SHARE 平井充+山口紗由 / メグロ建築研究所による、東京・武蔵野市の「棚畑ハウス」。地域風景の残る街で僅かな浸水予測がある道に接した敷地、未来への備えと環境への応答を兼ねた“土手が庭を兼ね建築を取り巻く”構成を考案、内部では“ウチニワ”と呼ぶ機能を固定しない場が多様な活動を許容
平井充+山口紗由 / メグロ建築研究所が設計した、東京・武蔵野市の住宅「棚畑ハウス」です。
地域風景の残る街で僅かな浸水予測がある道に接した敷地、未来への備えと環境への応答を兼ねた“土手が庭を兼ね建築を取り巻く”構成を考案、内部では“ウチニワ”と呼ぶ機能を固定しない場が多様な活動を許容する事が意図されました。
この住宅は、武蔵野の風景が色濃く残る、中央線沿いの閑静な住宅地に建つ。
駅から歩くと、桜やケヤキが茂る玉川上水を軸に、雑木林の公園が点在している。住まい手の家族は、大学教員の夫と専業主婦の妻、そして小学生の姉弟2人である。それまで賃貸マンションに住んでいたクライアントは、農地から宅地となって売りに出されていたこの土地を購入して、住宅を建てることになった。
この地域は、目視で把握しにくい緩やかな起伏があり、敷地が接する道路の交差点が窪地であった。僅かではあるがハザードマップで浸水箇所となっていたため、土手が庭を兼ねて建築を取り巻くかたちが面白いと考えた。
土手は、階段状の棚畑にして平場を作れば、子供の遊び場や研究室の学生が来たときのBBQで腰掛けに使える。さらに、植物が立体感を増長して室内と道路の間に重層的な間を取ることもできる。そうなると、見るためだけの庭であることより、踏み荒らしても強い野草を中心に植えて使えるほうが、生活と植物が共存する武蔵野の風景に相応しいと思えた。
棚畑を登った先は、大きな開口部で室内と連続した小さな丘のてっぺんのような場所だ。ここは、居場所を固定化するような物は置かず、室内の庭のような性格としてウチニワと名付けた。
このニュートラルな中心の周りに、枝葉のように小さく分散化された空間の襞を結びつけることで、多焦点な居場所を作っている。ウチニワは、全ての居場所が隣り合わせることで、家全体に呼べば答えられるくらいの緩い繋がりを生み出せるし、それぞれの居場所から溢れ出したアクティビティも吸収できる。出窓に腰掛けておやつを食べたり、書斎がウチニワに溢れることもあるだろう。
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以下、建築家によるテキストです。
ルーズに繋がる多焦点の居場所
この住宅は、武蔵野の風景が色濃く残る、中央線沿いの閑静な住宅地に建つ。
駅から歩くと、桜やケヤキが茂る玉川上水を軸に、雑木林の公園が点在している。住まい手の家族は、大学教員の夫と専業主婦の妻、そして小学生の姉弟2人である。それまで賃貸マンションに住んでいたクライアントは、農地から宅地となって売りに出されていたこの土地を購入して、住宅を建てることになった。
この地域は、目視で把握しにくい緩やかな起伏があり、敷地が接する道路の交差点が窪地であった。僅かではあるがハザードマップで浸水箇所となっていたため、土手が庭を兼ねて建築を取り巻くかたちが面白いと考えた。
土手は、階段状の棚畑にして平場を作れば、子供の遊び場や研究室の学生が来たときのBBQで腰掛けに使える。さらに、植物が立体感を増長して室内と道路の間に重層的な間を取ることもできる。そうなると、見るためだけの庭であることより、踏み荒らしても強い野草を中心に植えて使えるほうが、生活と植物が共存する武蔵野の風景に相応しいと思えた。
棚畑を登った先は、大きな開口部で室内と連続した小さな丘のてっぺんのような場所だ。ここは、居場所を固定化するような物は置かず、室内の庭のような性格としてウチニワと名付けた。
