中村拓志&NAP建築設計事務所による、沖縄・恩納村の「風突のケアハウス」。難病の子を持つ家族に生きる活力を補充してもらうため施設で、子どもの目線等で楽しめる空間設計をすると共に、健常者の研修施設として社会そのものをケアすることを目指す photo©Koji Fujii / TOREAL
中村拓志&NAP建築設計事務所による、沖縄・恩納村の「風突のケアハウス」。難病の子を持つ家族に生きる活力を補充してもらうため施設で、子どもの目線等で楽しめる空間設計をすると共に、健常者の研修施設として社会そのものをケアすることを目指す photo©Koji Fujii / TOREAL
中村拓志&NAP建築設計事務所による、沖縄・恩納村の「風突のケアハウス」。難病の子を持つ家族に生きる活力を補充してもらうため施設で、子どもの目線等で楽しめる空間設計をすると共に、健常者の研修施設として社会そのものをケアすることを目指す photo©Koji Fujii / TOREAL
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中村拓志&NAP建築設計事務所 が設計監理した、沖縄・恩納村の「風突のケアハウス」です。難病の子を持つ家族に生きる活力を補充してもらうため施設で、子どもの目線等で楽しめる空間設計をすると共に、健常者の研修施設として社会そのものをケアすることが目指されました。
旅行が難しい重度の難病の子とその家族を沖縄本島恩納村に招き、生きる活力を補充してもらうためのケアハウスである。施主である公益社団法人「難病の子どもとその家族へ夢を」からは、最後の旅かもしれないと覚悟して来る家族が多い中で、難病の子を病人として扱う無味乾燥な施設ではなく、子どもらしく親らしくいられて、旅の体験が家族の絆を一層深められること、そして将来わが子が亡くなったとしても、家族が再訪して、思い出と共に静かに過ごせる場、さらに健常者が他者への思いやりと優しさを深めるための研修施設となることが求められた。敷地は2階レベルであれば海が見えたが、施主は沖縄らしい植生の庭に包まれた平屋で、難病の子どもを持つ家族たちとスタッフが互いの気配を感じながら一体的に過ごすことを望んだ。
設計においてはまず、一日中寝たきりで天井や窓を見つめている子どもの身体に寄り添いたいと考えた。その子たちの目線や身体スケールに合わせて、横臥位でも外の景色や風を楽しめる掃き出し窓や、 低い入口と天井、そして仰向けになって見上げる中央には約1.8mの直径で奥行き8mの風突と高窓を設けた。これによって、日中上空で強い風が吹いている時は気圧差により、風突が室内の空気を上昇させ排気を促す。凪の時の客室では風突から暖気を逃がし、掃き出しの低い窓から北庭の日陰の空気を引っ張る煙突効果が生まれている。
水の中庭は、気象庁の風向頻度統計と現地調査をふまえ、昼は海と崖下の川から吹き上がり、夜は山から吹き下ろす方位に抜けを設けた。中央の水盤には、外周部との温度差で涼しい風が通り抜ける。ガラスの入ってない天窓から雨や風が入り込み、太陽や雲によって照度が刻々と変化する内省的な空間である。静謐なホールの壁沿いのベンチに腰を掛けると、天窓からの光が水盤に反射し、その水紋が天井に炎のように揺らめく。私たちはそれを「心に灯す炎」と呼んで家族への励ましととらえている。
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中村拓志&NAP建築設計事務所による、沖縄・恩納村の「風突のケアハウス」。難病の子を持つ家族に生きる活力を補充してもらうため施設で、子どもの目線等で楽しめる空間設計をすると共に、健常者の研修施設として社会そのものをケアすることを目指す photo©Koji Fujii / TOREAL
中村拓志&NAP建築設計事務所による、沖縄・恩納村の「風突のケアハウス」。難病の子を持つ家族に生きる活力を補充してもらうため施設で、子どもの目線等で楽しめる空間設計をすると共に、健常者の研修施設として社会そのものをケアすることを目指す photo©Koji Fujii / TOREAL
