SHARE 田根剛による、ドイツのヴィトラキャンパスに建設された「Tane Garden House」。展望台も備えた庭師の休憩小屋。キャンパスの記憶を紡いだ持続可能な建築を求め、石や木材等の“地上”の素材を可能な限り現地調達して建設。“有機素材”の使用は時を経た際の“味わい深い美しさ”も意図
Atelier Tsuyoshi Tane Architectsによる、ドイツのヴィトラキャンパスに建設された「Tane Garden House」です。
展望台も備えた庭師の休憩小屋です。建築家は、キャンパスの記憶を紡いだ持続可能な建築を求め、石や木材等の“地上(オーバーグラウンド)”の素材を可能な限り現地調達して建設が行われました。また、“有機素材”の使用は時を経た際の“味わい深い美しさ”も意図しています。
ヴィトラの名誉会長であるロルフ・フェルバウムが、建築家の田根剛を車に乗せ、ヴァイル・アム・ラインをともに訪れたのは、今から約3年前のことでした。そして、ロルフ・フェルバウムは彼の幼少期や、現在ヴィトラキャンパスがある土地の歴史や思い出を語りました。田根剛による新たな建築「ガーデンハウス」のアイデアはその時に生まれました。「未来の記憶-Archaeology of the Future」という彼の哲学に基づき、その場所の記憶を紡ぎ未来へと繋ぐガーデンハウスは、2023年6月、アートバーゼル開催に合わせて発表、公開されます。
「設計に至るまでの私たちの長い道のりは、まるで考古学者のように、場所の記憶を探り、掘り起こすことから始まります。知らなかったこと、忘れてしまっていたこと、近代化とグローバル化によって失われてしまったことやものに出会う探求の旅は、驚きと発見に満ちています。すべての場所には、その土地に深く刻まれた歴史があり、これから先もそうであると私は信じています。そして、その記憶は決して過去のものではなく、新たな建築を生み出す源であることも。場所の記憶から未来を構想するプロセスを通じ、考古学は次第に建築へと変わっていきます」と田根剛は語ります。
15㎡というコンパクトな敷地内に建設されたガーデンハウスは、小さなコーヒーキッチンを備え、8名ほどであればそこでワークショップをしたり宿泊も可能な大きさですが、ヴィトラキャンパスの「アウドルフガーデン」を整える庭師の休憩小屋と園芸道具の保管が主要な設計目的です。
ヴィトラキャンパスにある小さな養蜂箱でミツバチの世話をするヴィトラの社員や、現在ガーデンハウスの隣に作っている家庭菜園の管理者も使用できます。外のベンチ、ブーツや園芸道具を洗うための小さな噴水も建物の一部です。さらに、展望台も併設され、アウドルフガーデンや、移築された篠原一男の「から傘の家」など、ヴィトラキャンパスの景観を360度楽しむことができます。
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以下、プレスリリーステキストです。
The new Tane Garden House on the Vitra Campus
2023年6月、アートバーゼルの開催期間中、パリを拠点とする日本人建築家の田根剛(ATTA-Atelier Tsuyoshi Tane Architects)による新たな建築「ガーデンハウス」がヴィトラキャンパスにて発表の時を迎えます。
ヴィトラの名誉会長であるロルフ・フェルバウムが、建築家の田根剛を車に乗せ、ヴァイル・アム・ラインをともに訪れたのは、今から約3年前のことでした。そして、ロルフ・フェルバウムは彼の幼少期や、現在ヴィトラキャンパスがある土地の歴史や思い出を語りました。田根剛による新たな建築「ガーデンハウス」のアイデアはその時に生まれました。「未来の記憶-Archaeology of the Future」という彼の哲学に基づき、その場所の記憶を紡ぎ未来へと繋ぐガーデンハウスは、2023年6月、アートバーゼル開催に合わせて発表、公開されます。
「設計に至るまでの私たちの長い道のりは、まるで考古学者のように、場所の記憶を探り、掘り起こすことから始まります。知らなかったこと、忘れてしまっていたこと、近代化とグローバル化によって失われてしまったことやものに出会う探求の旅は、驚きと発見に満ちています。すべての場所には、その土地に深く刻まれた歴史があり、これから先もそうであると私は信じています。そして、その記憶は決して過去のものではなく、新たな建築を生み出す源であることも。場所の記憶から未来を構想するプロセスを通じ、考古学は次第に建築へと変わっていきます」と田根剛は語ります。
