湯谷紘介 / 湯谷建築設計が設計した、三重・度会郡の「玉城の家2」です。風雨が特徴で仏壇設置や葬祭時の集合への対応の要望に、雨仕舞を考慮する地域建築文化を引継ぐ大屋根の外観を計画、内部では開口・天井・円弧壁の操作により公私が段階的に変わる大空間をつくりました。
三重県伊勢市の隣町である度会郡玉城町ののどかな集落に建つ住宅である。
本家としての母屋の建て替え計画であるため、仏壇の設置と、葬祭時に集落の人々が30人ほど集まることができる一室空間が求められた。また宅地内で親世帯住居に隣接し、子育てや農作業を助け合うことも想定された。
伊勢志摩地方は「下から雨が降る」と言われるほど風を伴う雨が多く降る地域であり、雨仕舞を考慮した形態で固有の建築文化が継承されている。軒やけらばの出の深い切妻の大屋根とすることで、その地域の文化と慣習を引き継ぐ現代的な民家の佇まいとした。
集落の住人との交流も見込むこの住宅において玄関や南面の大きな開口は、“地域と家族の公共”に開かれている。玄関から室内へ入ると、手の届く高さの天井、南に面する小上がりの大開口出窓、円弧壁が、内と外の環境や親世帯の母屋との多様なレイヤを繋げている。また、円弧壁は奥に進むにつれて緩やかに“公”から“私”へといざなう役目も担う。
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以下、建築家によるテキストです。
三重県伊勢市の隣町である度会郡玉城町ののどかな集落に建つ住宅である。
本家としての母屋の建て替え計画であるため、仏壇の設置と、葬祭時に集落の人々が30人ほど集まることができる一室空間が求められた。また宅地内で親世帯住居に隣接し、子育てや農作業を助け合うことも想定された。
伊勢志摩地方は「下から雨が降る」と言われるほど風を伴う雨が多く降る地域であり、雨仕舞を考慮した形態で固有の建築文化が継承されている。軒やけらばの出の深い切妻の大屋根とすることで、その地域の文化と慣習を引き継ぐ現代的な民家の佇まいとした。
集落の住人との交流も見込むこの住宅において玄関や南面の大きな開口は、“地域と家族の公共”に開かれている。玄関から室内へ入ると、手の届く高さの天井、南に面する小上がりの大開口出窓、円弧壁が、内と外の環境や親世帯の母屋との多様なレイヤを繋げている。また、円弧壁は奥に進むにつれて緩やかに“公”から“私”へといざなう役目も担う。
施主の要望である各諸室や広さを尺寸法でまとめあげると、雁行配置された西側水回り群と、東側個室群に挟まれる谷間のような吹き抜け空間が生まれた。そこに仏壇が設けられることで心理的にも物理的にも中心性を持ち、地元左官職人の漆喰壁が用いられた静謐な居場所となった。
風土やクライアントに寄り添う建築であるべき一方、伊勢神宮の緻密に計算された参道のように、五感を刺激する新たな発見があるような建築を目指している。住空間においても、空間と素材の粗密・陰陽・手前と奥・回遊性や場面転換を織り成すことで、その時ごとに人々に寄り添える居場所が見つかり、日々の暮らしの中での移ろう発見を積み重ねられる設計をしていきたい。
故人を弔う場所を内包することが計画の出発点であるなか、施主家族には新たな家族が産まれた。人が生を全うすることに寄り添うための住宅となることを願っている。
■建築概要
建築名称:玉城の家2
家族構成:夫婦+子供2人
用途:専用住宅
規模:地上2階建て
住宅の構造:木造在来工法
設計:湯谷紘介、小山祐輔 / 湯谷建築設計
英文事務所名:YUTANI ARCHITECTS
構造設計者:柳室純構造設計 担当/柳室純
施工会社:宇田工務店 担当/宇田和人
敷地面積:673.45m2
延床面積:128.89m2(容積率19.14% 許容200%)
建築面積:113.44m2(建蔽率16.85% 許容60%)
工事期間:2019年2月~2019年10月
竣工写真撮影:ToLoLo Studio