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中村拓志&NAP建築設計事務所による、沖縄・恩納村の「風突のケアハウス」。難病の子を持つ家族に生きる活力を補充してもらうため施設で、子どもの目線等で楽しめる空間設計をすると共に、健常者の研修施設として社会そのものをケアすることを目指す image©NAP建築設計事務所
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以下、建築家によるテキストです。
風の歌を聴く
旅行が難しい重度の難病の子とその家族を沖縄本島恩納村に招き、生きる活力を補充してもらうためのケアハウスである。施主である公益社団法人「難病の子どもとその家族へ夢を」からは、最後の旅かもしれないと覚悟して来る家族が多い中で、難病の子を病人として扱う無味乾燥な施設ではなく、子どもらしく親らしくいられて、旅の体験が家族の絆を一層深められること、そして将来わが子が亡くなったとしても、家族が再訪して、思い出と共に静かに過ごせる場、さらに健常者が他者への思いやりと優しさを深めるための研修施設となることが求められた。敷地は2階レベルであれば海が見えたが、施主は沖縄らしい植生の庭に包まれた平屋で、難病の子どもを持つ家族たちとスタッフが互いの気配を感じながら一体的に過ごすことを望んだ。
設計においてはまず、一日中寝たきりで天井や窓を見つめている子どもの身体に寄り添いたいと考えた。その子たちの目線や身体スケールに合わせて、横臥位でも外の景色や風を楽しめる掃き出し窓や、 低い入口と天井、そして仰向けになって見上げる中央には約1.8mの直径で奥行き8mの風突と高窓を設けた。これによって、日中上空で強い風が吹いている時は気圧差により、風突が室内の空気を上昇させ排気を促す。凪の時の客室では風突から暖気を逃がし、掃き出しの低い窓から北庭の日陰の空気を引っ張る煙突効果が生まれている。
体の自由が利かない子にとって、風はたくさんの情報を届けてくれる存在だ。松林を駆け抜ける海風、虫や鳥たちの鳴き声、琉球独特の花の香り、そして湿った潮や雨の匂い。このような「風の景」が、子どもと沖縄の風土を繋いでくれると考えた。プランは周辺環境に等しく開かれた円形で、どの部屋も外に面している。大浴場や皆が集うLDKは庭に大きく開かれた明るい部屋、4つのコンパクトな客室は少し暗めで、疲れやすい子が休むことができる静かな空間となっている。
水の中庭は、気象庁の風向頻度統計と現地調査をふまえ、昼は海と崖下の川から吹き上がり、夜は山から吹き下ろす方位に抜けを設けた。中央の水盤には、外周部との温度差で涼しい風が通り抜ける。ガラスの入ってない天窓から雨や風が入り込み、太陽や雲によって照度が刻々と変化する内省的な空間である。静謐なホールの壁沿いのベンチに腰を掛けると、天窓からの光が水盤に反射し、その水紋が天井に炎のように揺らめく。私たちはそれを「心に灯す炎」と呼んで家族への励ましととらえている。
屋上庭園では、中央の円形ベンチから碧い海と街、サトウキビ畑が360度見渡せる。求心的な水の中庭と遠心的な屋上庭園。動と静の対比的なふるまいを空間側で用意した。屋上階段はスタッフや親が車椅子を両側から支えて昇降しやすい構造で、階段というバリアを思いやりや思い出づくりとして肯定的に捉えている。これは施主からの言葉、「バリアフリーは彼らの自由と尊厳を守るものだが、バリアをすべてなくすことはできない。むしろ、どんな人にも存在する物理的・精神的バリアに気づき、分かり合い、助け合うことが必要で、それを促すバリアなら、ここではあってよい」という考えに基づいている。
上述した、難病の子どもたちの目線や小さな身体に合わせた空間は、健常者にとって不便で、時にバリアとなるかもしれない。これはもう一つの役割である健常者の研修施設として、他者の身体性を想像して同一化することが、バリアフリー社会実現の基盤になると考え試行したものだ。そのような「ふるまいの実践」を通して、この施設は私たちが構成する社会そのものをケアすることを目指している。
(中村拓志)
■建築概要
題名:風突のケアハウス / Care house of the Wind Chimneys
所在地:沖縄県国頭郡恩納村
敷地面積:1,220.20㎡
総床面積:317.50㎡
構造:RC造
設計:中村拓志&NAP建築設計事務所
施工:旭建設
竣工年月:2020年2月
竣工写真:Koji Fujii / TOREAL