田根剛は自身の思想に加え、持続可能性という観点から、ガーデンハウスの素材となる石や木材は可能な限りその土地で調達され、地元の職人によって建てられました。材料輸送の距離も短く、例えば、採石場と石工を経て運ばれる花崗岩はヴィトラキャンパス28kmまで、木材は50kmという短距離の移動で事足りました。
15㎡というコンパクトな敷地内に建設されたガーデンハウスは、小さなコーヒーキッチンを備え、8名ほどであればそこでワークショップをしたり宿泊も可能な大きさですが、ヴィトラキャンパスの「アウドルフガーデン」を整える庭師の休憩小屋と園芸道具の保管が主要な設計目的です。
ヴィトラキャンパスにある小さな養蜂箱でミツバチの世話をするヴィトラの社員や、現在ガーデンハウスの隣に作っている家庭菜園の管理者も使用できます。外のベンチ、ブーツや園芸道具を洗うための小さな噴水も建物の一部です。さらに、展望台も併設され、アウドルフガーデンや、移築された篠原一男の「から傘の家」など、ヴィトラキャンパスの景観を360度楽しむことができます。
田根剛のガーデンハウスは、篠原一男の「から傘の家」、安藤忠雄の「カンファレンスパビリオン」、SANAAの「カンファレンスパビリオン」に続き、ヴィトラキャンパスにおいて4つ目の日本人建築家による建物です。2023年秋には、ヴィトラデザインミュージアムギャラリーにて、田根剛の建築とガーデンハウスのプロジェクトの製作過程を紐解く特別展を予定しています。
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Interview with architect Tsuyoshi Tane
※ヴィトラの提供によるインタビューです
このプロジェクトが始まったきっかけ、そして最初のアイデアはどのようなものでしたか?
ある日、ヴィトラの名誉会長であるロルフ・フェルバウムが車で迎えに来て、ヴィトラキャンパスまでの道のりを自身で運転して送ってくれました。その時、彼は、幼少期の思い出とともに、かつて祖母に連れられて訪れたこの地には広大な野原しかなかったことなどを語ってくれました。ヴィトラキャンパスが長い時間をかけて建設され、徐々に拡大をした今、次の段階として、持続可能性の観点から、自然に回帰することを構想していると彼は語りました。そして、この目標の第一歩として、ガーデンデザイナーのピート・アウドルフによって設計された多年生植物を基調とする「アウドルフガーデン」を作ったという前置きの後、突然私に、「持続可能性を象徴するような『ガーデンハウス』の設計に興味はありませんか?」と尋ねてくれたのです。
最終的なデザインはどのようなものになりましたか?
ガーデンハウスの設計には3年を費やしました。たくさんの会話やディスカッションを重ねましたが、それはとても必然的な時間でした。現地の素材をただ使うのではなく、素材について深くコミュニケーションするために、その土地の建築の発音から文法を学び、素材の詳細、模様、技術の表現までを探求しました。最終デザインは、とてもユニークで、プリミティブかつ温かみある建築となりました。
複数のニーズに対応するガーデンハウスを設計する上での課題は何でしたか?
課題は設計過程で現れました。アウドルフガーデンの庭師のために作っていたガーデンハウスに、誰もが上がれる展望台を、さらにヴィトラ社員の家庭菜園も、など次々に用途が追加されていきました。そのたびに、持続可能な素材と技術を地元でどのように探すかという課題に直面し、解決法を探り、学ぶことになりました。
あなたの思想である「未来の記憶-Archaeology of the Future」とは、何を意味していますか?
設計に至るまでの私たちの長い道のりは、まるで考古学者のように、場所の記憶を探り、掘り起こすことから始まります。知らなかったこと、忘れてしまっていたこと、近代化とグローバル化によって失われてしまったことやものに出会う探求の旅は、驚きと発見に満ちています。すべての場所には、その土地に深く刻まれた記憶が歴史の中に埋もれています。そして、その記憶は決して過去のものではなく、建築を生み出す原動力となるのです。場所の記憶から未来を構想するプロセスを通じ、考古学はゆっくりと建築になっていくのです。私たちはこれを「未来の考古学」と呼んでいます。
その思想はガーデンハウスのどこに息づいていますか?
