山口誠デザインが設計した、東京・台東区の、オフィスビル「MONOSPINAL」です(竣工前)。
ゲーム制作会社の本社として計画されました。建築家は、従業員の“集中力”と“リラックス”のバランス確保を目指し、環境要素も向上をさせる“斜壁”を持つ建築を考案しました。また、小スケールの素材を集積をさせる仕上げで“あらたな風景”を作る事も意図されました。
東京に本社を置くゲーム制作会社の本社ビル移転計画である。世界中のファンを魅了している最高レベルのクリエイションを、これからも生み出し、ゲーム制作の根幹を支え続ける場所となることを目的に計画された。
ほぼ全ての社員がクリエイション業務に専ら携わっているため、彼らの集中力とリラックスのバランスを確保し、煩わしい運用業務の負担を著しく軽減させたいと考え、計画の重点をそこに置いた。外観を特徴づける建物周囲にめぐらされた斜壁と、セキュリティを含めて全ての設備をタブレットで制御できるシステムを導入することで、それを実現しようとしている。
計画地の正面には高架線路が走り、上下線合わせれば平均1.5分おきに電車が通過している。また、多種多様なテナントの入った小規模な雑居ビルに取り囲まれた場所である。斜壁は光・風・音の環境要素を向上させているが、その高さは階ごとに変わる用途に合わせて適正化させている。
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以下、建築家によるテキストです。
東京に本社を置くゲーム制作会社の本社ビル移転計画である。
世界中のファンを魅了している最高レベルのクリエイションを、これからも生み出し、ゲーム制作の根幹を支え続ける場所となることを目的に計画された。
ほぼ全ての社員がクリエイション業務に専ら携わっているため、彼らの集中力とリラックスのバランスを確保し、煩わしい運用業務の負担を著しく軽減させたいと考え、計画の重点をそこに置いた。外観を特徴づける建物周囲にめぐらされた斜壁と、セキュリティを含めて全ての設備をタブレットで制御できるシステムを導入することで、それを実現しようとしている。
環境性の向上
計画地の正面には高架線路が走り、上下線合わせれば平均1.5分おきに電車が通過している。また、多種多様なテナントの入った小規模な雑居ビルに取り囲まれた場所である。斜壁は光・風・音の環境要素を向上させているが、その高さは階ごとに変わる用途に合わせて適正化させている。
例えば、3Fにはゲームキャラクターのセリフを録音するスタジオがある。そこでは斜壁高さを目一杯高くすることで、線路騒音を低減させている。そして建物周囲への視界を遮断しつつも、斜壁の反射による間接光を取り入れながら、録音時にはゲームの世界観を保つことができる。線路から上空へ離れた5Fでは斜壁は低くなり、雑多な街並みを切り取りつつ、空がよく見える。直接光と間接光のバランスをとりながら、安定した風を室内に取り込まれたダイニングルームでリラックスして食事ができる。
運用業務とエネルギー負荷の軽減
ユーザーがタブレットで直接的・直感的に操作できる制御システムは、スケジュールシステムと完全に連動し、結果的にエネルギー効率をも向上させている。通常は自分の予定をスケジュールに入れておきさえすれば、事前に全ての設備はそのための準備を整えておいてくれる仕組みを構築した。スマートホンからも同じ操作を行うことができ、建物内のセキュリティや設備の状態も、同じアプリで確認と必要であれば操作することができる。また情報管理までを含めた最先端のセキュリティシステムは安全を提供し、クリエイションに集中した環境を提供している。
あらたな風景
斜壁によって、外からは4方向へ解放された内側の様子を窺い知ることはできず、その斜壁はごく身近なスケールといえる10cm幅の細いアルミ板が集まってできている。大きいビルを大きいモジュールでつくるのではなく、小さいスケールをたくさん集めて大きいスケールとすることは、自然物の作られ方や成長の仕方と共通する。そういった作り方をすることで、この町のあらたな風景として立ち現れているようにみえる。
構造計画について
特徴的な斜壁に囲われたバルコニーを、主構造に組み込むか否かを建築家と議論した。階高や斜壁の角度などの自由度を担保し、斜壁の間から見上げる空を構造体が横切らない計画とするため、斜壁は主架構の一部としない方向で進めた。
4階から上のオフィススペース、3階のスタジオ、1・2階の吹き抜けを有するエントランスと、求められる空間の質が異なるゾーンが縦に積層されている。3階のスタジオ階を層間トラスによるトランスファー構造と見立て、上部のオフィススペースの比較的細かい柱グリッドと、下部の四隅の柱に集約した構造システムとを連結させた。
四隅に集約したCFT柱は地下の免震装置の上に荷重を集約することで、免震装置の台数を最小限とし、引き抜きを抑制する合理的な免震構造としている。縦方向の異なる空間ボリュームを、建築計画と合致した構造システムによって、ひとつにまとめるように心掛けた。
(Arup 金田充弘)
断面計画について
主に外来者が利用するエリアを下層階へ配置し、上階へ上がるにつれて関係者のみがアクセスできるフロアとなるように計画している。また高架線路に向き合うことになる2F・3Fには、シアター、スタジオ等など、外部とは切り離して使用する機能を配置した。周囲の建物が立て込んでいる下層階では斜壁は高く、上層階ではそれを低くして開放感を増している。
設備計画について
バルコニーの形状(ジオメトリ)にはGrasshopperによるパラメトリックスタディ手法を用い、直射光の遮蔽、間接光の入射、鉄道騒音の防音の3つの環境要素が最適となるよう計画されている。さらにこの斜壁は、卓越する南北の季節風を屋内へと促すウインドキャッチャーとしての役割も担っている。加えて高効率な空調・換気・照明設備、CO2濃度制御、雨水利用設備などを合わせ、建物全体で高い環境性能を有している。
また主な建築設備は、国際標準で高い相互接続性を持つオープンプロトコル(KNXシステム)を用いて、各機器を集中管理できる構成としており、この建物規模での導入は国内初となる。空調制御やプール水温制御やセキュリティシステムはもとより、照明設備でも同じオープンプロトコルのDALI制御を採用し、KNXから器具ごとに調光・ONOFFなどを行うことができる。
(Arup 荻原廣高)
■建築概要
題名:MONOSPINAL
所在地:東京都台東区
主要用途:事務所
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設計・監理
建築:山口誠デザイン
構造:Arup
設備:Arup
電気:Arup
照明:岡安泉照明設計事務所
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施工
建築:清水建設
外構:SOLSO
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主体構造:鉄骨造、基礎免震構造
階数:地下1階地上8階
地域地区:防火地域、商業地域
道路幅員:東15m 北6m 南8m
敷地面積:802.43㎡
建築面積:521.52㎡
延床面積:3,567.35㎡
建蔽率:64.99%
容積率:444.53%
設計期間:2018年10月~2020年2月
工事期間:2020年3月~2023年6月(予定)
写真:鳥村鋼一