SHARE 佐藤研吾による、“ときの忘れもの”での建築展「群空洞と囲い」の会場写真 / 石村大輔によるレビュー「見たことのないカタチの捉え方」。現場に滞在しての建築施工等のアプローチで知られる建築家の彫刻作品等を展示
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- 2022年3月25日(金)–4月3日(日)
建築家の佐藤研吾による、東京・本駒込のギャラリー“ときの忘れもの”での建築展「群空洞と囲い」の会場写真です。本記事では会場を訪問した、建築家の石村大輔によるレビュー「見たことのないカタチの捉え方」も掲載します。
現場に滞在しての建築施工や什器製作等のアプローチで知られる建築家の彫刻やドローイングの作品が展示されています。会期は2022年4月3日(日)まで。展示の公式ページはこちら。作品の写真は、こちらのページでも紹介しています。
佐藤研吾によるステートメント「群空洞と囲い」
空海による教風が確立された密教を純密と呼ぶのに対して、それ以前の有象無象の密教を雑部密教、雑密と呼ぶことがある。雑密は、地場の神信仰と結合し、体系化されずに断片的かつ同時多発的に生まれ出た、私度の僧による信仰であった。
雑密の内で制作された一木彫の仏像には、当時の腐敗した仏教界、社会全体に怒りの念を表明する、屹立とした荒々しさがあった。おそらくは木彫でないと表現できないような、ドップリと大らかに構えた量感ある異様な造型感覚が注入されていた。
歴史の中では古代から中世への転形と言える束の間の造型であったのかもしれないが、正統に対する異端、中心に対する外縁が担わざるを得ない先鋭性がそこにはあった。造型の極北として、外縁から生まれ出た必然として、雑密仏は再考される必要がある。
そんな、夢想に近い、1000年前の制作への思考を、私は東北地方の片田舎で巡らせている。地域圏は違うが、自分自身が在地社会に身を置いたことで、雑密仏に込められたような外縁としての造型感覚を突き詰めて考えることができるかもしれないと考えた。それは、移動が制限されていた昨今のコンディションによってさらに強く思うに至った。
東北では比較的容易にクリの丸太が手に入る。寒冷地の利であるとも言える。そしてクリの丸太に空洞を彫り抜く。空洞を彫るのは、これが同時に建築の縮減模型の役割も果たすからだ。そして、彫った空洞に鉄をまとわり付かせ、自立させる。自立した空洞は、家具、あるいは何かを囲い込むための道具として、ヒトの生活圏のどこかに位置付けられる。鉄とクリの取り合いは重要な関心事である。なぜならばこの空洞は、ある種の開口部にまつわる実験でもあるからだ。入口と出口。空洞はその形式故に必ずある方向性が定められる。そして方向を持った複数の空洞が、古寺に集結する雑密仏の如く群居し、揺蕩う煙のように微かに連続する風景を企てる。
(佐藤研吾 2021年12月)
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石村大輔によるレビュー「見たことのないカタチの捉え方」
佐藤さんの建築は毎回難解で読み解くのが難しい。
どう読み解けば良いか、どう感じれば良いかいつも考えさせられる。
何故そんなことを感じるのか考えてみると、佐藤さんの建築は毎回見たことのないカタチが内在し、それらが空間をカタチづけていることが理由の一つではないかと展示をみて気がつきました。
例えばBUoYの大きな扉は扉だと言わなければ扉だと言うことを認識できない。
取手のようなモノがついているので扉としてかすかに振る舞っているようにみえるが初見の人は恐らくこれが扉だとは思わないだろう。
普通の扉ならレバーハンドルが付いているので視界に入った瞬間にこれは扉だと認識する。
しかし、この扉らしきモノは扉のように振る舞っていないのでその存在を人に委ねる。僕も何も知らない状態でこの扉らしきモノを見たときは扉としてではなく壁に付属するインテリアもしくは誰かの作品だと思っていました。
僕の場合、建築に必要な要素をインテリアに紛れ込ませ空間からノイズをなくす方向に思考が向かうが、佐藤さんの場合は全然違うらしい。
「佐藤研吾展 群空洞と囲い」に出展されている作品はインドから続く佐藤さんの思考を感じられる展示になっています。今回展示されている作品も実は機能があるらしく、教えて貰うまで(今回も)気が付きませんでした。
恐らく佐藤さんは僕らが盲目的に理解しているカタチや機能を問い直している、BUoYの扉らしきモノもそんな試みの一つだったのではないかと展示をみて気がつき、少しだけ佐藤さんの思考に触れることができたと思いました。
ちなみに展示しているスペースは阿部勤さんが設計した建物でよく見ないとわからないディテールが沢山散りばめられています。建物の作り方は佐藤さんと全く違う思想でできていますが、その中で佐藤さんの作品はイキイキと振る舞っているように見え、なんだか嬉しくなりました。
石村大輔
1988年東京都生まれ。2014年東京理科大学工学部第二部建築学科卒業。2014-2019年駒田建築設計事務所勤務。2017年Ishimura+Neichi共同設立。主な作品に『加藤邸』、『Senju Motomachi Souko』、『Lifft Concept Shop』など。
■展覧会概要
佐藤研吾展 群空洞と囲い
会期:2022年3月25日(金)~4月3日(日)11:00-19:00
※会期中無休
場所:ときの忘れもの 東京都文京区本駒込5-4-1 LAS CASAS