SHARE 植木幹也+進士茶織 / スタジオシナプスによる、群馬・安中市の住宅「安中の家」
植木幹也+進士茶織 / スタジオシナプスが設計した、群馬・安中市の住宅「安中の家」です。
計画地の南に、ぽっかりと空いた場所がある。
国道の拡幅工事の着工を待っている場所である。
まちは大きな時間の流れでとらえても刹那的に見ても、変化し続ける動的なものの集積でかたちづくられている。
この動的なものの切れ間にあり、それとは無関係にただ空いているこの空白地は、誰のものでもなく、待つという受け身の態度でもって「今だけ」という一時的な利用を許容するおおらかさがある。
またここに身を置くことにより、周りの流れているものを客観的に見ることができる。そしてそれは、流れるものと「ぽっかり」の関係を俯瞰する視点により見出される。
このような場所のあり方を発見した時、住宅の中に「ぽっかり」をつくる可能性を考えた。
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以下、建築家によるテキストです。
計画地の南に、ぽっかりと空いた場所がある。
国道の拡幅工事の着工を待っている場所である。
まちは大きな時間の流れでとらえても刹那的に見ても、変化し続ける動的なものの集積でかたちづくられている。
この動的なものの切れ間にあり、それとは無関係にただ空いているこの空白地は、誰のものでもなく、待つという受け身の態度でもって「今だけ」という一時的な利用を許容するおおらかさがある。
またここに身を置くことにより、周りの流れているものを客観的に見ることができる。
そしてそれは、流れるものと「ぽっかり」の関係を俯瞰する視点により見出される。
このような場所のあり方を発見した時、住宅の中に「ぽっかり」をつくる可能性を考えた。
ここでは、まちのぽっかりから連続する家のぽっかりを、南北に傾斜する敷地の中央に配置し、両隣に個室と機能空間を沿わせる。
身体的なスケールでできた両翼の空間と対照的に、緩やかなレベル差の床が連続するぽっかりには、高くのびやかなアーケードのような広がりのある屋根を架けた。
ぽっかりは、利用者を家族に限らず、変化し続ける生活やその時どきの状況にも関係なく、集う人びとの振る舞いをただ受け止める。
そこに身を置けば、自分と周りにいる他者との繋がり方が見えてくる。
一方、個室は地面を掘り下げ、穴蔵に潜るようにして入る。
個室からぽっかりを横断するように見返せば、1段上がったばっかりは舞台のように見え、家族の出来事でさえもどこか他人事として見えてくる。ぽっかりを下った先には、はなれの小さな塔が建つ。
一度外に出て階段を上がり、にじり口から入る塔の上部は、家とまちのぼっかりから切り離されて浮かぶ場所である。
360度見渡すことができ、動的なものを俯瞰して眺めることで、相対的に内的なものへ向かう視点を獲得していく。
ぽっかりにより住宅の中のさまざまな立ち位置からの視点を自由に行き来できることは、家族という枠組みに囚われない、身体的・精神的な自由を備えているということではないだろうか。
■建築概要
安中の家
所在地:群馬県安中市
主要用途;専用住宅
設計:スタジオシナプス 植木 幹也+進士 茶織
施工:安松託建
構造・規模:木造在来工法 2階建て
敷地面積:497.48㎡
建築面積:113.90㎡
延床面積:113.89㎡
竣工時期:2019年11月
写真撮影:鳥村鋼一