小野良輔建築設計事務所が設計した、鹿児島・奄美大島の別荘「住倉」です。砂浜が眼前に広がる集落で施主不在時にも地域に愛される建築を目指し計画、“佇まい”を意識した検討の末に伝統建築“高倉”を想起させる形態を考案、離島固有の文脈の継承も試みられました。
奄美大島南部に位置する、美しい砂浜が眼前に広がる集落内の別荘である。
使われない時間が長い別荘建築は、家主不在の際はどうしても防犯上閉じたものにせざるを得ないが、佇まいに風景の一部としての自然さがあれば建築は集落に溶け込み愛されるものになるという考えのもと、「建築を開くことにより獲得する公共性」ではなく、「風景の一部としての佇まいの公共性」を目指している。
奄美の伝統的建築には、高温多湿・台風災害・かつての貧困の苦しみの記憶など、過酷な風土を乗り越えるため先人が導き出した切実さや力強さがあるように感じる。そのような現在失われつつある切実さ・力強さの遺伝子を再読し、現代に継承したいと考えた。ここでは、プロポーション・ディテール・工法に島の建築や風景、暮らしなどをコラージュ的に統合するプロセスを設計に組み込んだ結果、奄美の伝統的建築である高倉(高床式倉庫)を想起させるプロポーションのダイアグラムにたどり着いた。
「離島」というコンテクストが持つ遺伝子を継承するような建築を目指したこの建築は、現場監督や集落の人々からは、今のところ「懐かしい、昔ながらの家だ」という声が多く聞こえている。どんな家の形式とも違うはずのこの建築がそう評されていることは、きっと喜ばしいことなのだと思う。
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以下、建築家によるテキストです。
奄美大島南部に位置する、美しい砂浜が眼前に広がる集落内の別荘である。
使われない時間が長い別荘建築は、家主不在の際はどうしても防犯上閉じたものにせざるを得ないが、佇まいに風景の一部としての自然さがあれば建築は集落に溶け込み愛されるものになるという考えのもと、「建築を開くことにより獲得する公共性」ではなく、「風景の一部としての佇まいの公共性」を目指している。
奄美の伝統的建築には、高温多湿・台風災害・かつての貧困の苦しみの記憶など、過酷な風土を乗り越えるため先人が導き出した切実さや力強さがあるように感じる。そのような現在失われつつある切実さ・力強さの遺伝子を再読し、現代に継承したいと考えた。ここでは、プロポーション・ディテール・工法に島の建築や風景、暮らしなどをコラージュ的に統合するプロセスを設計に組み込んだ結果、奄美の伝統的建築である高倉(高床式倉庫)を想起させるプロポーションのダイアグラムにたどり着いた。
大空間を小屋裏に持つこの形式は、かつて食料貯蔵という生死に関わるシリアスな機能を担っていた高倉の空間を、人が集まる・子どもが走り回る・何もせずただ波の音を聞く余暇を過ごすなど、そこで許容される行為を豊かにする付加価値的空間として生まれ変わった。
小屋裏の形態はトラス構造による安定性と、見付面積を抑えることによる耐風圧性能向上を両立させるために方形屋根を参照している。頂部は排熱のための機械換気設備・日よけの装飾木工を設け、室内温熱環境の向上を図っている。また小屋裏の床はすのこ状になっており、自然風とトップライトからの光を1階まで引込むことで空間全体が過ごしやすい環境となる。
1階はベッドスペースを除いてほぼ土間の、海で遊んで体についた砂を運んできたり、あるいは釣った魚を持ってきたりとラフに使っても気にならない、オーナーが島暮らしを楽しむためのコンパクトな生活空間である。
敷地周囲に巡らせた塀は無塗装の杉板をコンクリート柱に落とし込んだだけの作りで、必要に応じて開放することも可能にした。はじめは外壁と同色だった無塗装の杉板が経年変化でグレーに変わり、より周囲に馴染むようにしている。
「離島」というコンテクストが持つ遺伝子を継承するような建築を目指したこの建築は、現場監督や集落の人々からは、今のところ「懐かしい、昔ながらの家だ」という声が多く聞こえている。どんな家の形式とも違うはずのこの建築がそう評されていることは、きっと喜ばしいことなのだと思う。
■建築概要
タイトル:住倉
所在地:鹿児島県大島郡
主要用途:別荘
建築設計:小野良輔建築設計事務所/小野良輔
構造設計:円酒構造設計/圓酒昂
施工管理:アオイ・ホーム/青井実
造園設計・施工:浦田庭園設計事務所/浦田知裕
天窓装飾木工:KOSHIRAERU/寶園純一
敷地面積:218.50㎡(66.1坪)
建築面積:73.71㎡(22.3坪)
延床面積:104.34㎡(31.6坪)
建ぺい率:33.8%
容積率:47.8%
階数:2階建て
構造:木造
設計期間:2018年9月~2020年1月
施工期間:2020年1月~2020年10月
竣工年月:2020年10月
建築写真:石井紀久