SHARE SDレビュー2021の入選作品の展覧会レポート(後編)。“実施を前提とした設計中ないしは施工中のもの”という条件の建築コンペで、若手建築家の登竜門としても知られる
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- 2021年9月18日(土)–9月26日(日)
SDレビュー2021の入選作品の展覧会レポート(後編)です(前編はこちらからどうぞ)。“実施を前提とした設計中ないしは施工中のもの”という条件の建築コンペで、若手建築家の登竜門としても知られています。本記事では展覧会の様子を前編・後編に分けて紹介します。会期は2021年9月18日~26日(土日祝日はPeatixでの事前予約が必要です)。SDレビュー2021の審査を務めたのは古谷誠章、赤松佳珠子、小西泰孝、原田真宏でした。
SDレビューとは
SDレビューは、実際に「建てる」という厳しい現実の中で、設計者がひとつの明確なコンセプトを導き出す思考の過程を、ドローイングと模型によって示そうというものです。
実現見込みのないイメージやアイデアではなく、実現作を募集します。
1982年、建築家・槇文彦氏の発案のもとに第1回目が開催され、以降毎年「建築・環境・インテリアのドローイングと模型」の展覧会とその誌上発表を行っております。
以下、入選作品を前編に続き展示順に掲載します。
岐阜のいちご作業所・直売所・遊び場
伊藤維
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余剰材を一次産業的視点で転用・混交する建築
若いいちご農家が子育てをしながら選別出荷や直売をする六次化農業の小さな拠点に、訪れる人が子どもと楽しく滞在できる場も加えた「作業所・直売所・遊び場」を計画している。建設予算が250万円と限られる分、彼らが持っていた中古ビニルハウスのパイプ構造材1棟分と、多少の木端材を建設に使う検討から設計を始めた。パイプのカーブ形状を生かし、主屋の屋根構造やベンチ、ぶどう棚等に再構成し、作業場・子どもの場所・遊び場といった様々なスケールを設えようとしている。
検討の過程で、そのまま床構造になる大きなCLT板など「端材」を製材所から破格で調達したり、知人から無料で貰える大量のコンクリートブロックに行き当ったりした。また他案件の解体現場でシンクや厚めの合板も引き取り、設計に組み込んでいった。DIYと大工・左官の友人による少ない工種・手数で4号建築を作るべく、彼らに馴染みあるハウスの構法に、木造金物、ブロックの捨て型枠基礎などを混成していく。
主役となる余剰材・端材・解体材は、「〇〇を作りたいからこれを用意する」という二次産業的な視点では「不要」とされた物々だが、本計画では、それらを「△△があるならこう作れる」という、旬の食材を料理するような一次産業的視点でブリコラージュする。それが同時に、農と遊びの混ざる場に似つかわしい建築を作る可能性に繋がるのではないか、と模索している。
チャマンガの工房
筒井伸+両川厚輝+本田圭+川崎光克+いとうともひさ+小串マルセロ賢司+倉橋風人
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本プロジェクトでは、エクアドルの漁村チャマンガにおいて地域に開かれた工房を建設します。工房の主体は「ラス・バンブセラス(竹で作る人々の意)」という女性組合で、これまで竹を用いた家具を製作し近隣の都市部で販売してきました。このことは、収入を得ること以上に、女性たちの居場所と生きがいを見つけることに繋がっていました。しかし、コロナ禍によって出荷先だったレストランなどが閉鎖し、家具の需要もなくなってしまったため、活動を中断せざるを得なくなりました。本プロジェクトでは、家具を用いて建築の一部を作ることを提案しています。建築という使い途があれば、需要に左右されず安心して家具を作ることができるからです。
