SHARE 永山祐子建築設計がデザインアーキテクトを担当した、アラブ首長国連邦の「2020年ドバイ国際博覧会日本館」。万博テーマを受け日本と中東の繋がりを表現する事を目指し計画、両文化の伝統的な“幾何学文様”に注目して建物を覆う立体格子を考案、遠く離れた地で素材や工法によらず日本を表現
永山祐子建築設計がデザインアーキテクトを担当した、アラブ首長国連邦の「2020年ドバイ国際博覧会日本館」です。
万博テーマを受け日本と中東の繋がりを表現する事を目指し計画、両文化の伝統的な“幾何学文様”に注目して建物を覆う立体格子を考案、遠く離れた地で素材や工法によらず日本を表現する事が意図されました。
本館は、総合プロデュースを電通ライブ、設計統括・意匠設計をNTTファシリティーズ、構造・設備・ファサードエンジニアリングをArupが担当しています。ドバイ国際博覧会は、2021年10月1日から2022年3月31日まで開催されました。
2020年ドバイ国際博覧会のテーマ「Connecting Minds, Creating the Future」を受けて、本館では日本と中東の繋がりを文化、環境、技術の側面から表すことを考えた。
両文化の伝統的な「幾何学文様」。どこか似通っている文様はシルクロードを介した両文化の繋がりを想起させる。日本の伝統的な麻の葉文様を立体格子にし、建物を覆う構造体とした。立体格子は見る角度によって複雑なアラベスクのような文様が生まれ、ふたつの文化を示す文様が表現される。
格子に約2,000枚の小さなPTFEメッシュ膜を張り、強い日差しから建物を守る。小さな膜が風に揺れ建物全体が微振動し、繊細な光と影を生む。折り紙を思わせる膜の集積。折り紙はもともと折形礼法が発祥であり、来場者をお迎えする顔にふさわしいと考えた。
遠い中東、使用材料の制限や現地の建設事情も考慮してグローバルな素材、明快なシステムを使い、素材や工法によらずに日本を表現したいと考えた。コロナ禍でなかなか現地に赴くことができなかったが、思い描いた形で実現できた。
一度消えそうになった水盤は、理念に賛同した協賛者の方々のご支援によって復活した。まさに万博テーマを体現した日本、ドバイの設計チームおよび賛同して下さった方々の多大なる尽力があってこそである。ここから新しい繋がりが生まれ、次の2025年大阪・関西万博に続くことを願う。
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以下、建築家達によるテキストです。
メッセージを醸成する営み
text:關本丹青+小川大志/電通ライブ
課題解決の場である万博においては「何をつくるか」より「何を伝えるか」の方がはるかに重要である。
そのメッセージは、建築、展示、運営、広報、行催事など総合的且つ一気通貫の営みにより、時代が投影された印象として世に放たれる。一方、ものづくりには、言葉より多くメッセージを伝え、プロセスを通じて未来に継承すべき大きな価値を生み出す側面がある。今回の日本館は、万博のテーマ「Connecting Minds, Creating the Future」、日本館のテーマ「アイディアの出会い」を建築的に具現化したものであり、展示空間を有する本館と民間事業者による日本食のレストラン棟によって構成される。コンセプトの実現にはじまり、展示や運営、行催事との協業、民間事業社と共にひとつの風景をつくり上げるなど、多岐にわたるプロセスを経るなか、お互いの尊重の上に各パートが力を最大限発揮し、各々が響き合い高め合う関係を築けた時、メッセージの力は最大化する。
個の尊重と共栄が求められる時代において、今回のパートナーシップで成し得た成果が文化や技術、価値観の壁を超えるひとつの解決のありようを示し、持続可能な未来社会に引き継がれる財産となることを期待したい。
日本と中東の繋がりを象徴するパヴィリオン
text:永山祐子
2020年ドバイ国際博覧会のテーマ「Connecting Minds, Creating the Future」を受けて、本館では日本と中東の繋がりを文化、環境、技術の側面から表すことを考えた。
文化の繋がりを象徴する幾何学文様
両文化の伝統的な「幾何学文様」。どこか似通っている文様はシルクロードを介した両文化の繋がりを想起させる。日本の伝統的な麻の葉文様を立体格子にし、建物を覆う構造体とした。立体格子は見る角度によって複雑なアラベスクのような文様が生まれ、ふたつの文化を示す文様が表現される。
格子に約2,000枚の小さなPTFEメッシュ膜を張り、強い日差しから建物を守る。小さな膜が風に揺れ建物全体が微振動し、繊細な光と影を生む。折り紙を思わせる膜の集積。折り紙はもともと折形礼法が発祥であり、来場者をお迎えする顔にふさわしいと考えた。
環境、技術の繋がりを象徴する水
中東から見た日本の魅力の上位は「四季のある美しい自然」「先端技術」である。
その環境、技術、ふたつの要素を繋ぐのが「水」だ。水資源の豊富な日本は、美しい四季を生む一方、脅威にもなり得る水と共に生きてきた。中東は水資源が少なく、水=オアシスは古来から憧れの対象である。以前から日本の水技術が中東の水事情を支えていた。建物の前面に象徴として水盤を設け、両文化古来の水と風の環境システムを取り入れた。水盤を通る風が気化熱で冷やされ、涼しい風が建物内部に入り込む。
白銀比の平面形状と配置
初めて訪れた手がかりのない砂地の敷地で考えたのは宇宙的視点であった。
砂漠地ではピラミッドに用いられた黄金比(1:1.618)が有名だが、日本には白銀比(1:1.414)がある。そこで台形の敷地に対して建物の平面形状を白銀比の二等辺三角形とし、残った二等辺三角形に水盤を据えた。屋根付き遊歩道の角地に建つ敷地条件に対して、この配置は両方の道から視線を受け止めるのに有効になる。三角平面から生まれるパースペクティブはエントランス空間に心地よい緊張感をもたらした。
