平井充+山口紗由 / メグロ建築研究所が設計した、東京・調布市の店舗併用住宅「高脚楼」です。
“崖線”の上の敷地に計画されました。建築家は、中国の崖地に建つ伝統建築“吊脚楼”に手掛かりを得て、室内と“張り出す床版”が連続して“環境と呼応した広がり”を獲得する建築を考案しました。また、半屋外空間は既存の文脈と接続して街との関係も作ります。店舗の公式サイトはこちら。
この敷地は、京王線のつつじヶ丘駅と仙川駅の間を跨ぐ国分寺崖線の上にある。
近所には、地域の歴史を物語る緑豊かな実篤公園がある。クライアントは、崖線を支える擁壁の上に乗ったプレファブ住宅で洋菓子店を営んでいた。10年ほど前に、私たちが店舗の玄関廻りを改修し、斜面地の高さを生かして眺めの良い小さなバルコニーの席を作ったが、擁壁を登る狭い階段はベビーカーを推す母親たちにとって大きな障壁のままであった。
このプロジェクトが始まる少し前に、私たちは中国の重慶市にある吊脚楼という伝統的な住居の調査を行っていた。この住居は、揚子江沿岸の岩盤の斜面に張り付くように建てられていて、溢れ出す生活感とそれらが連なり圧巻の風景を作っていた。吊脚楼は、崖地に腰を掛けるように建てられて、せり出した部分を柱で支えるため、建物の下部に長い柱が現れるのが特徴である。
実際に重慶でみた吊脚楼は、近現代素材による長年のブリコラージュで新陳代謝を繰り返して混沌となっていたが、斜面に住むことの難しさと面白さが共存していた。崖側に並ぶ最小限の個室と対比的な見晴らしの良い動線を兼ねた共有の居場所は、相補的な関係によって生活に広がりを獲得していた。この調査の経験は、高脚楼の建ち方のヒントになった。
地中に埋まった1階(法的には地下扱い)はRC造となり、その上に木造の2層が乗っている。全てをRC造にしなかったのは、構造的な負荷やコストを抑えることもあるが、この場所にコンクリートの素材が高く立ち上がるのは強すぎると感じたからだ。森や林が広がる環境ならともかく、国分寺崖線は都市に辛うじて残された緑地帯なのである。擁壁としての1階とその上に乗る木造という関係を表現することで、斜面と建築の関わり方を明確にした。また、建物のヴォリュームを斜面に腰を掛けるようにセットバックさせることで重心を安定させている。
限定されたフットプリントゆえコンパクトに納められた室内は、建物から枝葉のように張り出した床版で環境と呼応した広がりを獲得している。この床版は、バルコニーの下に無理せず柱を建てて囲まれた居場所を作ることで、シンプルな室内と一体となった半屋外の居場所となり、生活空間をひと回り大きなものとしている。