SHARE 新居千秋都市建築設計による、神奈川・横浜市の複合施設「港南公会堂及び港南土木事務所」。地下に残る既存躯体と法規制等による制限の中、隣接住宅地への影響を最小限にすべく段々状に後退する形態とし屋上を緑化、地下駅舎への配慮と機能要求から生まれた突き出た躯体が建築を特徴づける
新居千秋都市建築設計 / 新居千秋+吉崎良一+池田隆志+濱松千晶+亀田浩平が設計した、神奈川・横浜市の複合施設「港南公会堂及び港南土木事務所」です。
地下に残る既存躯体と法規制等による制限の中、隣接住宅地への影響を最小限にすべく段々状に後退する形態とし屋上を緑化、地下駅舎への配慮と機能要求から生まれた突き出た躯体が建築を特徴づけています。
公会堂、土木事務所、区民活動支援センターからなる複合施設である。
もともと敷地には旧・港南区総合庁舎が道路境界線ぎりぎりまで建っていて、既存地下躯体を解体することができなかった。
そこで既存地下躯体を山留めとして再利用することとし、その内側におさまるよう新築部分の平面を計画した。断面的には、道路斜線制限と地区計画高さ規制をクリアし、隣接する住宅地への圧迫感と日影も最小限にするため、段々状にセットバックする形態とし屋上緑化を施した。このように平面、断面ともに非常に厳しい形態制限のなかで、限られたボリュームの中にコンパクトに各施設をまとめる必要があった。
さらに隣接する地下鉄駅舎への影響を最小限とするため、地下躯体は鎌倉街道から大きく離し、かわりに上部躯体をSRC造として約8mオーバーハングさせた。これにより市民に要望された諸室面積を確保すると同時に、駅前広場に大きな軒下のような空間が生まれた。RC打放しの軒はそのまま内部のホワイエまで連続し、この建物の象徴的な空間となっている。
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以下、建築家によるテキストです。
公会堂、土木事務所、区民活動支援センターからなる複合施設である。
もともと敷地には旧・港南区総合庁舎が道路境界線ぎりぎりまで建っていて、既存地下躯体を解体することができなかった。
そこで既存地下躯体を山留めとして再利用することとし、その内側におさまるよう新築部分の平面を計画した。断面的には、道路斜線制限と地区計画高さ規制をクリアし、隣接する住宅地への圧迫感と日影も最小限にするため、段々状にセットバックする形態とし屋上緑化を施した。このように平面、断面ともに非常に厳しい形態制限のなかで、限られたボリュームの中にコンパクトに各施設をまとめる必要があった。
さらに隣接する地下鉄駅舎への影響を最小限とするため、地下躯体は鎌倉街道から大きく離し、かわりに上部躯体をSRC造として約8mオーバーハングさせた。これにより市民に要望された諸室面積を確保すると同時に、駅前広場に大きな軒下のような空間が生まれた。RC打放しの軒はそのまま内部のホワイエまで連続し、この建物の象徴的な空間となっている。
地下鉄との位置関係により、エントランスホールやホワイエは北側に配置される構成となるため、ホワイエには大きな開口部を設け、北からのやわらかい光を取り入れ開放感が感じられるように意図した。公会堂事務室もホワイエの自然光を妨げないよう、建物中心に入れ子状に配置し、機能的にも建物全体をくまなく見渡せる計画となっている。
公会堂事務室はかまくらのような特徴的な形状で、断面的にも入れ子状になっている。これにより限られたスペースのホワイエ空間に連続性を生み出した。劇場内部は、敷地条件等からおのずとシューボックスに近い矩形平面となった。波打つような曲面天井は音響シミュレーションにより気積・形状を決定している。壁と天井の仕上げには、特殊ケイカル板にルーター加工を施して区の花であるヒマワリを刻印した。これは装飾的役割だけでなく反射音を拡散させる機能を持っており、結果的に響きのやわらかい、音響的にも優れたホールとなった。客席椅子、緞帳もヒマワリをモチーフとして、今回のためにデザインした。
地上には24時間自由に通行できるピロティ状の遊歩道をもうけ、地下鉄駅から港南区総合庁舎までを結ぶ歩行者空間を生み出した。また鎌倉街道に面して約500㎡の駅前広場をつくることで、開かれた市民のための憩いの場が生まれた。
土木事務所として災害時拠点となることを踏まえ、重要度係数は1.5を確保した高耐震の建物とし、発電機などの非常用設備や、3日間の非常用トイレをまかなえる汚水槽などを計画している。
公会堂ということもあって、肩肘のはったデザインというよりも、地域の人たち、とくに子ども達が喜んでくれるような明るく楽しいデザインにしたいと考えた。長く市民に親しまれ、愛される建物になってくれることを願っている。
