています。あらためて社会におけるデザインの役割を考える展覧会です。
以下の写真はクリックで拡大します
以下、榊原充大によるレビューです。
Tomorrow Never Knows時代の希望と絶望——UMA/design farm展「Tomorrow is Today: Farming the Possible Fields」レビュー
<「Tomorrow is Today」とはどういうことか?>
I’ve been living for the moment
But I just can’t have my way
And I’m afraid to go to sleep
Because tomorrow is today
その日暮らしで生きてきたけど、
自分のやり方が身についていない。
眠りにつくのが怖い。
明日は今日の繰り返しだから。
これは、ビリー・ジョエルのソロデビューアルバム(1971年)に収録された「Tomorrow is Today」という曲の出だしの一節。めちゃくちゃに暗い(後半もずっと暗い)。トゥモロー・イズ・トゥデイ。明日は今日であるという言い方は、今日も明日も変わらないということでもあって、ゆえに彼が歌うこの人にとってはこれ以上ない絶望(最後には自殺がほのめかされる)となる。まさに遺言だ。
対してUMA/design farm(以下UMA)展のタイトル「Tomorrow is Today」が、添えられた写真や特徴的な手書きフォントで届けるニュアンスは、一転して、未来は今日の積み重ね、といったものになるだろうか。同じ一文でありながら、ビリー・ジョエルが歌うようなネガティブさはなく、どこか前に向かって進んでいくような希望を感じさせる。一緒に歩を進めるために共有する社訓のような響きだ。
シンプルであるがゆえにネガティブにもポジティブにもとれるこの「Tomorrow is Today」というタイトルだが、それを分けるものは何だろうか?
これを考えるにあたって、サブタイトルの「Farming the Possible Fields」は重要なヒントになる。スパッと言ってしまえば、TomorrowがPossible Fieldsであるかどうかで、この一文がポジティブになるかネガティブになるかが変わる。
ここに含まれるFarmingという語が示すように、明日は今日の繰り返し、であれ、未来は今日の積み重ね、であれ、響き合うのは「農」の営みだろう。その例を引き継ぎながらUMAの活動を見渡してみると、「可能性のあるさまざまな畑を耕す(Farming the Possible Fields」ことによって果実を生み出していくという農耕的な営みこそ、彼らの特徴だと言える(細かいが「果実を生み出すために畑を耕す」ではない)。サイン、ピクトグラム、パッケージなどといったプロダクトは、Possible Fieldsを耕した結果として得られる果実になぞらえることができる。
<その展示の主語は何か?>
会場に入って一番最初にあらわれる展示物がプロダクトであるため、いわゆる「デザイナー」の展覧会として認識しやすい入り口になっている。個々のプロダクトにキャプションはなく、控えめに添えられた通し番号がエントランス側に置かれたハンドアウトに対応する。そのハンドアウトにならぶおびただしいプロジェクトの量に圧倒されるだろう。しかしそのハンドアウトによればここはRoom「A」で、あくまでも展覧会の1/3であることがわかる。
そんなRoomAから次のRoomBに移動すると、饒舌なテキストの海に投げ出されるような感覚に襲われる。さまざまなプロジェクトと、そこに関わる多様な主体が示され、UMAがその中でいわゆる「デザイナー」の仕事にとどまらない役割を担っていることがほのめかされる。それぞれのPossible Fieldにおける奮闘を伝えるようだ。そしてその室の奥にあるのが、映像/スライドショーの上映がなされているRoomCとなる。
各室を注意深く見ていくと、展示内容が異なるだけではなく、室ごとにとある区分けがなされていることに気づく。一言で言うならばそれは、主語の違いだ。
プロダクトで溢れるRoomAは、いわばUMAという「私/I」が主語。UMAも関わるプロジェクトを紹介するRoomBは、「私たち/We」。そしてUMAが色彩計画を手掛けた団地やサインを他者の視点からとらえた映像や写真が見えるRoomCは、いわば「それ/It」が主語になる、と整理することができる。
展覧会なるものが構造的に「私」という主語のみからなりがちな中、その主語を「私たち」へと広げ、のみならず、そのデザインした対象がまちの風景となり、他者から「それ」と名指される状況までが想定されている。Possible Fieldsを耕した結果として生まれた果実や、それが日常になった風景までもがひとつの展覧会で示されているのだ。
<いまこの展覧会が(はからずも)投げかけるものとは何か?>
このように3つの展示の違いを眺めた上で、この展覧会において最も鍵になる部分はRoomBであると言わざるを得ない。こここそがPossible Fieldsになぞらえられている。多角的な言葉によって語られる多様なプロジェクトは、「イン・プログレス」の言葉そのままに、その全てが進行形だ。正確に言うなら、Tomorrow is Todayが現在時制でしかないように、終わりというものがない。
関わるメンバーが多いプロジェクトは世に数えきれないほどあるものの、RoomBで紹介されるプロジェクトは、そこに関わる人たちが独立した個として参加しているところが特異点と言える。つまりここにおける主語「私たち」は「UMAとその仲間」というよりも、「複数の私」とイコールになる。関わるまた別の主体から見たときには、そのプロジェクトの紹介には異なるキャプションが据えられるはず(筆者もそんな「私」のひとり)であり、その豊かな複層性こそがあるプロジェクト=場をPossible Fieldsたらしめている。
ゆえに、そこに関わる「私」やさらに周囲にいる「私」が一同に介するこの展覧会のオープニング、潜在的な「私」が集うだろうワークショップやトークなどの機会は、関連イベントという以上にそれ自体がPossible Fieldsとして実現していたはずだ。
蓋を開けてみれば、オープニングを間近に控えた2020年2月に新型コロナウィルスの感染が世界的な現象となり、それゆえにこの展覧会の動員企画が実現できなくなってしまった。
この誰にとっても予想外の出来事は、社会のあらゆる場面でTomorrow is TodayというよりもむしろTomorrow never knowsであることをつきつけている。そんな困難な時期にあっても、Possible Fieldsを耕し続けられるのか?Tomorrow is Todayであろうが、Tomorrow is Another Dayだろうが、確実なのはどうあってもTomorrowは来るということであり、その永続性に可能性を見出せなくなったときにTomorrow is Todayは絶望のフレーズになる。ビリー・ジョエルの歌声がうっすらと聞こえてくる。
今回のタイトルに照らして言えば、Possible FieldsはあらかじめPossible Fieldsとして誰かの目の前に差し出され、耕されることを待っているわけではない。どうあっても来るTomorrowをPossible Fields「として/へと」耕し続けることができるのか?現在の社会的状況におけるこの展覧会は、そんなさらに重い問いを投げかけているように感じられる。
榊原充大
建築家/リサーチャー。1984年愛知県生まれ。2007年神戸大学文学部人文学科芸術学専修卒業。2008年から建築リサーチ組織「RAD」を共同運営。2019年に「株式会社都市機能計画室」を設立。UMAとは(RoomBの事業で言うと)「大津湖岸なぎさ公園」「京都市立芸術大学」「泉大津市図書館」などで連携している。
■展覧会概要
UMA / design farm展
Tomorrow is Today: Farming the Possible Fields
会期:2020.02.25 火 – 03.28 土
時間:11:00a.m.-7:00p.m.日曜・祝日休館 入場無料
会場:クリエイションギャラリーG8