中川宏文 / O.F.D.A.と山本稜 / Spicy Architectsが設計した、東京・千代田区の店舗「わかやま紀州館」です。
都心のアンテナショップの計画です。建築家は、多様な商品に起因する“大量の視覚情報”という前提に対し、全体に“橙色”を用いて“統一感を与える背景”となる空間を構築しました。また、地場の木材も多用し“豊かな香り”で通行人を店内へと誘うことも意図されました。店舗の場所はこちら(Google Map)。
和歌山県の首都圏アンテナショップ「わかやま紀州館」のリニューアルの計画である。
和歌山ならではの商品が並び、新たにイートインコーナーを設ける店舗として設計した。計画店舗は有楽町駅前の東京交通会館の地下1階の一角である。この施設の低層部には全国各地のアンテナショップが立ち並び、通行人の目を引くために様々な仕上げや看板で装飾が施されている。また、物産館という店舗形態は、幅広い商品を生産者から個別に仕入れるため、商品の品目やパッケージデザインが統一されておらず、どの店舗も大量の視覚情報で溢れている。
そこで、本計画では、多種多様な商品に統一感を与える背景をつくり、かつ通行人を店内に引き込むような要素を兼ね備えた店舗とすることを目指した。
取り扱う商品は和歌山県自慢の商品であるが、それぞれのパッケージの形、色やツヤは様々である。この商品の集積の印象が統一して魅力的にお客さんに伝わるように、背景に橙色を用いてコントロールをした。また、店舗スペース内の太いコンクリート柱には、橙色に塗装したメッシュで包むことによって目に留まりやすいファサードをつくった。
設計要件として特に重要視されたのは和歌山県の豊富な山林が育んだ紀州材を使用することであった。
紀州材は他の産地の木材と比較して、色合いや目合いが良く、素直で狂いが少ないのが特徴である。まるで山から切り出された木々が製材所に並んでいるかのように、シンプルに並べ、積み重ねることで材料そのものの美しさをストレートに伝えることを意識した。
メディアやインターネットの発展と共に視覚性優位が過剰になった現代において、紀州材のヒノキが持つ豊かな香りは臭覚を刺激し、店舗前を行き交う人々を店内へと誘い込む。