武田清明建築設計事務所が設計した、東京・世田谷区の住宅「5つの小さな擁壁」です。
どんな住宅でも大地に接して建っている。ただ、それを実感できる生活空間というものはほとんどない。そもそも、人工の建築の「均質さ」と自然の大地の「複雑さ」の間には、大きな解像度のギャップがある。それを更地や造成によって無理やり均質化し、「大地」を「土地」へと変換することで、建築計画は自由さを獲得している。この前提条件を疑うことから、現代の建築がはらむ均質性を打ち破る手がかりを見つけ出すことができるのではないだろうか。人間にはつくりえない大地の不雑さや多様さ、その解像度に寄り添うように建築や空間をつくることができれば、発見的で創造的な生活というものが生み出せるかもしれない。
険しい地形の中腹にある世田谷の住宅街。そこに若い夫婦と子供4人の家族が新居を考えていた。周辺宅地のほとんどは、巨大なコンクリート壁で造成された均質な土地の上に家を建てる形式をとっていた。一方この計画地では、造成のお膳立てがなく高低差3.5mの荒々しい傾斜をもった大地が広がっていた。
そこで、大地をリノベーションすることから始めることにした。地形を活かすように小規模の掘削をたくさん行う。そこに生み出されたまばらな土の高さに合わせ、擁壁をその場所ごとに考える。すると、自然と人工の合作のような「5つの小さな擁壁」が建ち現れた。