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【ap編集長の建築探索】vol.015 日吉坂事務所「KITAYON KADO」

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architecture|feature
ap編集長の建築探索商業ビル寳神尚史後藤連平日吉坂事務所杉並区東京論考
【ap編集長の建築探索】vol.015 日吉坂事務所「KITAYON KADO」外観、北側の道路より見る。 photo©rem goto

「ap編集長の建築探索」は、23年の歴史ある建築ウェブメディア「アーキテクチャーフォト」の編集長である後藤連平が、訪問した建築を紹介する連載シリーズです。論考のようなかっちりとした形式ではなく、現地で感じた雰囲気や空気感が伝わるような“ライブ感”のある文体で綴ります。読者の皆様も自身が建築を体験するように読んでいただければ幸いです。


日吉坂事務所「KITAYON KADO」

TEXT:後藤連平

 
寳神尚史さんが主宰する日吉坂事務所が完成させた西荻窪の商業ビル「KITAYON KADO」の内覧会を訪問した。

内覧会とはいえ、既に各階のテナントさんが入居されており、稼働している状況で拝見できたのも良かった。

まずもって、この建築で伝えておきたいのは、設計だけでなく、日吉坂事務所が事業主であるということ、、、、!
事業計画を立て、土地を手に入れて、設計して貸すという一連を建築家が行なっているのである。これは、本当にすごいなと思う。

この「KITAYON KADO」の向かいには、2017年に同じく日吉坂事務所が完成させた「KITAYON」という商業ビル(賃貸住戸も内包)があり、こちらも同じく事業主でもある。
つまり、日吉坂事務所による二つの建築が向かい合って建っている。

余談なのだけど、この一棟めの「KITAYON」を建築雑誌で見たときに、一行だけで小さく「設計者が事業主でもある」というニュアンスの記述があり、当時大きな衝撃を受けたことは今でも憶えている。
建築家が設計の前後に関わったり、設計と異なるビジネスを複合して行うということが、現在では普及しつつあるが、それを先駆的に行なっていたのが寳神さんなのだ。

今日も寳神さんとそのエピソードを振り返るような話をさせて貰ったのだけれど、当時は、専門誌の誌面上で事業主でもあることを公表することに、少なからぬ躊躇もあったとのこと。建築家は形や空間をつくる専門家であるという感覚が今よりも強い時代だったのだろうと思う。これは、時代の感覚の記録としても意味のあるエピソードのように思う。

以下の写真はクリックで拡大します

【ap編集長の建築探索】vol.015 日吉坂事務所「KITAYON KADO」「KITAYON KADO」の東側から通りを挟んで、1棟目の「KITAYON」を見る。 photo©rem goto
【ap編集長の建築探索】vol.015 日吉坂事務所「KITAYON KADO」外観、北側の道路より見る。 photo©rem goto

話を本建築に戻そう。
「KITAYON KADO」は鉄骨造で、建築面積約40m2の小さな商業ビルであり、一階にクッキーの販売店舗、二階にカフェを併設したギャラリー、三階に植物の販売も行うギャラリーが入居している。

上階には、隣地側に設けられた階段でアプローチするのだけれど、この階段空間が実に豊かで驚く。隣地建物の外壁の質感が生かされていたり、奥側の敷地への視線の抜けが作られていたりして、ワクワクした高揚感が生み出されている。

そう考えて、「KITAYON」を含むこれまでに経験した日吉坂事務所の建築を振り返ると、どの作品もこのような細長い空間が特徴であったことに気づく。建築スケールで言えばスリット、都市スケールで言えば路地と言える細長い空間が、どの建築にも備わっていて、周辺環境と呼応していてポジティブに雑多さを取り込んで、何というか「東京的な空間」を生み出していると思った。

三階のギャラリーに設けられたスリット側のバルコニーも、その感覚の流れにある空間で外に出たときに、ワクワク感を感じた、、、!恐らく、ここに寳神さんの都市観、東京観が、凝縮しているのでないかと思った。(こんど聞いてみよう)

以下の写真はクリックで拡大します

【ap編集長の建築探索】vol.015 日吉坂事務所「KITAYON KADO」隣地側に設けられた上階への階段 photo©rem goto
【ap編集長の建築探索】vol.015 日吉坂事務所「KITAYON KADO」3階、植物の販売も行うギャラリー。展示されているのは、アーティストのMASAKO.Yの作品。 photo©rem goto
【ap編集長の建築探索】vol.015 日吉坂事務所「KITAYON KADO」3階、植物の販売も行うギャラリー、バルコニー photo©rem goto

また、単体の建築だけではなく、日吉坂事務所による商業ビルが二つ並んで建っているということについて感じたことも書いてみたいと思う。

ます、敷地は、西荻窪の駅から少し歩いたところで、商業店舗が沢山あるエリアから住宅街に切り替わる境目のような場所にある。

寳神さんと話をしていて、向かい側の土地を購入するのではなく、もう少し離れた土地を買ってビルを建てるという選択肢もあったのだという。
僕自身も内覧会を訪問する前に、あえて距離の離れた位置に建てることで、広範囲の関係性を生み出せるのという考え方もあるのではないかと思ったりした。

実際に二棟が建ち並んでいる様子を見て、また、先に書いた敷地の条件を見て思ったのは、寳神さんが、この場所に建築を並べることで、点を「群」にして、単なる店舗ではなく、街の目的地にしようとしたのだということが分かった。
商店街の歩いた先に、目的地を作ることで、駅と商店街の間の活性化が誘発されることを狙っているのではないかと思った。

僕は2000年前後に京都市で学生生活を送ったのだけれど、都市の中心地から離れた、北山という畑もある牧歌的なエリアに、当時のファッションの最先端のセレクトショップだった「ビームス」が存在していたことを思い出した。
駅から少し歩く離れた場所にあったのだけれど、その求心的な店に行くためにみんな歩いていたし、その状況を活かすように駅とビームスの間に様々なファッション店舗が建ち並ぶ状況がそこにはあった。この二棟の建築を見ていて、その光景が甦った、、、!

以下の写真はクリックで拡大します

【ap編集長の建築探索】vol.015 日吉坂事務所「KITAYON KADO」共用階段から道路越しに「KITAYON」を見る。 photo©rem goto

寳神さんが常々言っている、「建築家が事業主になるからこそ、事業性に振り切らない選択肢が取れる」という思想から生まれた街に貢献する商業ビル。そして、更にそれらが郡となっていくことで、その思想や選択肢が強化され、街に伝播していく。そのような姿が目に見えるようだった、、、!

また、ここまで書いてこなかったが、一棟めの「KITAYON」の東側隣地の土地も取得済みであり、開発の予定も進めているのだという、、、!

今後も寳神さん率いる日吉坂事務所とこのエリアの変化から目が離せなそうだと思った。

寳神さん、事務所の皆さん、入居されている皆さん、ご竣工おめでとうございます!

(訪問日:2026年4月11日)


後藤連平(ごとう れんぺい)
アーキテクチャーフォト編集長
1979年、静岡県磐田市生まれ。2002年京都工芸繊維大学卒業、2004年同大学大学院修了。組織設計事務所と小規模設計事務所で実務を経験した後に、アーキテクチャーフォト株式会社を設立。23年にわたり建築情報の発信を続けており、現在は、建築と社会の関係を視覚化するウェブメディア「アーキテクチャーフォト」の運営をメインに活動。著書に『建築家のためのウェブ発信講義』(学芸出版社)など。


  • 日吉坂事務所のウェブサイト
  • 「ap編集長の建築探索」のアーカイブはこちらから

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