SHARE 工藤浩平建築設計事務所による、東京・渋谷区の「初台の店舗改修」。畳店を雑貨店へ改修する計画で、賃貸期間が限られる可能性にコストの掛け方から検討し設計、“残す所”と“更新すべき所”を評価して“変わらないけど変わる状態”を目指す
工藤浩平建築設計事務所が設計した、東京・渋谷区の「初台の店舗改修」です。畳店を雑貨店へ改修する計画で、賃貸期間が限られる可能性にコストの掛け方から検討し設計、“残す所”と“更新すべき所”を評価して“変わらないけど変わる状態”を目指しました。店舗の公式サイトはこちら。
都内にある約40年、地元に根付いていた畳屋さんを雑貨屋さんに変える店舗改修の計画である。
貸主は畳屋を辞めることを決めていたけれど、あと数年この場所を使ってくれる人がいたらという思いの中で、借主の雑貨屋さんとめぐり会った。数年で土地を売るかもしれないということもあり、微妙な時間のスパンの中で、どこまでお金をかけるのかという問題があった。また室内は畳や機材などの物で溢れかえっており、決して綺麗とは言えない状態の場所であったため、限られた予算と小さな工夫でこの場所の特性を活かせる方法について思いを巡らせた。
まず私たちはこの建物の何が良くて、何を更新するべきかを評価軸に乗せて計画していった。
街の記憶を評価して時計を残したり、既存の建具は老朽化により評価できず更新をしたり、天井にある既存トラス梁は状態が良く評価していたが、その周りの入り乱れた古い配管の処理に費用がかかることため評価することができず、やむなく隠すことにした。
また天井を綺麗に隠す方法を探っていると、クライアントから布は安く入れ、縫製も自分たちでできるということだったので、天井の膜として使うことを決めた。この天幕により、内からは天膜の隙間からトラス梁が見え、外からは思いっきり天井裏が現れたりする。
つまりは、私たちは畳屋である元ある雰囲気を残しながらも、変わらないけど変わる状態を目指しているのだ。
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以下、建築家によるテキストです。
50%評価する、50%評価しないこと
都内にある約40年、地元に根付いていた畳屋さんを雑貨屋さんに変える店舗改修の計画である。
貸主は畳屋を辞めることを決めていたけれど、あと数年この場所を使ってくれる人がいたらという思いの中で、借主の雑貨屋さんとめぐり会った。
数年で土地を売るかもしれないということもあり、微妙な時間のスパンの中で、どこまでお金をかけるのかという問題があった。また室内は畳や機材などの物で溢れかえっており、決して綺麗とは言えない状態の場所であったため、限られた予算と小さな工夫でこの場所の特性を活かせる方法について思いを巡らせた。
まず私たちはこの建物の何が良くて、何を更新するべきかを評価軸に乗せて計画していった。
街の記憶を評価して時計を残したり、既存の建具は老朽化により評価できず更新をしたり、天井にある既存トラス梁は状態が良く評価していたが、その周りの入り乱れた古い配管の処理に費用がかかることため評価することができず、やむなく隠すことにした。
また天井を綺麗に隠す方法を探っていると、クライアントから布は安く入れ、縫製も自分たちでできるということだったので、天井の膜として使うことを決めた。この天幕により、内からは天膜の隙間からトラス梁が見え、外からは思いっきり天井裏が現れたりする。
つまりは、私たちは畳屋である元ある雰囲気を残しながらも、変わらないけど変わる状態を目指しているのだ。
とりわけ、私たちが評価した、既存のある部分の状態を、クライアントが評価しない、またはそれが逆転することがよくあったが、人によって「普通」と「特別」の線引がこうも違うのか、ということを、身を以て実感した。
■建築概要
敷地:東京都
用途:店舗
設計:工藤浩平、川上華恵(工藤浩平建築設計事務所)
施工:住建トレーディング東京支店
設計期間:2021年12月~3月
施工期間:2021年4月~5月
撮影:楠瀬友将
種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) |
---|---|---|
内装・壁 | 間仕切り壁 | プラスターボード12.5mm+EP[N-70] |
内装・天井 | 天幕 | 布・施主支給 |
内装・建具 | 建具 | ラワンフラッシュ、強化ガラス8mm |
内装・家具 | 造作什器 | ラワンランバー t18mm |
内装・水廻り | 便器 | アメージュ(リクシル) |
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『KJ2022年4月号 特集:工藤浩平建築設計事務所』
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(リードテキストの一部)
「普通」であることと、「特別」であることの先に、
日々の暮らしのなかで、ある人が当たり前だと思っていることが、わたしたちには特別だと思えたり、あるいはその逆に、わたしたちが普通だと思うことが、誰かにとっては特別なことに感じられたりする。今回、特集を組んでもらうにあたって、4年間、試行錯誤しながら設計してきたプロジェクトをまとめて振り返ってみると、ひとつひとつのプロジェクトは、わたしたちとクライアントの間にある「普通」と「特別」のすれ違いをどう建築にしていくのか、その右往左往の結果であったのかもしれない。「普通」と「特別」は人によって違う、なんてことは今のご時世、当たり前のことなのだろう。だけど、当たり前のことを改めて考えてみたいのだ。
「普通」と「特別」の関係。例えば、建築における構成は、プログラムにふさわしいカタチと、その地域や場所にふさわしいカタチのせめぎ合いの結果、生まれる。プログラムにふさわしいカタチは、一般的に普通と考えられているカタチで、地域や場所にふさわしいカタチは、一般的には特別だと考えられているカタチなのだろう。でもクライアントからすれば、自分達の習慣から生まれてくるカタチの方が普通で、一般的に考えられているカタチは効率は良さそうに思えるけど、なんだか身体が馴染まない気がするのかもしれない。
わたしたちが「地域の習慣」や「地域の特性」と呼んでいるものは、こうした人と人の間にある「普通」と「特別」のすれ違いを、別のことばで言い表したものではないのだろうか。「普通」と「特別」の認識のずれを「地域の特性」という一言で片付けてしまって、狡猾に地域特性の一部を借りて設計に取り入れるのもいいのだろうけど、果たしてそこに、リアリティはあるのだろうか。
KJ2022年4月号 特集:工藤浩平建築設計事務所
サイズ:A4版変形88ページ
定価:1,650円(本体1,500円)
発行日:2022年3月15日
ISBN:978-4-904285-88-6