遠い中東、使用材料の制限や現地の建設事情も考慮してグローバルな素材、明快なシステムを使い、素材や工法によらずに日本を表現したいと考えた。コロナ禍でなかなか現地に赴くことができなかったが、思い描いた形で実現できた。一度消えそうになった水盤は、理念に賛同した協賛者の方々のご支援によって復活した。まさに万博テーマを体現した日本、ドバイの設計チームおよび賛同して下さった方々の多大なる尽力があってこそである。ここから新しい繋がりが生まれ、次の2025年大阪・関西万博に続くことを願う。
多様な叡智を結集した建築計画
text:鈴木構造+小清水一馬/NTTファシリティーズ
本計画では建築設計事務所だけでなく、展示設計・運営企画などさまざまな関係者と協働し、マスターアーキテクトとして建築計画をまとめ上げることが求められた。
建築設計チームとして、現地特有の法規制や慣習も考慮し、日本およびドバイの多様な国籍・専門性を持つメンバーによるチームビルドを行った。チームの叡智の結晶ともいえるKUMIKO FAÇADEに包まれた、やわらかな光と風を取り込む半屋外空間を、来場者がさまざまな角度・高さから体験できるように動線計画や展示室等のプランニングを行った。また、受付・待合・アプローチ・ホワイエ・退場動線空間という、展示施設としての共用空間の大半を半屋外化することで、エネルギー負荷を最小化したサステナブルな建築を実現した。
設計プロセスにおいては、意匠・構造・設備一貫してBIMを用いた。エンジニアリング面では、Arupとの協業体制を組み、そのチーム内でもBIMデータは国籍や文化・専門性を超える意思疎通ツールとして最大限活用された。施工段階では、COVID-19の影響により、現地渡航が困難になったが、WEB上での情報管理システムの導入や、完了検査のリモート実施など、設計・監理・施工者の叡智を結集して困難に打ち勝った。
KUMIKO FAÇADEのエンジニアリング
text:徳渕正毅+繁永幸治+天野裕/Arup
力強い三角形状のパヴィリオンと水盤の間に存在する光と風を優しく透過する「柔らかい皮膜」である。
小片の膜を支持する立体格子は、構造を自立させるための1次部材と膜を支持する2次部材が集中的に取り付くジョイント部をいかにして小さく実現できるかが課題であった。1次部材による面を折版形状とすることで面外剛性を確保し、部材数を減らし、「組子≒アラベスク」のコンセプトイメージを具現化した。航空機の設計に も用いられるハイエンド3DCADツールCATIAを導入し、VRでの検証を行った。膜は施工当初ベージュ色だが紫外線により安定した白色となるフッ素樹脂膜材を選定し、各位置での光の入り方を考慮してレイアウトを決定している。建物との接続部はローラー支承/両端ピン軸力材を配置し、建物地震力をファサードに伝達させない構造としている。
海外の施工者から膜の接合バネ等の優れた提案を受け、より洗練されたパヴィリオンの「顔」となった.
■建築概要
作品タイトル:2020年ドバイ国際博覧会日本館
所在地:アラブ首長国連邦ドバイ
主要用途:展示施設
主体構造:鉄骨造
杭・基礎:直接基礎
建主:日本貿易振興機構
幹事省:経済産業省
副幹事省:総務省 文部科学省 農林水産省 国土交通省
総合プロデュース:電通ライブ
担当/關本丹青, 竹林正雄, 小川大志
設計・監理
デザインアーキテクト:永山祐子建築設計
担当/永山祐子, 花摘知祐, 芳野航太, 中村祐太郎
設計統括・意匠設計:NTTファシリティーズ
統括/坂元剛夫
担当/鈴木耕造, 榎木靖倫, 小川大志(元所員), 佐藤章, 小清水一馬, 一杉泰生, 北村篤, 川口哲太郎
構造・設備・ファサードエンジニアリング:Arup
構造担当/徳渕正毅, Alice Tjitradjaja, 張 含露(元所員), Paul Simmonite, Rick Chana, Sean Lineham, Simone Materazzo
設備担当/菅健太郎, 竹中大史, 駒井洋介, 小林真太朗(元所員), 池田元気(元所員), Callum Hulme, Paul Collins, Baqir Al-Alawi, Khaled Abou-Alfa, Abdul Shaick, Alexander Bacon, Oksana Domnina, Muniyappa Chandra, Mary Varghese, Dermot O’Donnell, Philip McGlynn(元所員) , Kevin Gausden, Muttahir Salim
ファサードエンジニアリング担当/繁永幸治, 天野裕, 上原雄貴, 二宮颯佑, Aatisha Gupta(元所員), Stuart Clark, Lanre Lawale
監理:Arup
担当/Paul Simmonite, Paul Collins, Simone Materazzo, Baqir Al-Alawi, 菅健太郎, 徳渕正毅
監理:ECG
担当/Karim Kamel, Mostafa Ibrahim Khalil, Shatha Charif
施工(建築):大林ミドルイースト
統括/真田久親
建築担当/中村伸也
設備担当/Ghulam Khan
施工(設備):きんでん
敷地面積:5,161㎡
延床面積:3,519㎡
規模:地上2階建 1階:1,855㎡ 2階:1,627㎡ 塔屋階:37㎡
容積率:63%
最高高:14,000mm
軒高:11,100mm
敷地条件:2020年ドバイ国際博覧会 会場内 Self build pavilion country Extra-large plot
設計期間:2018年7月~2019年7月
施工期間:2019年8月~2021年4月
写真:2020年ドバイ国際博覧会日本館