SHARE 玉井洋一による連載コラム “建築 みる・よむ・とく” 第1回「小屋の佇まい ─── 角地の小屋」
建築家でありアトリエ・ワンのパートナーを務める玉井洋一は、日常の中にひっそりと存在する建築物に注目しSNSに投稿してきた。それは、誰に頼まれたわけでもなく、半ばライフワーク的に続けられてきた。一見すると写真と短い文章が掲載される何気ない投稿であるが、そこには、観察し、解釈し、文章化し他者に伝える、という建築家に求められる技術が凝縮されている。本連載ではそのアーカイブの中から、アーキテクチャーフォトがセレクトした投稿を玉井がリライトしたものを掲載する。何気ない風景から気づきを引き出し意味づける玉井の姿勢は、建築に関わる誰にとっても学びとなるはずだ。
(アーキテクチャーフォト編集部)
小屋の佇まい ─── 角地の小屋
新宿の角地に建つ小屋。
外装はチャコールグレーの金属サイディングと黄色の役物で交互に覆われている。
黄と黒の配色は工事現場のトラテープのようで小屋の存在を歩行者や車に対して注意喚起している。奥に見える工事足場と色合いが似ていることから都市における仮設物のマナーを小屋なりに実践しているようだ。
小屋の外形はビルの外壁を一面とした歪な五角柱である。各コーナーにある役物は外壁より下に100mmほど伸びていて木製柱の根元を雨水から保護している。
役物は構造的には脇役だけれど、役物が小屋を支えているようでカッコいい。ふとヨーロッパの古典建築に見られる「付柱」を思い出したが、そういった建築の歴史が小さな建物を堂々と見せている理由かもしれない。
少し引いて小屋を眺めると、小屋から離れるように緩いカーブの白線が道路に描かれている。白線は都市が生んだ歩行者と車を分かつサインであるが、敷地の隅切りを道路と同じアスファルトで舗装したために小屋と白線が離れて見えていると考えられる。結果的に小屋の前にゆったりとした路側帯が生まれていて前庭のようで興味深い。
「役物」と「白線」。小屋を取り巻く何でもない要素が、都市に建つこの小屋の佇まいをユニークなものにしている。
小屋は物理的に小さいから、ひとつひとつの要素が持つ役割や影響が相対的に大きくなる傾向があり、建築に関する気づきが多い。小屋が引き寄せるささやかな連関を今後も見つめていきたい。
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玉井洋一
1977年愛知県生まれ。2002年東京工業大工学部建築学科卒業。2004年東京工業大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了。
2004年~アトリエ・ワン勤務。2015年~アトリエ・ワン パートナー。