安部良 / ARCHITECTS ATELIER RYO ABEによる、神奈川の、既存住宅を改修したアトリエ兼住宅「コヤトキトツキ Shed, Tree and Lunar」です。
グラフィックデザイナーとその家族のための住宅兼仕事場である。海岸から緑深い谷戸へと続く住宅地の、竹やぶに接した三角形の小さな土地に、高さ20m以上のイチョウの木と小さな木造2階建ての住宅が残っていた。隣家同士が境界をあまり気にせずに建ち、庭や空地などを共有しながら住んでいる。築おおよそ50年、建て替えを好む日本では珍しく、住まい手が変わるたびに増改築を繰り返した歴史をもつささやかな住宅。家族3人と猫1匹には小さな床面積だが、この場所に流れる緩やかな空気感こそが彼らにとって最も価値のある生活のクオリティではないかと考えた。
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以下、建築家によるテキストです。
コヤトキトツキ − 曖昧な輪郭としての建築
グラフィックデザイナーとその家族のための住宅兼仕事場である。海岸から緑深い谷戸へと続く住宅地の、竹やぶに接した三角形の小さな土地に、高さ20m以上のイチョウの木と小さな木造2階建ての住宅が残っていた。隣家同士が境界をあまり気にせずに建ち、庭や空地などを共有しながら住んでいる。築おおよそ50年、建て替えを好む日本では珍しく、住まい手が変わるたびに増改築を繰り返した歴史をもつささやかな住宅。家族3人と猫1匹には小さな床面積だが、この場所に流れる緩やかな空気感こそが彼らにとって最も価値のある生活のクオリティではないかと考えた。
隣家との敷地境界や、中と外、仕事場と住まいの場などさまざまな境界を曖昧にすることで、家という枠組みをもう1歩開いて庭や周辺環境までも含めた居場所として棲まえるような、活き活きとした風景の輪郭として建築をつくることを主題とした。近隣との距離感を注意深く観察しながら建物周囲のテラスと庇をデザインし、お互いの生活風景が重なり合うように、地域に現れ始めている新しい街並みに参加する建築を目指した。
家と社会の境界でもある玄関という形式を曖昧にし、建主の仕事場となるスタジオを、半屋外のエントランスを介した離れとして配置した。スタジオの扉と住宅の引き戸を開け放てば、中と外、住居と仕事場が緩やかに繋がった生活環境が生まれる。この住宅にとっておそらく3 度目の増改築になる母屋の工事では、床、壁、天井を全て一度剥がし、断熱を加え構造的に必要な補強を施しながら、機能的・意匠的に不必要な要素を削ぎ落として、既存住宅の骨格を抽出し、これまでの増改築の歴史の中に周囲の景観を積極的に取り込んだ住空間とした。
建主は風に揺れる竹の表情を楽しみ、夜には天窓から月を眺めているそうだ。輪郭としての建築は意識の中から消えて、おおらかな環境とリンクした生活が始まっている。
■建築概要
作品名称:コヤトキトツキ Shed, Tree and Lunar
所在地:神奈川県
用途:アトリエ兼専用住宅、リノベーション
敷地面積:162.97m2
建築面積:63.40m2
延床面積:76.64m2(1F : 69.35 m2 / 2F : 7.29 m2)
竣工:2018年