SHARE 大堀伸 / ジェネラルデザインによる、岡山・倉敷の「上富井の住宅」
大堀伸 / ジェネラルデザインによる、岡山・倉敷の「上富井の住宅」です。
これまでに何度も増改築が繰り返されてきた、おおよそ築150年の日本家屋の改築である。私の家族が所有するこの建物は、長い間住み手も無く放置されて老朽化が激しく進行していた。比較的残っていた近隣の古い日本家屋も次第にその姿を消し、どこにでもあるような地方都市の風景に変わってゆくなかで、その流れに抗いながら古い建物を頑なに昔の姿に再生するということではなく、時間の経過を意識しながらも、新しく柔軟な使い方ができる住宅を生み出せないだろうかと考えた。
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以下、建築家によるテキストです。
上富井の住宅
これまでに何度も増改築が繰り返されてきた、おおよそ築150年の日本家屋の改築である。私の家族が所有するこの建物は、長い間住み手も無く放置されて老朽化が激しく進行していた。比較的残っていた近隣の古い日本家屋も次第にその姿を消し、どこにでもあるような地方都市の風景に変わってゆくなかで、その流れに抗いながら古い建物を頑なに昔の姿に再生するということではなく、時間の経過を意識しながらも、新しく柔軟な使い方ができる住宅を生み出せないだろうかと考えた。
改築にあたり、立てた方針は以下の通り。
・中途半端に増築された箇所を解体して規模を縮小し、竣工当初の母屋と蔵に戻して風通しをよくする
・機能上最低限必要な浴室、トイレ、キッチンを設え、残りは多目的なスペースとする
・木造スケルトン、構造上最低限必要な壁、コンクリートベタ基礎打設、モルタルの床
・簡易な木製建具で内外を仕切るが、必要以上の気密性、水密性、断熱性能は求めない
・大がかりになる屋根瓦葺き直しは行わない 少々の雨漏りはOK
意図したのは、生活に必要な最低限の性能を持った、単純明快で豊かな時間が過ごせる場所を作ることだ。この建物には一般的な住居に求められる性能を満たしていない部分がある。でも過剰なスペックを求めず、それらを削ぎ落としたことで、逆にいろんなことが見えてきた。
150年経過した小屋組の屋根の下は米松羽目板張りの壁で緩やかに区切られただけのワンルームだが、様々な風景が切り取られ、いろんな場所で奥行きのある体験ができる。すべての木製建具を開け放つと、古くからの屋根と新しく作ったコンクリートの床との間に、光と影、緑と風が直接入ってきて、内外の境が無くなる。本を読んだり、横になったり、火を焚いて食事をとったりという普通の生活が、内なのか外なのかよく分からないところで行われることになり、それらが何か特別な出来事のように感じられる。
それでもやはり住んでみると不自由なことはある。けれどその上で感じたのは、人はある種類の不自由な環境におかれたとき、逆に得ることができる開放感、自由な感覚というものがあるということだ。不自由さを便利な設備や機器で解決するのではなく、不自由さをむしろ楽しみながら別物に変えてゆく感覚。住宅がただ当たり障りのない、面倒がおきない生活を保証してくれる便利な器なだけであってはつまらない。そこに身をおく人に新たな発見や生活の刷新を促すようなものであってほしいと思う。
■建築概要
上富井の住宅
所在地:倉敷
敷地面積:1073.15m2
建築面積:112.11m2
延床面積:96.65m2
構造 規模:木造、平屋建
竣工:2018.7
施工:四季彩工務店