
SHARE 【ap編集長の建築探索】vol.014 ウルトラスタジオ「上原坂道のマンション」

「ap編集長の建築探索」は、23年の歴史ある建築ウェブメディア「アーキテクチャーフォト」の編集長である後藤連平が、訪問した建築を紹介する連載シリーズです。論考のようなかっちりとした形式ではなく、現地で感じた雰囲気や空気感が伝わるような“ライブ感”のある文体で綴ります。読者の皆様も自身が建築を体験するように読んでいただければ幸いです。
ウルトラスタジオ「上原坂道のマンション」
ウルトラスタジオによる都内の集合住宅を拝見した。
都内の集合住宅は様々なものを拝見しているけど、内外ともに建築的にやりきった、、、!という感覚が現地にいた誰もに伝わっていることが分かる力作で、(現時点での)彼らの代表作と言える建築で、圧倒された、、、、!
集合住宅には、コーポラティブや分譲など様々な形態があるけれどもこれは賃貸集合住宅。
図面を見ても現地を体験しても、最初に意識させられるのは、住戸内に高低差があること。その段差を上手く使ったプランニングが、暮らしの可能性を広げることが予想できるつくりだった。
この各階のスラブに高低差のある計画は、お施主さんの駐車場を組み込みたいという要望と高さの制限の中で生まれたのだそう。4層が重なる部分と、気積の大きさを優先した三層で構成した部分が組み合わさっている。
要望を起点とした条件をまるで意図的にそうしたかのような手つきで計画がなされていて、その設計の手腕に唸らされる。
一番印象的だったのは、ウルトラの代表3人や、現地で会った様々な建築家とも立ち話をしていたのだけれど、この建築を体験して発する感想のその視点や切り口が、本当に皆違うということ。
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僕自身は、リノベ以後の日本の設計手法の影響や、平面構成の中における、階段などが収められていて構造も担っている円形の筒の存在が果たしている役割などが、気になってその辺りのことを考えていたのだけれど、別の建築家は、歴史的建築の参照を見出していたり、ある人は近隣にあるイスラム的な建築との関係をレリーフに見出していたり、内見に来た人はレトロ感に好感を持ったりと、本当に様々な感想を語っていた。
どこからどう見てもウルトラスタジオの建築なのだけれど、見る人に、多様な解釈を引き出すような連想性させる力を持った作品だというのが、この建築の1番の特異点のような気がした。
内外に施されたレリーフ状の装飾がそれを象徴しているようにも思えるのだけれど、謎めいた状態でデザインを留めることや、色や素材などを制限せず多用していく姿勢も、単一の解釈に収束させないという状況の構築に一役かっているとも思えた。
その昔、美術ジャーナリストの村田真さんが、『美術手帖』の川俣正特集の中で、書かれていたのだけれど、川俣正が評価されたのも、その作品が解釈の多様性を引き出すものだったからだそうだ。
ある人は、もの派の文脈で作品を捉え、別の人はまた異なるアートの文脈で捉えるような、多様性があったという。
また、時代を超えて語り継がれていく建築にもそのような性質があると思っていて、コルビュジエの建築なども時代を超えて色々な観点で語り続けられるのはそれが理由だと思う。
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ここまで、建築的な意味を語るような文章を書いてきたのだけれど、忘れてはいけないのは、ウルトラスタジオの建築は、シンプルに住むということの楽しさや快楽も同じような精度で追求されているということ。
この建築を見て回っている時にも、思考から離れて、心が気持ちよさや楽しさを感じるシーンや空間が沢山あった。
そのような、建築的であることと暮らしの価値観がひとつの建築に重なって実現しているところも、僕自身がウルトラスタジオの建築を個人的に好きなところだとも改めて感じた。
お施主さん、ウルトラの皆さん、ご竣工おめでとうございます!
(訪問日:2025年12月7日)
後藤連平(ごとう れんぺい)
アーキテクチャーフォト編集長
1979年、静岡県磐田市生まれ。2002年京都工芸繊維大学卒業、2004年同大学大学院修了。組織設計事務所と小規模設計事務所で実務を経験した後に、アーキテクチャーフォト株式会社を設立。23年にわたり建築情報の発信を続けており、現在は、建築と社会の関係を視覚化するウェブメディア「アーキテクチャーフォト」の運営をメインに活動。著書に『建築家のためのウェブ発信講義』(学芸出版社)など。
