SHARE 山路哲生建築設計事務所による、東京・渋谷区の、完全キャッシュレスのコーヒースタンド「KITASANDO COFFEE」
山路哲生建築設計事務所が設計した、東京・渋谷区の、完全キャッシュレスのコーヒースタンド「KITASANDO COFFEE」です。店舗の公式サイトはこちら。
完全キャッシュレスのコーヒースタンド。本店舗は今後多店舗展開する為の1店舗目であり、それらの旗艦店として設計を依頼された。不動産屋事業を行うツクルバと協働し、まずは建物のプログラムの組み換え、ゾーニングの変更から始めた。もともと1棟オフィスビルだった場所の1階部分を10坪だけ飲食店に変更、前面の10坪の外部駐車場もまたデッキに変更し、商業の無かった通りに人の集まることのできる小さなコーヒースタンドをつくった。当オフィスビルで働く方々はもちろん、近隣の住民や近くで働く人々が気軽に立ち寄ることができるため、コーヒー1杯がチケットのパブリックスペースとなっている。
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以下、建築家によるテキストです。
小さなコーヒースタンドがつくる商業的地域性・公共性
完全キャッシュレスのコーヒースタンド。本店舗は今後多店舗展開する為の1店舗目であり、それらの旗艦店として設計を依頼された。不動産屋事業を行うツクルバと協働し、まずは建物のプログラムの組み換え、ゾーニングの変更から始めた。もともと1棟オフィスビルだった場所の1階部分を10坪だけ飲食店に変更、前面の10坪の外部駐車場もまたデッキに変更し、商業の無かった通りに人の集まることのできる小さなコーヒースタンドをつくった。当オフィスビルで働く方々はもちろん、近隣の住民や近くで働く人々が気軽に立ち寄ることができるため、コーヒー1杯がチケットのパブリックスペースとなっている。
室内と同等の広いデッキスペースによって公共性を獲得し、次に内外の連続をつくるためにフルオープンにできる開口をつくった。デッキを室内にも連続させることで、大きなカウンターが屋外に投げ出されたような解放感がある。また道路の直前までデッキを伸ばすことで、人々はデッキの端に腰をかける。すると敷地外の道路に垂らした足が領域を横断する。その小さな行為による街への影響は大きく、たった10坪の店舗計画が通りにまで賑わいの広がりを見せている。またその道路との境界に設置されたサインは道路標識を模してつくられている。これも敷地内に道路付属物である標識が立つことで、敷地内外の境界をぼかすことに役立っている。
庇は中空のポリカーボネート板であり、背部にはネオンサインを仕込んだ。ぼやけた光が日中は優しいカフェとしての印象を与えるが、夜はバーとしての色気を放つ。大きなカウンターの前面は波型のポリカーボネートに木毛を挟んだ。ムラのある光の濃淡はミルクにエスプレッソを加えた瞬間のラテのように複雑な模様となり、通りに対してプレゼンスを生み出している。
店舗からキャッシャーとしての役割が省かれることで防犯性や効率性が高まるのはもちろん、コーヒーを提供するという純粋な目的が浮き彫りになっていく。本店舗は「北参道コーヒー」だが、二店舗目はその地域の名前が付くことを想定している。「六本木コーヒー」かもしれないし「ニセココーヒー」や「石垣島コーヒー」かもしれない。そのときこの小さな店舗の客席はそれぞれの地域の路上やオフィスやリビングであり、その地域の特色が色濃いものであればあるほど、きっとそのコーヒースタンドも豊かな味わいを生み出してくれるはずだ。イタリアのエスプレッソバーやイングランドのパブのような地元に密着した商業的地域性・公共性を獲得して欲しい。
■建築概要
「KITASANDO COFFEE」
所在地:東京都渋谷区
延床面積:35.69m2
竣工:2019年7月
設計監理:山路哲生建築設計事務所
設計担当:山路哲生、渡邊寛介
構造設計:清水構造計画
ロゴデザイン:LUCY ALTER DESIGN
施工:シー・スリー・デザイン
撮影:長谷川健太
協力:遠藤照明(照明計画)