SHARE 神戸芸術工科大学”青木淳と建築を考える”の最終講評会のレポート
©神戸芸術工科大学環境・建築デザイン学科
2008年12月13日に神戸芸術工科大学にて、オープンスタジオ2008「青木淳と建築を考える」の最終講評会が行われた。見学を終えて感じたのは、この講評会が、私が見て知っている講評会とはまったく異なるものであるという事だった。
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学生が作品をプレゼンテーションし、青木が質問し感想を述べる。そのような講評会を私は想像していた。しかし、予想はいい意味で裏切られる。実際にここで行われたのは、前に挙げたような形式的な講評会ではなく、学生と青木淳によるエキサイティングな対話であった。それは、作品を一方的に否定したり批評するのではなく、青木が学生と共に案のプロセスや可能性を考え共に思考する、まさに「青木淳と建築を考える」というタイトルにふさわしい講評会であった。
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花田佳明が青木に対し「 自分の「観念」ではなく「知覚」を、これほど詳細に言語化した建築家がかつていたであろうか」※1と述べるように、青木は非常に鋭く建築を「知覚的」に分析する建築家であると言える。
その鋭い視線を感じることができるテキストが『はらっぱと遊園地2』の中の「図式の崩壊から」にある。そこで、青木は、2006年に訪れた、伊東豊雄設計のせんだいメディアテークを、公共建築に来たというより「すてきな公園に来たと様な感じ」と評し、その感覚の原因を自身の知覚から分析し見事に言語化している。
「網状鉄骨チューブの存在感は、その配置の仕方だけに現れているのではない。モノとしての存在感にも現れている。まず網状に組まれた鉄骨一本一本がごつい。溶接など接合のディテールも無骨だ。チューブを囲うガラスも、艶やかで柔らかい曲面のガラスではなく、多角形のガラスになっていて、たくましい。それに近いたくましさを持つのは、眼の上に広がる天井だけだ。それらは、そもそも、どのような内装を持ってしても帳消しにはならないほどにインフラ的にたくましい。その一方で、残りのモノには、対照的に、繊細さが徹底されている。内装は仮説的・家具的な設えのようだ。外装のダブル・スキンのガラス・スクリーンは、視覚的最小限という事が徹底されている。ガラスの自重を支える材は、それを最小限の太さまで細くするために、鉛直の吊りワイヤーになっている。風圧は、透明ガラスフィンに伝達されている。こうした強弱の大きな対比は網状鉄骨チューブや天井の存在感をいっそう高め、逆に、それ以外のモノの存在感をいっそう希薄にしている。その結果、ガラス・スクリーンが、感覚の中では、ほとんど消えてしまっている。開放感という以上に、室内という感じが消え、外と繋がる公園のような感覚が生まれる。想像してみればいい。もしも網状鉄骨チューブの極めて存在感の高い要素がなければ、この内部空間は単純な「ガラスの箱」として見え、公園的な感覚は生まれなかったはずだ。」※2
この青木の建築に対する詳細な分析力が、発表された学生の作品に対しても遺憾なく発揮されていた。青木は模型から読み取る事が出来ない実際の素材についても丁寧に質問し、その素材を使用した場合に生み出すことができる建築の感覚、違う素材を用いた場合に生み出すことができる感覚、を説明する。それは批評的でもあるのだが、同時に学生に模型の可能性を示す青木からのアドバイス・提案とも見ることができる。発表した学生は自身のアイデアを単に説明するだけでなく、青木との対話を通しその考えに触れ、自身の提案が持っている隠れた可能性についても思いを巡らせているようであった。
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また、この「青木淳と建築を考える」の最終講評会は、学生の作品をきっかけとして、青木淳という建築家の思考を垣間見ることができる格好の機会であったとも言える。それは、文章に込められている思考とは異なる、青木という建築家がモノを見たときに生み出す、一瞬の、生の、思考である。同じ空間でそれを体験する事は、非常にエキサイティングで有意義なものであった。
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この課題に参加し、最終講評の10人に選ばれた学生にとって、この「青木淳と建築を考える」が有意義であったのは間違いない。また、この課題に参加・応募した学生、ウェブ上に公開された青木淳と花田佳明の対話、学生との対話の読者にとっても建築を考える良いきっかけとなったはずである。花田によれば、この「青木淳と建築を考える」は、しばらく続ける予定であるという。この課題が開催される期間に「学生」である幸運な方は是非参加する事をお勧めします。
□引用
※1神戸芸術工科大学 環境・建築デザイン学科 花田佳明研究室http://hanadalab.exblog.jp/8931644/
※2 青木淳『はらっぱと遊園地2』p47-p48