砂越陽介 / Yosuke SAGOSHI Atelierが設計した、東京・板橋区の、小規模複合施設「11-1 studio」です。
元工場を設計者の事務所・シェア工房・シェアカフェが入る場に改修、町工場の並ぶ風景の継承を目指して各工程を近隣の職人に分離発注し地域の“技術展示場”となる空間を構築、交流を生み出しつつ新たな存続方法を模索しています。施設の公式サイトはこちら。
池袋の町工場街の一角に建つ工場兼住居だった鉄骨造3階建ての1階部分(工場・事務所・車庫)を、設計事務所・シェア工房・シェアカフェからなる小規模複合施設へと改修し、「地域商工業の今後に示すオルタナティブ」をコンセプトに、設計者自身が入居し運営を行う。
計画当初から近隣の町工場に各工程を分離発注しながら一部自主施工する方針で設計を進めた。
実際の工事も、建具や内装木下地を工務店に、造作家具を木工家具工場に分離発注。キッチンと事務スペースを分けるバックカウンターの木架構等は設計者自身が材木屋の下小屋を借り、在庫木材を加工したのち、現場にて自主施工する方法で行った。工房スペースの床に貼られた杉貫材は、材木屋の木立場で日常的に見かけた汎用材である。
こうしてできあがった空間は地域の交流拠点であると同時に、いわば地域の「技術ショールーム」なのである。
業者や他者に一括委託するような方式ではなく、自主運営を基本としながら、そこに地域の人々が自由に気軽に主体的に参加しやすい空間・仕組を同時に実現している。
また既存製造業者のキュレーションを行い、その特色を活かしたイベントを共同企画開催することで、商工業者と地域の人々の接点をつくる取り組みを積極的に行なっている。コロナ禍にありながら創業以来1年半、多くの繋がりが生まれてきている。
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以下、建築家によるテキストです。
1. 概要|11-1studio
池袋の町工場街の一角に建つ工場兼住居だった鉄骨造3階建ての1階部分(工場・事務所・車庫)を、設計事務所・シェア工房・シェアカフェからなる小規模複合施設へと改修し、「地域商工業の今後に示すオルタナティブ」をコンセプトに、設計者自身が入居し運営を行う。
重量鉄骨による堅甲な構造体を表しで活用。町工場が立ち並ぶ街路に面した広い開口の車庫を土間断熱改修、オープンキッチンと木製連引き戸を追加することで、街路に開かれた居住性の良いカフェ・交流スペースとして再生した。
また工場に残されていた大工道具を整理し、それらを使用してものづくりができるシェア工房を整備し隣接させ、視認できるよう設計した工具棚で仕切った。これらのシェア工房およびカフェスペースは、設計者自身も設計事務所設備の一部として使用しながら、同時に地域に開いた場所として運営し、利用者によるものづくりと地域に現存する町工場とを繋ぐ仕組みを組み立てている。
現在、商店街や町工場の多くが事業承継に課題を抱えている。承継されなければ廃業し土地として売却する選択肢しかない現状に対し、そうではないオルタナティブを、町工場だったこの場所に建築として示していく。
2. 既存の建物・周辺環境|建物単体の一部を改修し運営することより、町工場街全体の将来への布石をつくる
豊島区池袋の西側、板橋区との区境付近には今も低層の住宅地が広がるが、そんなエリアの谷端川緑道沿いの一角、小さな町工場が軒を連ねていた街路がある。材木屋、木工家具屋、建具屋、工務店、屑鉄屋、電子部品屋、そしてアイロン台工場。多くは戦後焼け野原の東京にて創業し戦災復興と共に成長していった工場である。
搬出入のための広い開口が道に面し、中で職人さんが作業する風景や音が日常の風景としてあった。
時代は昭和から平成へと進み、軒を連ねた町工場は徐々に減っていった。事業承継されず廃業、売地となって集合住宅等へと建替えが進む。事業承継されてその3代目が操業を続ける町工場も今後5年前後に事業主の定年を控え、その後のビジョンは見えていない。
建築家である私自身も、祖父がここでアイロン台工場を営み、廃業し、そのまま倉庫同然となった場所から設計事務所を創業するにあたり、思うところがあった。
このエリアに限った話ではなく商店街や町工場等、各地の地域商工業の多くが世代的に同じフェーズにあり、同じ問題を抱えている。
A. 事業承継されてそのまま続いて残っていくこと。
B. 事業承継されず廃業し、取り壊され、全く別の街並みへと建て替わっていくこと。
現状の枠組みや事例にはこの2択しかない。
が、このAでもBでもないオルタナティブな形Cを地域商工業の今後に描けないだろうか。
各々の事業承継問題は建築家である私個人に介入できるものではないので、この場所に、建築という形でそのオルタナティブを示したい。それがこのプロジェクト:11-1 studioの骨格である。計画自体は建物1階部分のみという小さなプロジェクトであるが、街全体の将来を変えていく布石になるという目論見を持って計画を進め、この場所で運営していくことにした。
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3. 地域の技術を顕在化させる設計・施工プロセス
計画当初から近隣の町工場に各工程を分離発注しながら一部自主施工する方針で設計を進めた。
実際の工事も、建具や内装木下地を工務店に、造作家具を木工家具工場に分離発注。キッチンと事務スペースを分けるバックカウンターの木架構等は設計者自身が材木屋の下小屋を借り、在庫木材を加工したのち、現場にて自主施工する方法で行った。工房スペースの床に貼られた杉貫材は、材木屋の木立場で日常的に見かけた汎用材である。
