SHARE 宮崎晃吉 / HAGI STUDIOの設計で完成した、東京・新宿区の「OZONEカタログライブラリー」をフォトレポート
宮崎晃吉 / HAGI STUDIOの設計で完成した、東京・新宿区の「OZONEカタログライブラリー」をフォトレポートします。文章は設計者に提供いただいたものを掲載します。施設の公式ページはこちら。
新宿パークタワーに東京ガスコミュニケーションズ株式会社が運営するLIVING DESIGN CENTER OZONE(以下OZONE)の「OZONEカタログライブラリー」の移設プロジェクトです。
7階で運営していたカタログやサンプル展示、企画展機能をもつ「CLUB OZONEスクエア カタログライブラリー」と、建築関連書籍の閲覧を提供する「ビジネスラウンジ&ライブラリー」の一部の機能を統合させて3階に移動し、より多くの方々に利用していただける施設として、OZONE全館のリニューアル計画における一施設としてオープンしました。
網羅性から偶発性へ
従来のカタログライブラリーは、1994年の開館以来、建材・住関連各社のカタログを網羅的に揃えるライブラリーとして多くの建築家やインテリアデザイナーなどに利用されてきました。一方で近年のカタログのデジタル化により、網羅性や検索性においてはインターネット上で十分に代替できるようになっており、その役割に時代に則した変化が求められていました。網羅性/検索性が求められている時代のライブラリーは検索のしやすさが最も優先されるため、カタログは統一したファイルカバーに包まれ整然と陳列されていました。一方で網羅性/検索性が第一優先事項でなくなったときに価値として浮かび上がってくるのは予期せぬ商品との出会いや、商品そのものだけでなく作り手の社風や目指している社会像など、その商品の背景にある人の目線が伝わることです。これは現代の書店や図書館などにも共有される問題意識ではないかと思います。
コミュニティ体としてのライブラリー
この問題系のなかでの一つの実践として我々が取り組んでいたものとして、「西日暮里BOOK APARTMENT」が参照されました。このプロジェクトには吉祥寺のBOOK MANSIONがさらに参照されているわけですが、既存の書店のように一人の書店主が全体を統合するのではなく、一棚単位で多くの書店主が書籍を販売するその名の通り「本の集合住宅」のような書店です。ここでは多くの書店主が共存していることにより、書店主相互の交流なども重要な要素になっています。そこで、本プロジェクトにおいてはメーカーが一棚単位で借りることができ、棚の中に自由に表現できる空間を提供することで出展者の能動性を引き出したコミュニティ体としてのカタログライブラリーとして生まれ変わらせることとなりました。
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以下、建築家によるテキストです。
新宿パークタワーに東京ガスコミュニケーションズ株式会社が運営するLIVING DESIGN CENTER OZONE(以下OZONE)の「OZONEカタログライブラリー」の移設プロジェクトです。
7階で運営していたカタログやサンプル展示、企画展機能をもつ「CLUB OZONEスクエア カタログライブラリー」と、建築関連書籍の閲覧を提供する「ビジネスラウンジ&ライブラリー」の一部の機能を統合させて3階に移動し、より多くの方々に利用していただける施設として、OZONE全館のリニューアル計画における一施設としてオープンしました。
網羅性から偶発性へ
従来のカタログライブラリーは、1994年の開館以来、建材・住関連各社のカタログを網羅的に揃えるライブラリーとして多くの建築家やインテリアデザイナーなどに利用されてきました。一方で近年のカタログのデジタル化により、網羅性や検索性においてはインターネット上で十分に代替できるようになっており、その役割に時代に則した変化が求められていました。
網羅性/検索性が求められている時代のライブラリーは検索のしやすさが最も優先されるため、カタログは統一したファイルカバーに包まれ整然と陳列されていました。一方で網羅性/検索性が第一優先事項でなくなったときに価値として浮かび上がってくるのは予期せぬ商品との出会いや、商品そのものだけでなく作り手の社風や目指している社会像など、その商品の背景にある人の目線が伝わることです。これは現代の書店や図書館などにも共有される問題意識ではないかと思います。
コミュニティ体としてのライブラリー
