SHARE 吉村真基建築計画事務所|MYAOによる、三重の、既存住宅の改修と増築「西坂部の家」と論考「生きのびるための折衷主義」
吉村真基建築計画事務所|MYAOによる、三重の、既存住宅の改修と増築「西坂部の家」と論考「生きのびるための折衷主義」です。
西坂部の家は1984年、当時4人だった核家族のために建てられた住宅である。建築物と畑と工作物がパラパラと並ぶ市街化調整区域の風景の中に建っている。築35年を経て、元の家族と新たな家族が共に暮らす家へと更新することになった。
これはその増築と改修のプロジェクトである。
外壁はモルタルリシンとトタン、屋根は瓦、アーチがついた玄関ポーチ、南に3間で北にはタイル貼りのキッチンと水回り、飾り格子のついた階段、そして仏壇、死者の気配。
建築家の作品でも築年を誇る古民家でもない普通の住宅の、即物としての逞しさに圧倒される。
築年を経た木造の情報量は生かし、かつそのテクスチャーに頼りすぎず、どうやって新しい文脈に接続できるだろうか。
計画の伏線は、一方で生まれて来る新しい命があり、一方で死者がある、そういう重層的な時間の中に生きることである。特に便利な場所でもないけど、人が生まれて死んできたこの場所でやっぱり生きていくという地に足のついた選択は美しいなと思う。
だから新しい家と同時に古い家もまた必要なのだ。
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以下、建築家によるテキストです。
生きのびるための折衷主義
-アドホックから学ぶこと、即物的であること、そこに抽象性を見出すこと-
西坂部の家は1984年、当時4人だった核家族のために建てられた住宅である。建築物と畑と工作物がパラパラと並ぶ市街化調整区域の風景の中に建っている。築35年を経て、元の家族と新たな家族が共に暮らす家へと更新することになった。
これはその増築と改修のプロジェクトである。
外壁はモルタルリシンとトタン、屋根は瓦、アーチがついた玄関ポーチ、南に3間で北にはタイル貼りのキッチンと水回り、飾り格子のついた階段、そして仏壇、死者の気配。
建築家の作品でも築年を誇る古民家でもない普通の住宅の、即物としての逞しさに圧倒される。
築年を経た木造の情報量は生かし、かつそのテクスチャーに頼りすぎず、どうやって新しい文脈に接続できるだろうか。
計画の伏線は、一方で生まれて来る新しい命があり、一方で死者がある、そういう重層的な時間の中に生きることである。特に便利な場所でもないけど、人が生まれて死んできたこの場所でやっぱり生きていくという地に足のついた選択は美しいなと思う。
だから新しい家と同時に古い家もまた必要なのだ。
この計画では、今の視点で既存の要素を新たな全体の中に位置付けるというよりは、異なる複数の文脈=全体が同時にある状態を目指している。
「折衷」である。
さらに市街化調整区域に見られる、建物へのある種アドホックで自由な態度は大いに参考にしたいと考えた。
1984年の即物の力と2019年の抽象化の力が同じ住宅の中に共存していて、それぞれの文脈に属する部分がある。
もっと言えば、住宅の構成を抽象的に捉えるという現代住宅の作法によって、80年代の普通の住宅に宿る即物の力を引き出したい。
複数の全体を共存させる具体的な方法として、元の住宅のレイヤーは軸組と装飾的エレメントを残し、新たなレイヤーは木軸を取り巻く面への介入とした。
まずは既存住宅の骨格を捉えるところから始めた。
既存住宅は玄関ポーチを境に、平屋の東棟と2階建ての西棟に大きく分かれている。また、平屋部分含めた1階は切妻、2階は寄棟の屋根がかかっている。つまり東/西、という分節を横断するような1階/2階という屋根の意匠的な処理によって、この住宅が形成されていることがわかる。
増築部分含めた新たなレイヤーは面への介入を通して分節とボリューム操作を行うという現代住宅の作法で設計している。
まずは既存の横断的な屋根の処理を交通整理する分節を導入した。
既存の西と東、一階と二階をそれぞれ切り離し、既存の住宅は3つの小屋へと切り出された。
増築本体は既存住宅から切り出された3つの小屋を補完する第4のボリュームとして平屋部分に架かる小屋になっている。
ここは棟瓦よりも高い位置に床を上げた。持ち上げることで、それまで若夫婦が住んでいた対面の擁壁の上の新興住宅地とほぼ同じ高さになるからだ。
ここは向かいの擁壁上の住宅地と視線でつながり周辺のたんぼを見下ろすという、新たな環境と繋がる部分でもある。
第4の小屋は調整区区域の建築に倣い、素材はラフに、取り合いはシンプルにしている。鉄骨の柱脚にもあえて即物感のある頬杖を用いた。一方、既存住宅から3つに切り出された小屋はあえて今っぽいディテールを用いて意匠をまとめ直している。
■建築概要
project name:西坂部の家
type:改修&増築
location/所在地:三重県
completion year/竣工年:2019
設計期間:2017.6月〜
工事期間:2018.6月〜2019.1月完成
Architect:吉村真基
Firm:吉村真基建築計画事務所|MYAO
Structure Design/構造設計:萬田隆、小林充/tmsd萬田隆構造設計事務所
Structure/構造:木造/一部鉄骨造
地上2階
foot print/建築面積:101.74m2
Gross floor area/床面積:140.56m2
Photo Credit:坂下智広