これまでの経緯
2015年5月~7月にかけて設計プロポーザルが行われた。
敷地条件などから1階が土木事務所・区民活動支援センター、2階が公会堂となるため、市民のための公会堂と街の連続性をいかに生み出すかが重要なポイントであると考え、以下の3点を主軸に提案を行った。
①1階レベルに「遊歩道」をつくり、地下鉄から新・港南区役所まで雨に濡れずに歩けること。
②敷地のレベル差を生かし、2階の公会堂にエレベーターを用いず舞台道具が搬入できること。
③鎌倉街道側に「緑の丘」を提案し、市民が公会堂にスムーズにアクセスできるようにすること。
このようなコンセプトが評価され、我々が設計者に選定された。
③についてはその後の地下鉄、地区計画、開発などの各種協議の結果、段々状の広場としては実現されなかったが、大きな屋外階段によって公会堂と街との連続性は保たれ、また軒下空間はより大きくなり開放的な駅前広場が当初のコンセプト通り実現されることとなった。
空間を実現するために・・・
外観上の最大の特徴である北側上部躯体の約8mのオーバーハング部分については鉄骨造とし、主体構造であるRC部分から吊ることで解決している。結果として、RC、S、SRCの3種類の構造を用いている。
跳ねだし部分は主体構造から柱梁とブレースによって支えられており、和室や公会堂会議室ではそれらの構造体を現しとしている。
また1階の遊歩道沿いにも450□の鉄骨トラスを採用し、立面に特徴を与えている。本来であればここは劇場躯体を支えるための壁が必要であったが、壁で塞いでしまうと遊歩道や土木事務所への採光・通風がなくなってしまうため、地震力を負担しつつ光と風を通すトラス状の構造体が採用された。
解体と新築を一体的に計画
前述の通り既存地下躯体を残し、山留として活用しながら新築躯体を築造する必要があったため、設計においても施工においても、常に解体と新築を一体的に計画する必要があった。また敷地は地下水位が高く、地表1mから被圧地下水が湧き出す状況であったため施工は非常に困難を極めたが、施工者の努力により無事故で工事が完了した。
内装計画
公会堂ホワイエについては、外観と同じくRC打放し仕上げを基調としている。
最も特徴的なのは2階のホワイエで、オーバーハングした軒裏がそのまま室内に入りこみ、RC打放し仕上げの天井となっている。
天井設備もすべて躯体打込みとなるため、空調、衛生、電気、舞台音響、舞台照明の各種設備の取り合い検討・および配管施工を躯体打設前にすべて完了しなければならなかった。また天井が曲面形状のため、各種設備の取付予定位置に対して、曲面形状・設備機器サイズにあわせて1カ所ずつ形が異なる特注のスタイロアンコを型枠に固定し、ヌスミを取った。
ホワイエの壁仕上にはガラスタイルを併用している。各室内の機能を満たしつつ、ホワイエの広さも確保できるギリギリのラインで平面を決定した結果、波打つような形状となったガラスタイルが自然光を反射し、光を室内深くまで導いている。硬質なイメージのホワイエに対比するように、和室や公会堂会議室では仕上げに木材を多用し、温かみのある空間になるよう意図している。
外装計画
外壁はすべてRC打放仕上げとし、水平・垂直共900mmピッチで目地を入れている。通常よりも細かく目地を入れることにより、フライタワーなどの大きなRC壁面に対しても、クラックによる漏水リスクを最小限にしている。(私たちの経験上、標準的な打継目地・誘発目地だけでは劇場建築の巨大な壁面のクラックは吸収しきれない)。
また劇場は階高が高く段床もあるため、打継目地を水平に統一することはほぼ不可能である。意図しない箇所に打継目地が入ってしまうとデザインを損ねることになってしまうが、細かく目地を入れておけばそのどこかで打継を行うことができるので、当初の外観イメージを守った施工が可能となる。
アルミサッシは窓ごとにLow-Eガラスの色を変え、ステンドグラスのように変化に富んだ外観を生み出している。また通常のRC抱き納まりではなく出窓納まりとすることで、外観に立体感と陰影を与えている。
構造計画
柱スパンが大きな客席・舞台の屋根については鉄骨梁によって支持し、屋根スラブも遮音性のためにRCスラブとした。
計画地北側の街道下に地下鉄の駅があり杭の施工範囲が制限されるため、一部ハングオーバーとなる部分を鉄骨造にして軽量化し、RC造躯体側から吊ることで支持した。
講堂の天井については、屋根構造と一体に挙動する支持構造を設け、そこに直接取付ける準構造とすることで、特定天井とならない計画とした。基礎計画としては、経済性、工期を考慮して既存躯体のうち地下外壁および底盤を残して仮設利用した。