このニュートラルな中心の周りに、枝葉のように小さく分散化された空間の襞を結びつけることで、多焦点な居場所を作っている。ウチニワは、全ての居場所が隣り合わせることで、家全体に呼べば答えられるくらいの緩い繋がりを生み出せるし、それぞれの居場所から溢れ出したアクティビティも吸収できる。出窓に腰掛けておやつを食べたり、書斎がウチニワに溢れることもあるだろう。
ダイニングは、テーブルと椅子をウチニワに引き寄せれば、可動間仕切りを閉じて来客用の寝室となる。家の中心にあたる最も環境のよい場所は、機能を固定するよりも、ニュートラルなままにしておくほうが生活の変化に対応して、空間全体をレジリエンスなものにする。ここで重要なのは、居場所を単に多焦点化させるのではなく、ルーズに繋ぐウチニワがあって初めて多様な展開を可能にしているということだ。
ウチニワと棚畑の境界には、出窓状のベンチを作っている。人が寄り付く居場所があると、外界の近さが意識化されて境界の存在は希薄になるからだ。棚畑の緑は、ウチニワに目を向けると室内のどこからでも目に飛び込んでくるので、外に広がる居場所の一つとして感じられるようになっている。また、ウチニワは、出窓を介した外界と居場所の距離感をコントロールする場でもある。
窓を介した外界との距離感を考えるうえで、ヒッチコックの映画『裏窓』は面白い。この映画では、怪我で足が不自由な主人公が、大きな窓がある部屋から移動することなくストーリーが進んでいく。ヒッチコックは、主人公が窓からせいぜい1~2mほど前後する動作だけで、外界との関係の濃淡を巧みに描いている。車椅子に乗った主人公が窓辺から離れて姿に影が落ちるシーンでは、窓を介した外界との関係性を断つ瞬間を陰影と物理的な距離で表現している。そこには、明るく快適だが他者がいる外界と、影に守られた奥の両立こそが、棲み家の原始的な成立条件であることを示している。ウチニワの周りに接続するダイニングやキッチン、書斎や2階などは、そういった奥にあたる。
ちょうど竣工後に、新型コロナによる自粛生活が始まった。
籠り中心の生活では、ダイニングの可動仕切りがオンライン授業や会議、子供の習い事など個人の使用で活躍していた。玄関土間兼書斎に設けた手洗い場が、帰宅直後の手洗いとしても役立っている。夏には、棚畑にビニールのプールを置いて子どもたちが遊んだという楽しい話も聞いた。今回の自粛生活では、形式的な住宅の間取りのように固定化された居場所の限界と、新たな住まいのあり方を模索することの有効性が実証される機会となったように思う。
■建築概要
工事種別:新築
主要用途:専用住宅
所在地:東京都
設計:メグロ建築研究所 平井充+山口紗由
構造:寺戸巽海構造計画工房
外構・造園:戸村英子設計事務所
施工:匠陽 加藤勝
敷地面積:120.50㎡
建築面積:48.83㎡
延床面積:85.23㎡
設計:2018年5月~2018年10月
竣工:2019年10月
写真撮影:鳥村鋼一
種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) |
---|---|---|
外装・屋根 | 屋根 | ガルバリウム鋼板竪はぜ葺き t=0.4mm |
外装・壁 | 外壁 | ガルバリウム鋼板平葺き t=0.4mm |
外装・建具 | 建具 | |
内装・床 | 床 | モルタル金ゴテ仕上 |
内装・壁 | 壁 | シナベニヤ t=5.5 クリア塗 |
内装・天井 | 天井 | シナベニヤ t=5.5 |
内装・キッチン | キッチン | システムキッチン:I型L-2,100 プレーンKミディアム(サンワカンパニー) |
内装・照明 | ペンダント照明 | |
内装・金物 | レバーハンドル | |
内装・金物 | シリンダー彫込箱錠 | |
内装・金物 | 蝶番 | No.162 サテンニッケル(BEST) |
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