SHARE 玉井洋一による連載コラム “建築 みる・よむ・とく” 第7回「立面の発掘」
建築家でありアトリエ・ワンのパートナーを務める玉井洋一は、日常の中にひっそりと存在する建築物に注目しSNSに投稿してきた。それは、誰に頼まれたわけでもなく、半ばライフワーク的に続けられてきた。一見すると写真と短い文章が掲載される何気ない投稿であるが、そこには、観察し、解釈し、文章化し他者に伝える、という建築家に求められる技術が凝縮されている。本連載ではそのアーカイブの中から、アーキテクチャーフォトがセレクトした投稿を玉井がリライトしたものを掲載する。何気ない風景から気づきを引き出し意味づける玉井の姿勢は、建築に関わる誰にとっても学びとなるはずだ。
(アーキテクチャーフォト編集部)
立面の発掘
商業エリアの角地に建つ4階建てのビル。1階のシャッターは閉まっていたが、時計、宝石、メガネを売る店舗で他店とは異なる端正な立面が目を引いた。
まずは、交差点に向けられた三層に渡る入隅窓である。建物にとってのジュエリーのような装飾性を感じる窓だ。縦長のブラックガラスがアイストップになるとともに立面を引き締める。入隅型の窓としたことで外壁の厚みが薄く見えるところも良い。そんな壁の小口に「OMEGA」の箱文字が縦に並ぶ。
それに対して1階は敷地の隅切り形状を無駄なくそのまま立ち上げている。隅切りはショーウィンドウを交差点側に広く印象づけるとともに歩行者と建物の接触時間を稼ぐ。また、それは建物の長手にも短手にも属さない中立的な立面を形成し、交差点のどこからでも見えやすいということで、店舗へのメインエントランスになっている。
長手立面には高さを揃えたポツ窓が反復する。引違い窓、はめ殺し窓、ガラスブロック窓が規則正しく並ぶ。よく見ると入隅窓の横桟は窓の高さを参照して決められたようだ。短手立面の窓のない壁面は縦目地で5分割しそれに応答するように「SEIKO」の5文字が並ぶ。屋上の給水タンクを囲む縦格子も透け感があって面白い。
立面としていくつか特徴のある部分を見てきたが、角地の特殊性と立面の関係性を深読みしたくなる建物である。日用品や食料品とは異なる、いわゆる「高級品」を取り扱うビルとしての品格や気概が細部に感じられる立面であった。
ところで、このビルの1階にはかつて歩行者用のアーケードがあった。つまり、竣工から長い間、1階とそれ以外の階には立面における「分断」があったというわけだ。
アーケード時代はビルを一望することは不可能だったが、老朽化などによるアーケードの撤去に伴い、ビルの立面がついに「完成」したのだ。
アーケードの存在がどれくらい立面の設計に影響したかはわからないが、アーケードが消えゆく地方都市では立面の再発見があり得ることを示唆しており、建築学的にも文化人類学的にも興味深いのではないだろうか。
解体される都市で再発見される立面。立面の発掘が始まる。
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玉井洋一
1977年愛知県生まれ。2002年東京工業大工学部建築学科卒業。2004年東京工業大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了。2004年~アトリエ・ワン勤務。2015年~アトリエ・ワン パートナー。