この問題系のなかでの一つの実践として我々が取り組んでいたものとして、「西日暮里BOOK APARTMENT」が参照されました。このプロジェクトには吉祥寺のBOOK MANSIONがさらに参照されているわけですが、既存の書店のように一人の書店主が全体を統合するのではなく、一棚単位で多くの書店主が書籍を販売するその名の通り「本の集合住宅」のような書店です。ここでは多くの書店主が共存していることにより、書店主相互の交流なども重要な要素になっています。そこで、本プロジェクトにおいてはメーカーが一棚単位で借りることができ、棚の中に自由に表現できる空間を提供することで出展者の能動性を引き出したコミュニティ体としてのカタログライブラリーとして生まれ変わらせることとなりました。
全体計画について
今回移設先となるOZONE3階の吹き抜けロビーはOZONEの施設内でも中心的な存在の場所です。従来はイベントや企画展のためのスペースとして使われてきました。3階から5階までの10.7mの天井高を持つ巨大な吹き抜けが特徴で、自ずと4階5階のバルコニーからも俯瞰されることを意識することになります。また、3階はOZONEのエントランスロビー階でもあることから、プロユーザーにとどまらず一般のエンドユーザーの目にも触れやすい場所です。「カタログ」という機能的な図書と不特定多数の偶発的な視線をどのうように調停していくのかという点も重要になります。
計画段階においては、まず予定された収蔵量をいかに限られたスペースのなかに収めるのかが課題となりました。まず片面にカタログ棚、反対面に建築図書やサンプル、情報棚を想定した帯のようなものを想定して、それをスペース内に折り曲げながら入れ込んでいくことで、棚の表面積の最大化と余剰空間のバランスを検討しながら進めました。こうしていくことで、一筆書き状の本棚の内側はカタログ棚に囲まれたコーナーが形成され、外側は通路に対するニッチ的な空間として建築図書やサンプルコーナーが形成されます。
本棚は小さな棚に区切られた1820x910x600の「ボックス」を重ねるような構成としました。これらの「ボックス」が上下でずれながら重なる関係を保ったまま連続していきます。
角地である区画の特徴を考えると各方面からのアクセスを十分に確保する必要があるため、幅1200mmを確保するメイン導線と、幅650-900mmのサブ導線を棚に空けていくことになります。本棚全体はボックスが重ねられた構成になっているため、穴が穿たれているというよりはボックスの間を抜けていくように体感されます。アイレベルでの迷路性と、視線の抜けに対する吹き抜け上からの俯瞰による全体性が対称的な知覚をもたらしています。
寸法体系について
棚は24mmのラワンベニアで構成されています。最小単位である一棚(XS棚)の内法寸法は419x419x450mmとしました。規格寸法での歩留まりの良さを意識しつつ、通常の図書よりも大きいカタログに合わせた寸法となっています。 XS棚が横4列縦2段で一つの「ボックス」を形成することとし、外周の側板以外の仕切り板はすべて可動になっています。また1つ目のボックスの天板は閲覧台としても使用されることや、区画内の段差を考え、適切な高さとなるように設定しました。奥行きは内側のカタログライブラリーは450mm、外側は102mmです。それぞれの側に表情に変化をもたせるために、内側は小口を白のメラミンシート貼、外側は背板を黒のメラミンシート貼としました。
棚の種類はS棚(419×419)、M棚(419×862)、L棚(862×862)とあり、これらはボックスから仕切板を抜いていくことで大きさを変えることができ、利用料も場所と大きさに応じて決められています。仕切り板同士の接する部分には溝が切られており、工具を使用せず施設スタッフによって運用できるようになっています。
今回ロゴやサイン計画なども手掛けました。一筆書き状にならんでいるとはいえ、迷路的に空間が分節されているため、カテゴリーの分類と位置に関しては大きなサインで分かりやすく明示しています。回遊性をもった全体性はOZONE自体の縮図のようでもあり、暮らしの領域全体につながるたくさんの入り口のようにも見えます。
実際に入居が始まってみると、展示方法をカスタマイズした棚や、内壁の色を変えた棚、照明を設えた棚など、それぞれの創意が表現され始めています。能動性を促しつつ、調和のとれた全体性を確保するためのルールをどのように運用していくのかが、これからこの場所が豊かな交感性を保っていく助けになると考えています。
■建築概要
題名:OZONE カタログライブラリー
設計:株式会社HAGI STUDIO 一級建築士
担当:宮崎晃吉+田坂創一
所在地:東京都新宿区西新宿
主用途:ライブラリ
階数:3階
延床面積:360.89㎡
構造:家具什器(木製)
竣工:2020年8月
企画:LIVING DESIGN CENTER OZONE
プロデュース:東京ガスコミュニケーションズ