柿木佑介+廣岡周平 / PERSIMMON HILLS architectsが設計した、埼玉の「宝性院観音堂」です。用途は観音堂・多目的ホールとの事。
宝性院の付近一体はかつて日光街道の宿場町(杉戸宿)として栄えていたが、今はそのような町の賑わいもなく、地域住民の高齢化が進んでいる。 また、人口減少や地縁血縁関係の希薄化、冠婚葬祭のビジネス化、それらによる宗教観の喪失によって、本来地域コミュニティーの核であった寺院はどんどん求心性を失っている。 そういった状況を踏まえ、宗教性を感じられながらも訪れやすい開かれたお堂をつくり、お寺が担える町の中での役割や活動を可視化し、地域住民が集まり交流が育まれる、地域の拠点としての現代的な宗教施設の在り方を目指した。
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以下、建築家によるテキストです。
宝性院観音堂
宝性院の付近一体はかつて日光街道の宿場町(杉戸宿)として栄えていたが、今はそのような町の賑わいもなく、地域住民の高齢化が進んでいる。 また、人口減少や地縁血縁関係の希薄化、冠婚葬祭のビジネス化、それらによる宗教観の喪失によって、本来地域コミュニティーの核であった寺院はどんどん求心性を失っている。 そういった状況を踏まえ、宗教性を感じられながらも訪れやすい開かれたお堂をつくり、お寺が担える町の中での役割や活動を可視化し、地域住民が集まり交流が育まれる、地域の拠点としての現代的な宗教施設の在り方を目指した。
お寺と街道の間にある本計画敷地は、時代の流れとともに使われ方が変化してきた結果、過剰に大きな駐車場となって境内と町を隔て、参道は消失し、宗教性など感じることができない場所になっていた。そこで先ずは、敷地の変容の過程で取り残され散在していた塀・石柱・石碑等の土着物との関係を紡ぐように観音堂のボリュームを配置することで、参道を再興し、街道側に駐車場を区分し、中庭をつくり、街道から既存境内に至る参拝空間を規定し直した。ボリュームと屋根の大きさ・組み合わせ・配置の調整によって、参道を歩く時に既存境内の門や本堂、不動堂を見通せるようにし、観音堂の切妻屋根が視界から消える視点場や、新旧のお堂を一挙に見渡せる視点場を作ることによって、既存境内へと自然と連続していく参拝空間としている。
中庭に面した大きな縁側状のお堂(ホール)は、柱を一本も落とさない大開口によって中庭と一体となり、お寺や地域の様々な活動の受け皿になると同時にそれらを可視化する。お堂の切妻屋根はブッダが菩提樹の下で悟りを開いたことから樹木のような、後光が射しているような架構をイメージしており、建築の外形からオフセットさせて両側に庇を置く事によって、内部ではそれらの間から静寂な光を落とし込み、外部では圧迫感を低減している。そして妻面からは築400年の不動堂を切り取るように見せ、内部においても既存境内への連続性を生んでいる。
現在このお堂では観音様が見守る中、宗教活動の他にも地域住民によるボランタリーなイベントが日々行われている。いわば地域にとっての活きる舞台である。宗教施設という固定観念にとらわれがちなビルディングタイプに新しい価値を重ね合わせていくことで、今までとは違った使い方を誘発し、そこからまた次の新しい価値が生まれて重なり合い、未来へとつながっていくことを期待している。
■建築概要
敷地:埼玉県北葛飾郡杉戸町杉戸1-5-6
用途:観音堂 / 多目的ホール
敷地面積:866 ㎡
建築面積:270 ㎡
延床面積:270 ㎡
階数:1階
構造:木造
施工:山崎工務店
構造設計:荒木美香 (佐藤淳構造設計事務所)
環境コンサルタント:DE-lab
テキスタイル:佐藤未季
竣工年:2017年11月
写真:中村絵、長谷川健太(表記無しPHa)