杉本博司がデザインして、京都市京セラ美術館に展示されている「硝子の茶室 聞鳥庵(モンドリアン)」で、茶室披きを行っている動画です。この茶室は2014年のベルサイユ宮殿での杉本の展覧会時に最初に公開されました。
京都市京セラ美術館開館記念展「杉本博司 瑠璃の浄土」関連プログラムとして、日本で初めて公開される《硝子の茶室 聞鳥庵(モンドリアン)》の「茶室披き」を開催しました。亭主に武者小路千家家元後嗣の千宗屋を迎え、正客は杉本博司がつとめました。
In conjunction with the exhibition, “HIROSHI SUGIMOTO-POST VITAM,” a tea ceremony was held at the Glass Tea House “Mondrian” for the first time in Japan to commemorate the inauguration of the tea house at the museum. It was hosted by Sen So’oku, heir to the Mushakouji Senke tea school and Hiroshi Sugimoto was his guest.
以下はコンセプトテキストです。
日本では16世紀以来、社会的地位を得て、かつ教養を持つ者は茶の湯を楽しむという習わしがある。ただ一服の茶をたて、客をもてなすという日常的な行為を、芸術にまで昇華させたものだ。茶の湯は客をもてなすという一事に細心の注意を払う。狭い空間に素晴らしい絵画又は書が一点かけられる。そしてその絵画や書に呼応するように花が床に添えられる。茶を喫する茶碗には、その形と色に特に厳しい審美眼が注がれる。そして亭主が茶をたてる所作はニジンスキーの舞のように優雅でなければならない。
茶の湯、そこには西洋で言われるアートの要素すべてがある。所作(ダンス)、軸(ペインティング)、碗(スカルプチャー)、湯のたぎる音(音楽)そして茶室(建築)。それらすべての要素がお互いに深く係わり合いながら、渾然として一つとなってある。
茶室には空間を詩的に見立てた呼称が必要とされる。私はこの硝子の茶室が組み上げられた時、その姿がモンドリアン絵画の構成と呼応していることに驚きを覚えた。抽象への希求は茶の湯の歴史の内にすでに三百年を経ている。茶の湯美学の完成者、千利休は、その現存する茶室「待庵」の壁面構成と庭石の配置に関して、モンドリアン的抽象をすでに試みている。もちろん私の茶室設計も圧倒的な利休の影響下にある。私はモンドリアンという名の韻を日本語に置き換えてみた。すると「鳥の声を聞く小部屋」という意味になった。私はこの茶室は私の意識の中で、モンドリアンが利休の声を、鳥の声として聞いたことによって完成したのだと思った。