■建築概要
事務所名:株式会社 新居千秋都市建築設計
建築名称:港南公会堂及び港南土木事務所
所在:横浜市港南区港南中央通10-1
建築主:横浜市
用途:公会堂、土木事務所、区民活動支援センター
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設計・監理
建築:新居千秋都市建築設計 担当/新居千秋、吉崎良一、池田隆志、濱松千晶、亀田浩平(元所員)
構造:金箱構造設計事務所 担当/金箱温春、内山裕太
音響:永田音響設計 担当/稲生眞、箱崎文子、服部暢彦
劇場コンサルタント:シアターワークショップ 担当/戸田直人
道路:丸眞 担当/河合真吾
監理:新居千秋都市建築設計 担当/新居千秋、吉崎良一、池田隆志
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施工
建築:松尾・大洋・安藤建設共同企業体 担当/大越巨、竹内繁充
設備:ヨコレイ・エヌケイテクノ建設共同企業体 担当/宮本雅敏
電気:向洋・エスシーイー建設共同企業体 担当/金子治
空調:ヨコレイ・エヌケイテクノ建設共同企業体 担当/宮本雅敏
舞台音響:ヤマハサウンドシステム株式会社 担当/阿部真
舞台照明:パナソニックLSエンジニアリング株式会社 担当/唐沢翔太
リフター:朝日輸送株式会社 担当/鈴木智裕、中村亮
昇降機:フジテック株式会社 担当/廣川泰重
発電機:荏原商事株式会社 担当/森聡
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規模
敷地面積:3007.95m2
建築面積:1920.69m2
延床面積:5940.57m2
建蔽率:63.8%(許容80%)
容積率:158.8%(許容300%)
各階床面積:地下1F/1417.70m2,1F/1605.98m2,2F/1677.48m2,3F/1084.44m2,4F/91.48m2,スノコレベル/63.49m2
階数:地上4階,地下1階
階高/天井高:3.7m/2.4m
最高軒高/最高高さ:19.62m/20.67m
駐車台数:26台
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敷地条件
地域地区:(近隣商業)
道路幅員:東6.2m,南4.0m,北21.9m
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構造
主体構造:鉄筋コンクリート造、一部鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄骨造
杭・基礎:現場打ちコンクリート杭
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期間
設計期間:2015年8月〜2018年3月
施工期間:2018年12月〜2021年3月
種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) |
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外装・屋根 | 屋根 | アスファルト防水3層、ポリスチレンフォーム、押えコンクリート |
外装・壁 | 外壁 | コンクリート打放し仕上げ |
外装・建具 | 開口部 | アルミ建具、ステンレス建具 |
外構・床 | 舗床 | 石貼り、コンクリート刷毛引き仕上げ |
外構・植栽 | 植栽 | クロガネモチ、シラカシ、タブノキ、陽光サクラ、サツキツツジ、オオムラサキツツジ、ハマヒサカキ、ドウダンツツジ |
外構・植栽 | 屋上緑化 | サカキトリカラー、オオムラサキツツジ、ハイビャクシン、フィリフェラオーレア |
内装・床 | ホワイエ床 | 石貼り |
内装・壁 | ホワイエ壁 | コンクリート打放し仕上げ、ガラスモザイクタイル |
内装・天井 | ホワイエ天井 | コンクリート打放し仕上げ、有孔金属天井 |
内装・床 | 客席床 | チーク縁甲板t15着色ウレタン塗装 |
内装・壁 | 客席壁 | 特殊ケイカル板 ヒマワリ柄レリーフ加工 |
内装・天井 | 客席天井 | 繊維混入石膏板 ヒマワリ柄レリーフ加工 |
内装・床 | 和室床 | 本畳 |
内装・壁 | 和室壁 | 天然木練付不燃合板 |
内装・天井 | 和室天井 | 天然木練付不燃合板 |
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