チャマンガは2016 年エクアドル地震の被災地でもあり、私たちはこれまで数回に渡って復興支援の国際建築ワークショップを行ってきました。現地には、先住民ケチュア由来の言葉で「minga(ミンガ)」と呼ばれる、協働作業の文化があります。本プロジェクトでは、このミンガを現代において再解釈し、新しい協働のあり方を模索しています。具体的にはオンラインを活用したワークショップやミンガによる建設を行い、その中でアイディアを共有しながら設計・施工プロセスを進めていきます。
これらを通して、地域の枠を越えた協働のあり方を捉え直すとともに、震災やコロナ禍で揺さぶられてきた地域の住民たちと一緒にもう一度新たな居場所を作っていきます。
森の町とPavilion
滑田崇志+斉藤光+伊藤実香+三浦翔太
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これは地域の森のための建築である。施主は森であり、このプロジェクトは、まち、産業を支える新しい建築のつくり方の実践である。集成材を極力用いず、地域材を地域の中だけで加工ができる重ね梁を強いシンボルとし、地域の人が誇りを持てる建築となることを目指した。建築行為が、林産業をめぐる川上/川中/川下の連携を強くし、社会、人間、空間、ものを関係づけ、秩序立てるシナリオだ。そして、地方都市の林産業の再生を予言している。
ローテクが地域の支えとなること。機能の大きさに応じた縦ログの箱をおき、その箱の上に、重ね梁を橋のように掛け渡す。重ね梁は、2mに及ぶ積雪を支える梁である。重ね梁は、断面寸法120×240の4M杉材を高さ方向に8本重ね合わせて、高さ1920mmの大きな一対の梁桁を形成している。ログの箱は、川の流れに変化をもたらす岩石のように、重ね梁によって覆われた短冊空間の流れのなかで、アクティビティにゆらぎとアフォーダンスを付与する。
設計が終わった頃、新型コロナウィルス、ウッドショックによる木材価格の高騰、納期遅延が始まった。270立米にも及ぶ木材を使用する本プロジェクトも影響が甚大となることも想定されたが、地域内での伐採、製材の準備を進めていたことから無事着工することができた。地域の森を舞台とした小さな経済のつながりの可能性について改めて気付かされた。
中川運河再生計画案「みんなの運河」
米澤隆建築設計事務所+中川運河キャナルアート
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1932年に全線供用が開始され、名古屋港と都心を結ぶ水運物流の軸として名古屋の経済・産業の発展を支えてきた歴史をもち、かつては「東洋一の大運河」と呼ばれた中川運河は、社会状況の変化とともにその役割を失い、現在は都市の裏側に隠れ放置されてしまっている。このような状況を受け、2012年に、中川運河の水辺に新たな価値や役割を見出し市民のための運河へと再生させようと『中川運河再生計画』が策定された。本提案は中川運河再生計画』をベースとして、これまでに市民から寄せられた様々な意見を基に、それらをビジュアル化するかたちで中川運河の将来像を描いたものである。市民の意見を反映しつつそのことが中川運河の水辺空間の豊かさへと繋がることを意図して、河と建築を取り巻く7層のレイヤーを考案し、それをプラットフォーム(7線譜)として市民の意見をコード(和音)へと変換し、全延長10.3kmに及ぶ長大な中川運河流域をシームレスにデザインすることで、みんなの運河としての壮大なシンフォニーを奏でる。
踏切の家
斧田裕太+杉中浩之+杉中俊介+杉中瑞季+杉中真由美
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ここは100年前に線路を建設するため建てられた元飯場だった住宅。線路と土手に挟まれ敷地には、幅80cmの専用踏切をわたり入る。依頼人は代々この家で暮らしていた元教師。退職後、建物の老朽化の為、改修を機に地域に開いた場所を作っていきたいとの思いがあった。
敷地がある道明寺は文化・歴史のある地域であり、近年では地域住民の高齢化が進む中、子育て世代の流入も多く、周囲には児童・学校施設が多く存在する。そこに地域の人々にとって開かれた、hub(拠点)となる場所を計画する。
敷地は線路建設と同時期に土手が築造され、両者に挟まれた陸の孤島となり、メインのアクセスは小さな踏切のみとなった。また、母屋は増築を重ねるごとに、徐々に建物全体が中庭を囲い込んだ閉鎖的な間取りになっている。そこに建物と敷地を横断する「一本の道」を通す。
