SHARE 元木大輔 / Daisuke Motogi Architectureによる、東京の住宅リノベーション「中目黒の部屋」
all photos©長谷川健太
元木大輔 / Daisuke Motogi Architectureによる、東京の住宅リノベーション「中目黒の部屋」です。
(この部屋にはポケットがついている。)
部屋が汚いことで有名な安部公房は、吸い殻がいっぱいになると、その辺りの床にザーとタバコの灰を捨てていたらしい。さすがにそこまでではないのだが、僕はあまり片付けが得意ではない。事務所や学校では、もっと考え方を整理しなさい、なんて偉そうにいっているものの、出したものをすぐに片付けられないし整理整頓は正直苦手だ。
かたや、建築雑誌をパラパラとめくると、当たり前なのだけれど、きれいに整理された部屋だけが並んでいる。もちろん部屋は綺麗にしておくに越したことはないし、そうありたいのだけれど、全てがコントロールされて、演出されきっている状態にすこし窮屈な感じがすることもある。片付けられていることが前提で、生活によって溢れ出てきてしまうモノたちはノイズである、とでも言っているような窮屈さ。椅子やテーブルさえもそこにない状態が正で、食べ残したお皿や、たたんでいない洗濯物なんて、もってのほか。逆に言うと、モダニズムは、その質を片付けによって担保されているのかもしれない。
生活や人の動きをコントロールすることは不可能だし、ナンセンスなのだけれど、竣工写真を取ってから始まる、その生活のノイズ(という表現が正しいのかはわからないけれど)を、なんとかしてデザインの問題として扱うことはできないだろうか。生活が始まったあとの状態はデザイナーではなく、住む人によるもので、当然コントロールすることはできないのだけれど、共存くらいはできるかもしれない。そこで考えたのは、初めからノイズがある状態をデザインする、ということだ。あたり前なのだけれど、通常、壁には何もついていない。たまに絵や写真やカレンダーが飾られることはあるけど、ビシっと位置が決められている。そうではなくて、もうちょっと適当さを許容できるような、神経質にならないような質をもった状態を作ることはできないだろうか。
※以下の写真はクリックで拡大します
以下、建築家によるテキストです。
(この部屋にはポケットがついている。)
部屋が汚いことで有名な安部公房は、吸い殻がいっぱいになると、その辺りの床にザーとタバコの灰を捨てていたらしい。さすがにそこまでではないのだが、僕はあまり片付けが得意ではない。事務所や学校では、もっと考え方を整理しなさい、なんて偉そうにいっているものの、出したものをすぐに片付けられないし整理整頓は正直苦手だ。
かたや、建築雑誌をパラパラとめくると、当たり前なのだけれど、きれいに整理された部屋だけが並んでいる。もちろん部屋は綺麗にしておくに越したことはないし、そうありたいのだけれど、全てがコントロールされて、演出されきっている状態にすこし窮屈な感じがすることもある。片付けられていることが前提で、生活によって溢れ出てきてしまうモノたちはノイズである、とでも言っているような窮屈さ。椅子やテーブルさえもそこにない状態が正で、食べ残したお皿や、たたんでいない洗濯物なんて、もってのほか。逆に言うと、モダニズムは、その質を片付けによって担保されているのかもしれない。
生活や人の動きをコントロールすることは不可能だし、ナンセンスなのだけれど、竣工写真を取ってから始まる、その生活のノイズ(という表現が正しいのかはわからないけれど)を、なんとかしてデザインの問題として扱うことはできないだろうか。生活が始まったあとの状態はデザイナーではなく、住む人によるもので、当然コントロールすることはできないのだけれど、共存くらいはできるかもしれない。そこで考えたのは、初めからノイズがある状態をデザインする、ということだ。あたり前なのだけれど、通常、壁には何もついていない。たまに絵や写真やカレンダーが飾られることはあるけど、ビシっと位置が決められている。そうではなくて、もうちょっと適当さを許容できるような、神経質にならないような質をもった状態を作ることはできないだろうか。
ところで、この住宅はとてもローコストな条件でのオファーだった。なのでコストがかかる水回りの位置を変更することは早々に諦めた。一般的にマンションの水回りは、リビングと反対側の主に北側に位置する共用廊下側に集約されていることが多い。しかしこのマンションは、部屋のちょうど真ん中に水回りが配置され、平面図が漢字の「目」のような形でリビング、水回り、寝室の3つのエリアに分かれていた。中央の水回りの周囲に、散らばっていた収納を集めてきて、ファブリックで作ったテントのような壁でぐるりと囲む。それで終わり、、のつもりだったのだけれど、設計をしていく中でこの布の壁にポケットを付けるとよいのではないか、という事を思いついた。
服やカバンについているポケットは不思議な存在で、とても明確に機能的なのだけれど、無くてもなんとかなるという、宙ぶらりんな存在だ。コインもペンもハンカチもずっとポケットに入っているわけではなく、つまり、ポケットとは収納するスペースではなくて、「一時的にものを突っ込んでおく」という仮の場所であったりする。そのたたずまいが、なんというか、ほくろくらいの丁度よいノイズなのではないか。存在としてとても愛くるしいし、そんなことを考えて、壁にポケットを作ることにした。ポケットは収納として不完全だ。そしてその不完全さが、色々なものを許容できる気がする。きちんとしまわれていなくても、なにかがはみ出していてもOKな受け皿。後から入ってくる生活の雑多なものを、ノイズとしてでなくて許容できる質を持っている気がした。
テーブルの上をピカピカに片付けるのではなく、テーブルに乗っているものをグリッドに置き直す事だって整理法の一つだ。もっというと、雑においてある状態を良く見せる背景の作り方だってあると思う。アンコントロールなものを押さえつけるのではなく、もっと適当さを許容できるような「きれいに片付ける」以外のデザインの方法があるのではないかと思っている。
■建築概要
House Nakameguro
Location: Meguro-ku,Tokyo
Usage: Private House
Construction: Kogazo
Floor area: 43.82m2
Structure: RC
Date of completion: Sep/2016
Photo: Kenta Hasegawa <http://o-f-p.jp/>