SHARE 山路哲生建築設計事務所による、東京・港区のシェアオフィス「BIRTH LAB」
山路哲生建築設計事務所が設計した、東京・港区のシェアオフィス「BIRTH LAB」です。
「働かないオフィス」をコンセプトにつくられたシェアオフィス。BIRTH WORKと呼ばれるコワーキングスペースと連携しながら、コミュニケーションに特化したオフィス機能の実験室(LAB)としての役割を持つ。
敷地は麻布十番駅から程近く、以前にはレストランや不動産屋といったテナントが入っていた商業性の高い好立地。麻布通りに面しており、人通り、また車の交通量も多く、人の目に触れる機会の多い地域生活圏の雑居ビル地上階である。地上1階に加えて地下1階と2階がスキップ状に繋がるワンルームであり、外からの見通しも良く、街との距離が非常に近く感じられる。
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以下、建築家によるテキストです。
飛び出す棚と突き抜ける照明
「働かないオフィス」をコンセプトにつくられたシェアオフィス。BIRTH WORKと呼ばれるコワーキングスペースと連携しながら、コミュニケーションに特化したオフィス機能の実験室(LAB)としての役割を持つ。
敷地は麻布十番駅から程近く、以前にはレストランや不動産屋といったテナントが入っていた商業性の高い好立地。麻布通りに面しており、人通り、また車の交通量も多く、人の目に触れる機会の多い地域生活圏の雑居ビル地上階である。地上1階に加えて地下1階と2階がスキップ状に繋がるワンルームであり、外からの見通しも良く、街との距離が非常に近く感じられる。
本計画ではオフィスの機能をいかにして地域生活に接続するか、ということが大きな課題だったように思う。既存の多くのオフィスが備えているユニバーサルなスペースは生産性を高めると言う意味では合理的であるかもしれない。ただ、その合理性の中では日常の生活から遮断され、雨の音さえも感じられない場所で一日を過ごすことも少なくない。設備負荷低減のために断熱・気密性能を高め、セキュリティや安全性のために防音・耐震性能を高めるといったように、オフィスビルとしての性能が高まるに比例して、街の生活からは切り離されていく。また近年においては場所に頼らない働き方、職能が増えることで、地域との関わりが益々不必要な業態が増えている。「仕事(ワーク)」は「生活(ライフ)」の対義語であるかのように、自らバランスを取らないと生きていけない状況にあるということなのだろうか。
しかしながら実際は多くの人が人生の大半を仕事に費やしているのが現状である。その大きな時間をより生き生きとしたものにできる環境を得ることは、個人として充実した人生を得ることになり、そこに繋がる地域は豊かな発展をみせるはずだ、というのがプロジェクトチームに共有された認識だった。
そこで、敷地の可能性を最大限に引き出し、地域生活との接点をつくるためには、オフィスと街との境界を無くし、互いの領域を共有していく必要があると考えた。
どのオフィスにも必ずある机や椅子といった家具を、ひとつのコミュニティツールととらえ、それらを非日常的な大きさまでスケールアウトすることで街との接続を試みた。自分の手に触れる机や椅子や棚が街にまで延長され、風や雨に触れることで意識を外部に繋げ、また街を行き交う人もそのはみ出した家具によって内部を意識してもらえるように計画している。
家具の材料は三六判のシナ合板。デジタルファブリケーションによって切り出された木片を模型のように組み上げることで、内装を家具工事に集約し、移動可能性や汎用性を獲得している。都市に飛び出すほどの巨大で生き物のような家具であるにも関わらず、その部材を規格単位に限定することで、どこにでも組み立てることができ、どこまでも拡張できる。またどんな地域でも部材を調達できるし、どこにでも運搬できるパラメトリックなビッグファニチャーである。
また点在するライン照明は棚板を突き抜けるように配置している。1つの棚があるコミュニティであるならば、そのコミュニティ同士を突き抜けることで繋がりをつくり、大きな光に満ちた明るい社会を表現したいと考えた。
また本計画のプロジェクトチームにおいて「station」と呼ばれるコミュニティを可視化するシステム開発及び実証実験を平行している。既存のSNSのように友人やいいねの数を競うのではなく、「何ができて、何をしたくて、何で困っているか」といった状況を見える化し、メンバー間でその状況をシェアすることで新たな繋がりをつくり出している。
オフィスの場所をシェアすることでスペースを効率化することはもちろん、コミュニティをシェアすることで新しいビジネスへの発展と、地域との繋がりを期待している。まだまだスタートして間もない段階ではあるものの、既に地方と東京を結ぶハブのような場所になりつつあるようだ。
■建築概要
「BIRTH LAB」
所在地:東京都港区
改修延床面積:124.2m2
竣工:2019年3月
設計監理:山路哲生建築設計事務所
設計担当:山路哲生、渡邊寛介
施工:株式会社ジェーピーディーエイチ
撮影:長谷川健太
協力:遠藤照明(照明計画)