SHARE フォルム・木村浩一建築研究所による”展開する家”
以下、建築家によるテキストです。
展開する家
30代夫婦のための住宅である。
この住宅を設計する際にクライアントから次の要望があった。
「リビングに接続する和室を設けること」 「和室に仏壇を置くこと」
この二つの条件は、私に”和”の空間を強く想起させるものであった。この感覚を、建物全体を構想する出発点とし、この住宅は設計された。
恵まれた広い敷地を活かして、建物を平屋建てとし、中庭を取り囲んだプランを計画した。
平屋建ては、庭園を鑑賞する和の空間として日本人の美意識が反映する建て方である。
内部では、リビングと和室を、直接中庭に面するのを避け配置した。それによって、”和”を感じさせる、間接的な光のみが入る薄暗い空間としている。
それは、光あふれる中庭への期待感を演出するためでもある。リビングを抜けた奥にあるダイニングに辿りついて初めて、中庭の明るい光を感じることができるのである。
対照的に、ダイニング、寝室、洋室、浴室は直接中庭に面しており、充分な光をそれぞれのスペースに取り込むことができる。
日本庭園を抽象化したような中庭は、慎重に配置された自然石と、外壁から垂直に伸びる塔が特徴となっている。
この二つの要素は、室内からの人の視線を受け止め、建物の外部に広がる日常的な風景に意識が向くことを防いでいる。
この住宅では、中庭と各部屋の関係を注意深く考え、その位置を決定している。
中庭からの導線が、ひとつの建物の中に様々な感情を持つ”和”の空間を展開していくのである。