後藤周平建築設計事務所が設計した、静岡・浜松市の「山手の家」です。
作品を集める施主家族の為に計画されました。建築家は、生活と収集物が混ざり合う場を目指し、内外に8つのレベル差があり多方向に“視線が抜ける”構成を考案しました。また、展示する写真を窓に見立て実際の開口と並置して内部空間に奥行きも与える事も意図されました。
豊かな緑が存在する住宅街に建つ夫婦と子供2人のための住宅。
クライアントは写真や家具の収集が趣味で、これまでに集めたコレクションと家族の生活が混ざり合い、それらの気配が家のどこからでも感じられる暮らしを希望していた。
敷地は浜松市の高台の住宅地にあり、周辺の土地も含め、敷地は道路から1-2m程度高くなっていた。それぞれの敷地ごとに地盤面の高さはバラバラで、自然に目線がずれるような関係が出来ており、その段差がとても心地よい近隣の距離感をつくっていると感じた。
この段のある環境と連続するように、外部で3つの高さの段、内部で5つの高さの段をもつ住宅をつくった。内外の床の高さの差によって、アイレベルだけでなく、斜め上方向や斜め下方向に視線が抜け、コレクションや生活や庭が混ざり合った状態を色々な方向から眺めることができる。
この立体的な構成により、視線だけでなく光や空気も室内を連続していく。上部の開口部からの光が拡散しながら吹き抜けから落ち、家全体を明るくしたり、上昇気流を利用して2階上部で換気ができたりと、室内環境もこの吹き抜けを通して連続する。
施主の持つ写真作品を、レンズ越しに見た風景の開口部と見立てた。写真作品という開口部と、住宅の壁に開けた窓という開口部、ふたつの開口をセットで壁に配置していった。
窓は内部と、すぐその裏にある風景をつなぐ。一方で写真のつなぐ風景は季節や時間、場所も異なる。それらを並置することで、「今ここにある風景」と「遠く離れたどこかの風景」との間に関係性が生まれ、奥行きのある内部空間をつくることができるのではないかと考えた。
たとえば、南庭を望む開口部の隣にはライアン・マッギンレーの草原の写真を配置した。今ここにある庭と、どこかの草原が同時に存在し、互いに関係付けられる。季節や、時間の経過でほんの少しずつ変わっていく窓からの風景と、変わらない写真作品の風景のずれ。大きな窓と小さな写真というスケールのずれ。ふたつの種類の開口部が住宅内にあることによって生まれる小さなずれが、目の前の風景に別の奥行きや見方を与える。
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以下、建築家によるテキストです。
様々な要素が離れつつつながる
豊かな緑が存在する住宅街に建つ夫婦と子供2人のための住宅。
クライアントは写真や家具の収集が趣味で、これまでに集めたコレクションと家族の生活が混ざり合い、それらの気配が家のどこからでも感じられる暮らしを希望していた。
敷地は浜松市の高台の住宅地にあり、周辺の土地も含め、敷地は道路から1-2m程度高くなっていた。それぞれの敷地ごとに地盤面の高さはバラバラで、自然に目線がずれるような関係が出来ており、その段差がとても心地よい近隣の距離感をつくっていると感じた。
この段のある環境と連続するように、外部で3つの高さの段、内部で5つの高さの段をもつ住宅をつくった。内外の床の高さの差によって、アイレベルだけでなく、斜め上方向や斜め下方向に視線が抜け、コレクションや生活や庭が混ざり合った状態を色々な方向から眺めることができる。
この立体的な構成により、視線だけでなく光や空気も室内を連続していく。上部の開口部からの光が拡散しながら吹き抜けから落ち、家全体を明るくしたり、上昇気流を利用して2階上部で換気ができたりと、室内環境もこの吹き抜けを通して連続する。
また、内外ともに左官仕上げのテクスチャーの肌理に変化をつけることで、遠近感を操作した。思いがけない部分が近く感じたり、また逆に実際の距離よりも遠く感じたりする。生活と、コレクション、そして環境が立体的に混ざり合う住空間を目指した。
窓と写真、ふたつの開口
住宅の内部空間に写真を配置するということについて考えた。
住宅とは、家族の生活の場であり、外との繋がりが求められる場所だ。そこに写真を置くことで、住宅にとっても写真にとっても、相互に影響を与える良好な関係がつくれるのではないかと考えた。
施主の持つ写真作品を、レンズ越しに見た風景の開口部と見立てた。写真作品という開口部と、住宅の壁に開けた窓という開口部、ふたつの開口をセットで壁に配置していった。
窓は内部と、すぐその裏にある風景をつなぐ。一方で写真のつなぐ風景は季節や時間、場所も異なる。それらを並置することで、「今ここにある風景」と「遠く離れたどこかの風景」との間に関係性が生まれ、奥行きのある内部空間をつくることができるのではないかと考えた。
たとえば、南庭を望む開口部の隣にはライアン・マッギンレーの草原の写真を配置した。今ここにある庭と、どこかの草原が同時に存在し、互いに関係付けられる。季節や、時間の経過でほんの少しずつ変わっていく窓からの風景と、変わらない写真作品の風景のずれ。大きな窓と小さな写真というスケールのずれ。ふたつの種類の開口部が住宅内にあることによって生まれる小さなずれが、目の前の風景に別の奥行きや見方を与える。
距離の知覚のずれ
4つの箱が重なった外観は、手前から奥に向かって外壁に使ったモルタルの肌理が粗くなるように掻き方を変えたり、古典的なササラでモルタルを飛ばし付ける技法を使ったりして、変化をつけている。通常、奥に向かって小さく見えるところが逆にパースがかかることになり、距離感が揺さぶられ、どこに面があるのかの手がかりがなくなる。
庭の連続
東と北西の隣地の庭が、緑豊かで広々とした、とても気持ちの良い庭だった。そこで敷地内の小さな庭を、隣地の豊かな庭と連続させるようにつくった。隣地の古いフェンスの意匠を参照して新設のフェンスを作ったり、地面の高さや植生を揃えたりすることで、一体として連続しているように感じられる庭とした。
手すり
視線の抜けを邪魔しないよう、φ12のステンレス材を組み合わせた手すりを製作している。手で持ちやすい幅の広さと、抜けを同時に実現できる形状としている。
ロープ
転落防止用のロープは 2種類の太さの麻紐を使用。階段側からまっすぐ進む動線と、途中で折れて和室に向かう2方向の動線があることを暗示する。
■建築概要
作品名:山手の家
所在地:静岡県浜松市
用途:専用住宅
設計:後藤周平建築設計事務所 後藤周平、小田海
構造設計:OAK plus 足立徹郎 佐尾敦宏
施工:鈴木建設 河原崎益寛
左官:左官屋朝丸 朝倉伸吾
金属家具:吉政鉄工 吉政友也
工事種別:新築
用途地域:第一種中高層住居専用地域
構造:木造一部鉄骨造
敷地面積:295.11㎡
建築面積:132.33㎡
各階床面積:1階 104.33㎡、2階 64.16㎡、車庫37.20㎡
延べ面積:205.69㎡
竣工:2022年5月
写真:長谷川健太