私たちは、まず、人類が創造したた「作庭」というものの起源と、庭に付属する家や小屋の必然性を深く掘り下げ研究しました。いくつかの調査と研究を重ねたところで、ロルフ・フェルバウムが、私たちをスイスのバレンベルグ野外博物館に招待してくれました。ここでの経験は、さらに、持続可能性の観点から見た村の生活について考察する機会になりました。
建設素材や材料の由来についてはどの程度重視しましたか?
私たちは、このプロジェクトを「地上(オーバーグラウンド)」の素材で作り上げたいと思いました。現代の建設業界は、あらゆる基準や保証が求められる上に、ほとんどの建物が高度に加工された「地下資源」によって作られています。その結果、私たちは手作業によるクラフトマンシップと有機素材への理解を見失い、持続可能な方法で建築物を建てたり修理したりすることができなくなってしまったと、私は考えています。
ガーデンハウスに使われている素材は耐久性がありますか?年月を経るとともに美しく変化する素材ですか?
はい。ガーデンハウスは耐久性と持続可能性に優れた素材を使っています。硬い工業資材に比べて柔らかさのある有機素材は、時間と年月の経過をしなやかに受け止め、味わい深い美しさを醸し出します。修繕または部材交換が必要な場合でも、持続可能な方法を用いて人の手で行うことが出来るのです。
ロルフ・フェルバウムはこれまで幾多の著名な建築家と協働してきました。彼の豊富な経験は窮屈でしたか?それとも自由にやりたいことを実現できましたか?
ロルフ・フェルバウムは、先見の明のある人物で、私は彼から多大なインスピレーションをもらいました。たくさんの有意義な対話を重ねることができましたし、彼は建築家やデザイナーとの仕事の進め方を熟知しています。彼の意見と言葉は常に明確な方向を示していて、それはヴィトラキャンパスのあらゆるところに反映され、感じ取ることができます。
現在のヴィトラキャンパスとそこにある建築は、あなたにどのような影響を与えましたか?
私はまだ若い建築家であり、ガーデンハウスは著名な建築の傑作に囲まれています。もちろん、規模や用途は異なりますが、独立性と簡素なヴィトラのデザイン精神に合わせてできあがったと思っています。ピート・アウドルフのアウドルフガーデンと篠原一男の「から傘の家」の隣にただ並ぶだけでなく、ヴィトラキャンパスの未来を描こうと試みています。
偉大な日本建築家である篠原一男の「から傘の家」の隣に建設することは、ガーデンハウスのデザインに特別な影響を与えましたか?
私は篠原一男と彼の作品を心から敬意を抱いています。しかし、から傘の家から直接、このプロジェクトに影響を受けることはありませんでした。ガーデンハウスは、から傘の家に隣接する建物として、アウドルフガーデンから繋がる全体の連続性に対して気を配りました。
家具メーカーであるヴィトラは、長く使い続けることができる製品を開発し、世に送り出すよう努めています。その姿勢はガーデンハウスに表現されているでしょうか?
はい。そう確信しています。現代生み出されている建築やデザインの寿命は、ひとりの人生よりも短いことがほとんどです。しかし、時の流れに耐え、世代から世代へと受け継がれていくものこそが、真の建築でありデザインなのではないでしょうか。
■建築概要
LOCATION: WEIL AM RHEIN, GERMANY
CLIENT: VITRA
PROGRAM: GARDEN HOUSE
ARCHITECT: ATELIER TSUYOSHI TANE ARCHITECTS
CONCEPT: TSUYOSHI TANE
PROJECT MANAGER: VALENTINO PAGANI
PROJECT ARCHITECT: SHOTA YAMAMOTO
PROJECT TEAM: VAL FLANON, NICCOLO PASSARELLI, EMILY JONES, KOKI SAWADA
PROJECT MANAGEMENT: CHRISTIAN GERMADNIK, VITRA
STRUCTURE ENGINEER: INGENIEURBÜRO AUTENRIETH
AREA: 15m²
DATE: 2020-2023