写真提供:渡辺隆建築設計事務所
写真提供:渡辺隆建築設計事務所
渡辺隆建築設計事務所が設計した、静岡・磐田の公民館「豊岡中央交流センター」です。
<入札方式による地方公共建築への取り組み>
私たちは日頃から継続的に地元磐田市の設計入札に参加しています。この「豊岡中央交流センター」以前には、高齢者福祉の窓口施設「磐田市北部地域包括支援センター」や、地域の消防団の詰所(7棟)「磐田市消防コミュニティセンター」などの新築案件、学校の耐震補強や図書館の天井耐震化や定期調査などその他様々な性格の案件を受注しています。この交流センターが竣工した後の現在は、卓球専用の屋内練習場「(仮称)磐田市卓球場」を手掛けています。
設計者を設計料の安さによって選ぶ入札制度はクリエイティブな設計行為に合わない側面もありますが、私たちはこの制度に参加することによって、より多くの公共建築に関わる機会を得てきました。これらの行為の繰り返しによって、行政や地域住民や施工者との信頼関係を少しずつ築いています。
地方で何気なく生み出され続けている大多数派の「名もなき公共建築」に関わりながら、街全体が変わっていくきっかけづくりをしていけたらと考えています。
入札に継続的に参加し公共建築に多く関わる設計活動の副産物として、コンペやプロポーザルへの参加の可能性も徐々にではありますが広がってきていると感じています(先日公表された「(仮称)Jubilo Clubhouse・Athlete Center」は、この交流センター竣工直後に開催されたプロポーザルに参加し受注した建築です)。
<豊岡中央交流センターについて>
豊岡中央交流センターは、全長約100m、子育て支援施設を併設した市民活動やイベントのための多目的ホール・会議室・調理室・健診室を持つ交流センターです。
建設地は磐田市北部の豊岡地区、緑豊かな広い公園の一画です。公園内には、野球場や体育館、児童公園や運動場、テニスコートなど既存施設があり、普段から街の人々が様々な目的で散歩や通り抜けでも行き交う、とても明るくアクティブな場所です。
ここに、以前からあるアクティブな人々の動きを妨げず、交流センターを利用しない公園来場者を自然と受け入れる包容力のある建築を作りたいと思いました。
そこで考えたのは、深い軒下空間のある全長100mのシンプルな切妻屋根と、鉄筋コンクリート造の多孔質なボックスによる構成です。通り抜け通路が何本も貫通し、常に人々が外から中へ中から外へ行き交いにぎわいます。
また、この豊岡中央交流センターの設計の手がかりは、直接的な要望や上記のような周辺環境などに留まらず、過去に私たちが入札で手掛けた設計業務から得た様々な要素にも及んでいます。
例えば、雨や日差しを避ける深い軒や直線的な平面計画は、同じ地区内に建つ建築物の「定期調査」を請け負った際に利用者から聞こえてきた声を意識したものですし、吊り天井の無い屋根裏空間と剥き出しの設備機器配置は、図書館の天井耐震化設計の際に行政側と共にコスト面や改修手順で苦労した経験から生まれた断面構成です。シンプルで取り扱いやすい折板屋根を採用したのは、無理のないコスト設定と、ほとんどの施工者が抵抗なく扱うことのできる工法として、工事入札の不調や辞退という状況を回避するためのものでもありました。