出町慎 / SAJIHAUSと河津恭平が設計した、兵庫・丹波市の「納屋の改修」です。歴史ある母屋に隣接する納屋活用の相談から開始、既存の時が停止した様な状態を肯定的に捉えて活かす方法を構想、環境を読み解き冬室と夏室を設け“自分だけの時間”を感じる空間をつくる事が意図されました。
空き家になっていた古民家を買われた方から、母屋に隣接する納屋の使い道を相談されたのが設計の始まりだった。
訪問してまず、立派なお屋敷であることに驚いた。山裾の見晴らしの良い場所で、敷地の南側には日本庭園があり、母屋の座敷からの眺めは、まさに古き良き日本の住まいだった。母屋には家史が残されていて、450年前に先祖がこの地に移ってきたことが書かれていた。
敷地内には400年の記念碑も立っている。家史には初代から1995年当時までの家系図と一人ひとりの略歴がまとめられていた。そして納屋は母屋の西側にひっそりとあった。そのひっそりさがとても良かった。堂々とした母屋と庭を邪魔することなく、外被のトタンは時間による風化でその場所に馴染んでいた。夏の眩しい外から、納屋に入ると桁と垂木のわずかな隙間からの光により、柱と小屋組がシルエットとして見えるだけだった。
そんな陰影の空間で入口に向かって涼しい風が流れていた。田舎には使われなくなり、そのまま放置されている建物が多くある。その中は時間が止まっていて、そのままでは近寄りがたいが、時間が止まっていることや用途がない状態は考え方によっては貴重である。この納屋もそんな状態であり、この状態のまま人が寄りつける場所にできないかと考えた。