土手側からは河川敷を利用している人の新たな流れを呼び込むとともに、線路側は今までプライベートとして利用されていた踏切が、パブリックに開かれたエントランスに変わる。その道には建物内部のアクティビティがあふれ出す。
建物中では、地域性、代々住人の歴史から「学び」をコンセプトに、「身体」と「食」をテーマにした教室を開くことで、誰もが自由に参加できる学びのhubとして開放していく。
今まで閉じていた場所に一本の道ができる事で、新たに人や知識に出会える場となり、小さな踏切がその入口となっていく。
野生の所作
天野亮平+西本光
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野生の所作
例えば背丈ほどある草原では、草々は状況に応じて、光を捉え、水を遇い、風を往なし、地に定着している。これらの動作は他律的でありながら、その時々に繊細に対応する自律的な所作のようでもある。こうした視座から、周囲に降りかかる現象さえもひとつの設計材料として建築をつくることができたなら、その空間は私達が想像するよりもずっと、その場所に適した居場所の姿なのかもしれない。余生の治具
北海道の小さな町に住む祖母の為の計画である。かつて家族で住んでいた家でひとり、庭いじりを趣味として生活している。歩行が困難になりつつある祖母の為に、居間から庭への動線を設計するとともに、時に通路、縁側、温室、倉庫、風除室として、周囲に発生する現象と、空間を構成する要素が干渉し合うことで祖母が手をかけることなく、その時折々に祖母の生活をささやかに支えるような空間の設計を試みた。作法の膳立
行ったのは建築を構成する部材自体の反応の調停と、それを成立させる仕組の設計である。屋根は薄い鉄板を用い、積雪量に応じて塑性変形を繰り返し、換気、断熱を担う。柱は円弧状の薄い鉄板を用いて既存住宅の地梁を控壁とし、屋根の荷重、変形に追従する。壁は円弧状の開口を有するフェンスで二重で覆い、採光、断熱を担う。地階は既存住宅の基礎を利用し倉庫、貯水槽の役割を担う。それぞれがその時折々に現象に反応することで祖母の為の機能が変幻していく。
農家住宅の不時着
場と人をつなぎ直す 建築と庭の遷移
伊藤孝仁+渡邉貴明+吉田葵+高橋卓+堀江欣司
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群馬県前橋。ロードサイドの内側に集落の名残をもつ地域がある。母屋や蔵、畑や庭を抱える農家住宅が連なる一方で、場をケアする担い手の不在や土地の収益性を理由に、集落の風景がアパートや駐車場に日々置き換わっている。
この地で代々農業を営んできた家族の歴史を追いかけ見えたのは、庄屋として地域の生活を支えてきた求心力が戦後の農地改革以後解体され、専業農家→兼業農家→週末農家と代を追うごとに農との距離が生じる過程であった。人と土地を繋ぐ重力が弱められ今にも「離陸」しそうな風景の中、それでも育てられる作物は自分たちで育てる施主家族の生活に魅力を感じた。
家族を取り巻く建物や外構といった物的環境の変遷はダイナミックであり、区画整理の際も蔵や倉庫が曳家され、大きな松や枇杷は移植され生き延びた。庭のあちこちに解体された母屋の材料が転がり、石や農道具が畑に埋まっている。遷移の中にあるたくましい繋がりの痕跡や、土と共にある生活の楽しさを手がかりに「着地」をどのように描けるか。
剪定に作業車を要する大松を道路側に移植することで、敷地を分断していたアスファルトを剥がし、ルームと呼ぶ親密なスケールの空間の連なりと奥行きによって建築と外構を相互浸透させる。この集落がもつ建築と庭の市松配置構造を継いでいく今後30年の遷移を、解体や減築、改修や新築を組み合わせ、動くもの/動かないものを再定義しながら農家住宅の営繕を計画している。
■展覧会情報
東京展
会期:2021年9月18日(土)~9月26日(日)会期中無休
11:00-19:00(最終日は16:00まで)
※土日祝日はPeatixでの事前予約が必要です
会場:ヒルサイドテラスF棟 ヒルサイドフォーラム
東京都渋谷区猿楽町18-8