



中村拓志&NAP建築設計事務所が設計した、東京・台東区の「上野東照宮神符授与所 / 静心所」です。
社殿に至る奥参道と祈りの庭の計画です。建築家は、腐朽の為やむなく伐採された大樹の蘇生を意図し、シェル構造の屋根架構を考案して部材として活用しました。そして、参拝者を包み込み瞑想を導く空間をつくる事を意図しました。施設の公式サイトはこちら。
上野東照宮社殿に至る回廊型の奥参道と、樹齢600年超の御神木を中心とした祈りの庭の設計である。
参道に架けた二枚の片流れ屋根の建築の一つは、お守り等を授与する「神符授与所」、もう一つは拝観前に御神木と対面して心を清め落ち着かせる「静心所」である。
神符授与所は商業性を排し、拝殿の一つとして設計した。巫女の背景となる大きな窓からは、社殿を囲う二重菱格子の透塀と奥参道を臨むことができる。社殿で清められた神符が巫女によって運ばれ、ここで授与されるという儀式性を空間に込めている。屋根は透塀の結界性を踏襲して、その下が神聖な空間となるように意図したニ重菱格子構造である。垂木の一方の軸を社殿と日光東照宮を結ぶ真北方向に、もう一つの軸を久能山東照宮のある駿府に振っている。
静心所の屋根架構材は、この場所で長らく防火樹として社殿を守ってきた大イチョウである。
倒木のおそれがあるためにやむなく伐採されたものであるが、枝葉を広げたような屋根としてイチョウを蘇らせようと考えた。
ただし腐朽による空洞化が著しく長径材が量的に確保できないため、最小断面60mm角に乾燥した製材を用いて屋根を構成する必要があった。
そこでシェル構造によって剛性を高めた間口12m、長さ3mに軒を支点からはねだし、反対側をやじろべえのように引っ張ることで、御神木側に柱が一切落ちない空間とした。
座する一人ひとりの頭上を包み込むヴォールト屋根は、意識を自己へと向けさせ、社殿を敬うようにこうべを垂れる軒先は、瞑想時の半眼や祈りを導くだろう。振り返ると、壁のスリットから芽吹き始めた大イチョウの切り株が目に入る計画となっている。