SHARE 建築・芸術・産地のコラボレーションによる”文五郎倉庫”
陶芸産地・信楽のある窯元に存在した築50年の倉庫を改装した”文五郎倉庫“です。新しく生まれ変わった倉庫には、ギャラリーやレクチャールームといった機能が与えられています。
この建物改装については、総合ディレクションを、陶芸家の松井利夫、建築家の上田篤が行った。そして、内外装設計については建築家の田所克庸、上田篤(un voice一級建築士事務所)、グラフィックデザインについてはアーティストの八木良太、家具制作、展示企画・構成についてはアーティストの小山真有が携わっている。そして、施工・協力は株式会社 朝日ホームである。
また彼らは皆、京都造形芸術大学の教員でもある。それが、この建築・芸術・産地の垣根を越えたコラボレーションを実現する事ができた理由の一つになっているのだろう。
※現在、「文五郎窯歴代展 〜雑器に見る生活様式の変遷〜」を開催中。
http://www.bungoro.com/
信楽の小高い丘の坂道を登りつめると文五郎窯があります。この丘の上に窯が開かれ何世代にもわたり日用の雑器が焼かれてきました。食器はもとより甕や火消し壺、火鉢、植木鉢から風呂桶などこの窯場で焼かれてきたものを通してみると、わたしたちの生活環境の変化に気づきます。それがこの窯場から見えてくる風景です。
芸術が個人の主張で世界を閉じて行くなか、この窯場のものは使い手の側に寄り添い、日常に美を生みだす助けとなってきました。芸術とは美を主張するものではなく美を発見する技術だったということに立ち返り、そこから世界を読み解くなら、野良から産まれる野菜も味噌も蜂蜜もりっぱな芸術品です。そんな野良の芸術と作品を合わせて一つの「作物」として展開しようと古い倉庫を改修し文五郎倉庫が生まれました。この小さな倉庫が交点となり信楽の人々と訪れる人々をつなぎ新しい信楽のかたちが生まれてくることを願っています。
松井利夫
オープニング時外観*1
外観*2
room1内観*1 ※奥に見えるのは鋳込み用の泥貯めの凹凸の名残り
room2内観*1 ※ROOM3と接続している。
room2内観*2 ※この部屋は木製建具により完全遮光が可能。
room2内観*2 ※建具を閉じると部屋が区切られ同時にスクリーンが現れる。
room3内観*1
room2展示状態内観*2 ※ベンチや展示什器は工房での廃材使用により製作
room3展示状態内観*1
以下、プロジェクトに関するテキストです。
産地の斜陽化が各地で進む中、信楽においてもその状況は加速度を増している。現代に追従する流れもあるがそれはひとすくいの上澄みでしかなく、この地を支える大部分は沈殿を続けるハード、つまり遺産化する過去である。それらを再発見、再認識し、それぞれを新たな要素で町全体を繋ぎ合わせていくことが、産業(陶芸)を活用した新しい産地の形づくりとなるのではないだろうか。
そのきっかけとして「文五郎倉庫」が企画された。
陶芸産地・信楽のある窯元にある築50年の倉庫を改装した「文五郎倉庫」。倉庫は当時としては珍しかったであろうRC造で、多少の劣化はあるものの杉板型枠によるコンクリートの豊かな表情を持っていた。また、外壁には、過去四代の先人の手仕事の遺産とも言える泥の手形が象徴的に残る。これらの表情は最大限残し、必要箇所にパッチワークを施す「補修」を改装の基本方針とした。
この改装計画では倉庫の機能は維持しつつ、収納品の鑑賞が可能なギャラリー機能、産地とのコラボレーション可能なレクチャールーム機能が空間に求められた。
内装については、ジャンカやコールドジョイント等の不良箇所に元の杉板型枠に合わせた矩形状の左官を施しパッチワーク状の補修を行った。矩形面の配置はデザインされたものでなく補修必要箇所の分布となっている。既存壁面とそのパッチワークにより主となる展示空間は構成され、同時にこの空間に展示者へ能動的展示を求めるきっかけを備えた。
並列する三室の中央の部屋には遮光を目的とした建具を壁面補修と同素材の仕上げで三面に設けた。これらは自然光による劣化を防ぐ物品保存の目的と同時に、映像展示や映像利用のレクチャーを可能とし、既存空間にパッチワークすることでその表情の変容を試みている。
これら「補修」により、先代から続く時間の連続性を寸断することなく、これからの町をもパッチワークしていく拠点となることを期待している。
■プロジェクトチーム概要
建築主:文五郎窯(奥田文悟、奥田章)
総合ディレクション :松井利夫、上田篤
内外装設計:田所克庸、上田篤/un voice一級建築士事務所
グラフィックデザイン:八木良太
家具制作、展示企画・構成 :小山真有
施工・協力:株式会社 朝日ホーム
撮影
*1:田所克庸
*2:上田篤