SHARE 大室佑介 / 大室佑介アトリエ、高橋一浩 / 木神楽、沓沢敬による、三重の住宅「Haus-009」
大室佑介 / 大室佑介アトリエ、高橋一浩 / 木神楽、沓沢敬が設計した、三重の住宅「Haus-009」です。
自宅から車で20分ほどの山奥に、一軒の家を設計した。迫りくる山肌を背にした古い家屋に住む施主は、自宅が山に飲み込まれることを危惧し、新たな住処へ移ることを求めていた。相談を受けてから、起伏に富んだ広大な敷地内での配置計画に始まり、必要な用途と予算から建物の規模を割り出し、最終的には急勾配の中腹ながら強い地盤を持つ、木立の中の斜面地に落ち着いた。
建物としては、斜面に対して30坪ほどの床を水平に渡し、舞台さながらのバルコニーを谷側に迫り出させ、黄金比率に基づいた妻面に、黄金角の近似値となる2寸5分勾配の大きな切妻屋根を架けただけの単純な構成である。谷から見える姿は左右対称にまとめ、建物を支える柱間は一定の比率で統一し、凛とした正面を湛えている。入口に通じるアプローチ道を進みながら建物を仰ぎ見ると、斜め45度の位置から見上げることになるため、その印象はさらに高められる。
驚くべきことに、この建物のほとんどの部分は施主の手によって施工されている。その手の範囲は、材料の調達から設計に至るまで拡げられ、仕上げや細部の納まりなどについては、毎日現場と向き合いながら、日々思考を巡らせた施主の即興性によって決定されていった。当の設計者としては、時おり図面を持って現場に赴き、雑談を交えながら相談された事柄にうなずくことのみ。必要に迫られた人間の底力のようなものを目の当たりにした施工期間であった。
建物を建てるということは、良くも悪くも風景を変えてしまうことであり、たった一つの建物で風景を壊してしまうこともあれば、反面、見逃していた風景への気づきを与えてくれることもある。
今回のように豊かな自然環境の中で建物をつくる場合、見る者に驚きを与える風景を作り出そうと意気込み、風景への過剰な参加を試みると、周辺との間に不調和を引き起こしかねない。その点に留意し、土地に従った当たり前の建物、すなわち、すでにそこに存在していたかのような建物、風景の中に「ただ、在る」状態を目指した。
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以下、建築家によるテキストです。
自宅から車で20分ほどの山奥に、一軒の家を設計した。迫りくる山肌を背にした古い家屋に住む施主は、自宅が山に飲み込まれることを危惧し、新たな住処へ移ることを求めていた。相談を受けてから、起伏に富んだ広大な敷地内での配置計画に始まり、必要な用途と予算から建物の規模を割り出し、最終的には急勾配の中腹ながら強い地盤を持つ、木立の中の斜面地に落ち着いた。
敷地までは車一台が通れる程度の細い一本道しか通じておらず、一般的な地業工事が難しい環境であったため、伝統工法を専門とする職人や設計者の協力を得て、石場建ての懸造りという特殊な工法を採用した。これにより山そのものを傷める範囲を最小限に抑えることができ、この土地に継がれる山の神への敬意を払いながら工事が進められた。
建物としては、斜面に対して30坪ほどの床を水平に渡し、舞台さながらのバルコニーを谷側に迫り出させ、黄金比率に基づいた妻面に、黄金角の近似値となる2寸5分勾配の大きな切妻屋根を架けただけの単純な構成である。谷から見える姿は左右対称にまとめ、建物を支える柱間は一定の比率で統一し、凛とした正面を湛えている。入口に通じるアプローチ道を進みながら建物を仰ぎ見ると、斜め45度の位置から見上げることになるため、その印象はさらに高められる。
内部の間取りについては、各居室を必要に応じた最小限の広さでまとめ、中央に配した共用室に最大限の面積を割り当てた。左右に全面開放ができる谷側の大開口からは、揺れる木立の色と影、加えて緑の匂いが風に乗って室内に入り込み、時節の移り変わりを感じられる。
驚くべきことに、この建物のほとんどの部分は施主の手によって施工されている。その手の範囲は、材料の調達から設計に至るまで拡げられ、仕上げや細部の納まりなどについては、毎日現場と向き合いながら、日々思考を巡らせた施主の即興性によって決定されていった。当の設計者としては、時おり図面を持って現場に赴き、雑談を交えながら相談された事柄にうなずくことのみ。必要に迫られた人間の底力のようなものを目の当たりにした施工期間であった。
建物を建てるということは、良くも悪くも風景を変えてしまうことであり、たった一つの建物で風景を壊してしまうこともあれば、反面、見逃していた風景への気づきを与えてくれることもある。
今回のように豊かな自然環境の中で建物をつくる場合、見る者に驚きを与える風景を作り出そうと意気込み、風景への過剰な参加を試みると、周辺との間に不調和を引き起こしかねない。その点に留意し、土地に従った当たり前の建物、すなわち、すでにそこに存在していたかのような建物、風景の中に「ただ、在る」状態を目指した。
僻地に建つ神殿やお堂のように、場所の必然性を携え、時代を越える普遍性を持ちえた建築をつくることは、現代においても可能だろうか。そのような個人的な問いにも、改めて向き合うきっかけを与えてくれた計画である。
■建築概要
所在地:三重県
用途:住宅
構造:木造
階数:地上1階
敷地面積:不明
建築面積:89.434㎡
延床面積:89.434㎡
竣工:2020年5月
設計:大室佑介/大室佑介アトリエ、高橋一浩/木神楽、沓沢敬
施工:沓沢敬、木神楽、久保哲彦
基礎:今西友起、沓沢敬
左官:沓沢敬
建具:加藤建具店、沓沢敬
種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) |
---|---|---|
外装・壁 | 外壁 | 焼杉板張り |
外装・屋根 | 屋根 | ガルバリウム鋼板 小波 |
内装・床 | 床 | 杉板t=30(もりずむ) |
内装・壁 | 壁1 | 漆喰 |
内装・壁 | 壁2 | 和紙 |
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