SHARE 岸本和彦 / acaaによる神奈川県茅ヶ崎市の住宅「辻堂の曲がり屋」
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岸本和彦 / acaaが設計した神奈川県茅ヶ崎市の住宅「辻堂の曲がり屋」です。
過密化していく住宅街では階ごとに風抜けや光の密度が異なるため、都市住宅ではそれらを克服し均一化するための手法が編み出されてきた。しかしこの住宅ではあえて差異を明確にし、階を隔てて変化してゆく空間に多様性と距離感を与えようと考えた。
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門型に穿たれたポーチに踏み込んでから玄関まで、直線距離にして7.5mの空間に実質10.2mの動線をつくった。ポーチ(GL+50)~外路地(GL +175)~前庭を横切って地盤から浮いたエントランスのブリッジ(GL +475)~内路地(GL+540)へと辿り着くまでに、幾つもの結界を挿入し距離感を増幅している。床は大谷石から敷瓦へ変化し、目線はアイストップの石や樹木により3回振られる。途中に格子戸のスクリーンを経て、光の密度は陰、明、陰、明と繰り返す。エントランス前の下屋は天井高さが2150㎜で奥行きは2000㎜。低く抑えた下屋空間は、中庭と内路地の差異を補正するための中間領域である。
以下、建築家によるテキストです。
商業地域に接する住宅街に建つ住宅。奥行きのある敷地には3階建ての住宅が隣接して建ち、採光や景観を周囲から得ることは困難に思われた。変形した敷地にそってアウトラインを構成し、中庭を挿入することで移動と共に変化する風景をつくり出そうと思った理由は、主にそういった敷地の事情による。
過密化していく住宅街では階ごとに風抜けや光の密度が異なるため、都市住宅ではそれらを克服し均一化するための手法が編み出されてきた。しかしこの住宅ではあえて差異を明確にし、階を隔てて変化してゆく空間に多様性と距離感を与えようと考えた。具体的には、1階の水廻りと個室からなる小さくて陰翳がある空間に対して、踊り場を拡張した中2階は障子によって濾過された光が床を這うように流れ込み、全体に漂う空間、さらに半階上がった2階の天井高さは4200㎜で、屋上の空庭から乱反射しながら降り注ぐ光に満ちた空間という構成である。その異なる空間体験は、展開する風景とともに連続した印象として記憶される。
アプローチから屋内の移動に伴って目に飛び込んでくる中庭を囲む外壁は、レベルによって仕上げが異なる。下層部では藁を混入させ左官の手の跡が残る仕上げである。上から真っ直ぐに降り注ぐ自然光は、左官のテクスチャーを浮かび上がらせ、反射した光を陰翳が支配するアプローチ周りや1階の路地空間、浴室、寝室などへ提供する。一方で上層部の外壁は反射を抑えた木質で黒く塗られ、2階の開口高さと合わせることで内外を繋げ、満ちた光を吸収しながら重心を下に安定させる操作を行っている。2階は平面的な曲がりと同時に床にもレベル差を与え、ダイニングとキッチン、さらにリビングを柔らかくセパレートしている。特にリビング(南の間)においては、家具の高さに対して床の高さを変化させることで重心を操作し、掘り込まれた竪穴式住居のような居場所に、「そこに居る」という必然性と安心感が生まれるよう計画した。
■建築概要
建物名称/辻堂の曲がり屋
所在地/神奈川県茅ヶ崎市
主要用途/一戸建て住宅
家族構成/夫婦+子供二人
設計:
設計者 acaa
担当 岸本和彦 千葉遙(元所員)
構造 諏訪部建築事務所/諏訪部高広
造園 GARDENWORKS 園三/田畑了
施工:
大同工業 監督 原 慎一郎