SHARE GENETOによる、京都の「八百忠本店改装計画」
ファサード(昼)
ファサード(夜) all photos©近藤泰岳
GENETOが設計した、京都の「八百忠本店改装計画」です。
敷地は京都と奈良の県境に位置しており、古くは両都市を往来する人々の宿場町として栄えていた。
創業は寛永年間(1624年〜1645年)と古く、旅人の宿泊施設、地域の催事等の拠点とし、現在では料亭として存続している。
長い歴史を刻み込んだ店舗はその時代ごとに手を加えられており、部分ごとの増改築を繰り返すうちに、全体を通しての建築的、空間的な統一感は失われていた。ただ単に、その時代に応じて作られたり壊されたりしてきた変化の形跡が残されている。
※以下の写真はクリックで拡大します
一階客室前室。ドット柄のパターンフィルムを貼ったガラスで構成している。
一階客室前室。ドット柄のパターンフィルムを貼ったガラスで構成している。家具も設計者デザインのもの。
船底天井の一階客室。壁は店のシンボルマークをモチーフにした柄が光る。
船底天井一階客室。壁は店のシンボルマークをモチーフにした柄が光る。
二階廊下(収納とカーテン)。カーテンはテキスタイルデザイナーによりデザインされたもの。
合板のリブが交差する二階客室。3DCGによって形態を導き出している。
合板のリブが交差する二階客室3DCGによって形態を導き出している。
一階客室の壁。穴をあけた合板の表面に突き板を貼り、光を透過させている。
テキスタイルデザイナーによる二階廊下のカーテン。店のシンボルマークを元にデザインされている。
設計者デザインによる二階客室の椅子。側面には竹籠をモチーフにした掘込みを入れ、伝統的な柄とモダンな形状を融合している。
設計者デザインによる二階客室の椅子。側面には竹籠をモチーフにした掘込みを入れ、伝統的な柄とモダンな形状を融合している。
会席料理をイメージしたコンセプト図。既設部分を含め、違った趣をもつ空間を寄せ集めて一つのまとまりのある建築を目指した。(1F)
会席料理をイメージしたコンセプト図。既設部分を含め、違った趣をもつ空間を寄せ集めて一つのまとまりのある建築を目指した。(2F)
以下、建築家によるテキストです。
敷地は京都と奈良の県境に位置しており、古くは両都市を往来する人々の宿場町として栄えていた。
創業は寛永年間(1624年〜1645年)と古く、旅人の宿泊施設、地域の催事等の拠点とし、現在では料亭として存続している。
長い歴史を刻み込んだ店舗はその時代ごとに手を加えられており、部分ごとの増改築を繰り返すうちに、全体を通しての建築的、空間的な統一感は失われていた。ただ単に、その時代に応じて作られたり壊されたりしてきた変化の形跡が残されている。
八百忠 本店は昭和8年建設客室棟、23年建設厨房棟、23年建設離れ棟の3棟から構成されている。本計画では8年棟の客室を増床する事、23年厨房棟のファサードを新しくする事、23年離れ棟を取り壊し駐車場にする事が求められた。
既存の客室はどれも40名以上が入れるのに対し、今回は10名と6名という少人数を対象とした空間の計画を行った。
リサーチをした結果、既設の料亭は部屋ごとに違った庭に面し、装飾も空間ごとに特長を持たせるなど、様々なアイデンティティを持つ空間が寄せ集められていた。それは各部屋に応じて季節ごとの魅力を持ち、昼の様子と夜の様子が大きく異る趣を持っていた。
1.会席料理の参照
今回のプロジェクトでは当料亭で出される会席料理の構成に着目した。
会席料理とは、懐石料理を酒の席に合わせてアレンジされたものであり、創作和食ともいえる和洋折衷の料理が出される。一つのコースの中に特徴的な料理が複数あるが、全体としてはバランス良く構成されている。
そのように、個別に取り上げると特徴的すぎるように見られるものが、全体の中でバランスをとりながら位置づくと、新たな関係性が生まれてくるのではないかと考えた。
そこで、今回の改修では部屋ごとに趣を大きく変え、一見無関係な空間同士で構成されている建築に統一感を与えようと試みた。
2. 現代の状況を刻む
今回手がけた空間は、料亭が持つ空間(日本建築らしさ)に軸足を置きながら、様々な要素を折衷することで、各々に違った趣を持たせている。
それぞれの空間は、伝統的な技術や工法と現代的な技術や素材を織り交ぜて作られている。
外観を整えるために新たに作った外壁は、大和貼りという古い工法を用いた巨大な塀のような存在で、そこにステンレス板をレーザーカットしたモダンな看板が組み込まれている。門も同様に、屋根は銅板葺きで門扉が看板と同様のディテールを用いたステンレス製である。
一階客室では船底天井に代表される日本建築の趣を持ちつつ、仕上げは合板と照明器具を組み合わせた壁と天井に、自ら制作した和紙を壁紙として用いるなど現代性を取り入れている。
二階客室では合板によるリブが交差した手鞠の様な空間を、3DCGによって形態を導きだし、これまでの料亭には無かった趣を持ち込んだ。
ファサードは杉板による大和貼り(日本古来の工法)を用いつつ、ステンレス板をレーザーカットした看板が組み込まれている。
この様に、各部屋に於いて技術や工法、素材など新旧が織り交ざる空間を作りこんだ。
今回の改修によって、施設としては、周辺の街に対しての構えを新たにすることとなり、空間の構成や素材の選定、過去と現代、異素材同士を折衷させていくことで、部分的なリノベーションで大きな建物全体のバランスを取ろうと試みた。
この改修をおこなった2014年の時代性を部分的に組み込んだこの施設が、次の改修の時期を迎える頃には、また新たな社会的な要望や、新素材や技術が持ち込まれ、街との関わりを新たにしながら続いていくことを願っている。
■建築概要
YOC PROJECT
所在地:京都府京田辺市
用途:料亭
建物面積
1F床面積:417.92m2
2F床面積:378.19m2
改装部分面積
1F客室床面積:25.87m2
1F前室床面積:4.50m2
2F客室床面積:15.23m2
竣工:2014年5月