本記事は学生国際コンペ「AYDA2021」を主催する「日本ペイント」と建築ウェブメディア「architecturephoto®」のコラボレーションによる特別連載企画です。今年の「AYDA」日本地区のテーマは「音色、空間、運動」。このテーマにちなみ、現在活躍中の建築家に作例を交えながら色彩と空間の関係について語ってもらうインタビューを行いました。昨年、全4回にわたり公開された色彩に関するエッセイに続き、本年は建築家の青木淳と芦沢啓治の色彩に関する思考に迫ります。作品を発表する度に新鮮な驚きを与えてくれる二人。その色彩に関する眼差しを読者と共有したいと思います。
第6回・前編では、芦沢啓治が改修設計を手掛け2021年2月にオープンした「Karimoku Commons Tokyo」を題材に、ご自身の設計手法や色彩についての考え方を語ります。「Karimoku Commons Tokyo」は築37年の鉄骨造ビルをフルリノベーションした家具メーカー・カリモクのショールーム&ギャラリー。その室内は、塗装仕上げの内壁によって主役である展示物を魅力的に見せ、なおかつ心地よい緊張感をもたらす上質な空間となっています。はたして、いかなるプロセスで壁面の色を決めたのか。また、空間のデザインにおいて何を重視しているのか。建築設計やインテリアデザインを志す方々には必読の内容となっています。
※このインタビューは感染症予防の対策に配慮しながら実施・収録されました。
空間全体のハーモニー
――塗装といえば白を選ぶ建築家が多いと思うのですが、芦沢さんは幅広いグレー系統の色を場所ごとに巧みに使い分けている印象があります。なかでも2021年2月にオープンした「Karimoku Commons Tokyo(以下、Karimoku)」の内壁は、3フロアともグレー系統でありながら各階ごとに微妙に色を変えているのが印象的でした。フロアごとの色の違いはどのように決められたのでしょうか。
芦沢:まずフロアごとに床面を覆う素材が違い、さらに外光の入り方が異なるため、素材感や色味を微妙にコントロールする必要がありました。たとえば1階の床はコンクリート、2階はフローリング、3階はコンクリートとフローリングの両方を使っています。
その上で、2階は壁と天井をほぼ同じ色で塗り込んで全体的な空間として見せることを意図しました。それに対して3階は天井を少し暗めにして記憶に残らないような操作をしています。
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――実際に足を運んで、空間の絶妙な色合いが、置かれている家具と見事に調和していることに驚きました。色が決まるまで相当な試行錯誤があると聞きましたが。
芦沢:材料や照明、色は、建築の質を最終的に決める大事なところですから、毎回トライ&エラーの連続で、「これ!」という判断がなかなかつきにくい。今でもストレスです。
たとえば色は午前中のできるだけ色味の偏りが少ない光で見て判断します。照明も、空間の雰囲気にどれが映えてくるのかを気にしながら、現場で決めることが多々あります。
――実際どのような判断基準で「これ!」と決めるのでしょうか。
芦沢:まず重要なのは、空間の中に家具を全部並べた時にハーモニーを奏でていることです。だから壁は、家具と真逆の色にはしません。
――3階の窓際で床が高い部分は壁が塗装ではなくモルタルの掻き落としになっています。それはどのような判断で決められたのでしょう。
芦沢:その部分は外光がさんさんと入り、まるでバルコニーのようだったので、外部的なイメージで1階ファサードに使った掻き落としを持ち込みました。左官材も色をコントロールできるので、天井の色に合わせてモルタルに少しだけ黒を混ぜています。