こうしてできあがった空間は地域の交流拠点であると同時に、いわば地域の「技術ショールーム」なのである。
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4. 空間デザインのポイント
(1). 街路との連続性:街路に面して並ぶ町工場の広い間口とそこから見える作業という街の風景を踏襲し、街路から連続した場所に地域の人々が交流する風景が現れるように変換した。
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(2). <つくる>を<見せる>:街路に面したカフェスペースから、キッチン・工房・設計事務所などの「つくる」活動を、壁で仕切るのでなく透明な素材や什器で緩く仕切ることでシームレスに見せ併存させ、異なる活動間の共創が生まれやすい空間とした。
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(3). 柔軟な平面:カフェスペースおよび工房は、地域に開かれた場として、また設計事務所が自主使用する設備の一部として2WAYからの用途に柔軟に切り替えたり伸縮したりできる平面計画とし、専有使用とシェア利用のうまい共存を図った。
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5. 運営
業者や他者に一括委託するような方式ではなく、自主運営を基本としながら、そこに地域の人々が自由に気軽に主体的に参加しやすい空間・仕組を同時に実現している。
また既存製造業者のキュレーションを行い、その特色を活かしたイベントを共同企画開催することで、商工業者と地域の人々の接点をつくる取り組みを積極的に行なっている。コロナ禍にありながら創業以来1年半、多くの繋がりが生まれてきている。
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■建築概要
所在地:東京都板橋区
主要用途:シェア工房・カフェ・設計事務所
建主:11-1 studio
設計・監理:Yosuke SAGOSHI Atelier 担当 砂越陽介
規模・構造:鉄骨造地上3階
施工(分離発注・一部自主施工)
解体:躯体整形 担当 / 井上隼
建築:丸安佐藤建設 担当 / 佐藤成世
土間:原田左官工業所 担当 / 原田宗亮
家具:池袋木工 担当 / 丸山敏雄
電気:いぶすき電設 担当 / 指宿 市朗
衛生:天城興業 担当 / 鈴木典男
空調:エアコンセンターAC 担当 / 喜屋武忠
建築面積:97.02m2
延べ床面積:245.68m2(うち1階 86.9m2)
階高:2,875mm
設計期間:2019年11月~2021年3月
施工期間:2020年4月~2021年6月
建築写真:小川重雄
建材情報種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) | 内装・床 | カフェ・多目的スペース床 | 既存土間撤去の上、断熱材+土間コンクリート金コテ仕上げ+表面硬化剤 セラミキュア(ABC商会)
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内装・壁 | カフェ・多目的スペース壁 | 既存利用[CB壁撤去]
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内装・天井 | カフェ・多目的スペース天井 | 既存天井撤去、デッキプレート現し
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内装・キッチン | SUSキッチン | LGS下地の上、SUS-HL貼り耐水合板 シンク共(シゲル工業)
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内装・造作家具 | 木製収納棚 | 黒板塗料塗布、内部ポリ合板貼り(アイカ工業)
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内装・床 | 工房スペース床 | 既存床の上、ネダフォーム(高島)+合板+杉貫材貼り 木材保護塗料 VATON(大谷塗料) 一部モルタル金コテ仕上げ+表面硬化剤
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内装・壁 | 工房スペース壁 | 既存利用[CB壁撤去]
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内装・天井 | 工房スペース天井 | 既存天井撤去、デッキプレート現し
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内装・造作家具 | アクリル工具棚 | 方立t10mm+背板t8mm アクリル、棚板t24杉集成材
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内装・造作家具 | 作業カウンター | カラーMDFフラッシュ CL塗装、小口ナラ無垢材CL
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