川原達也+エレン・クリスティナ・クラウゼ / KAWAHARA KRAUSE ARCHITECTSが設計した、ドイツ・ハンブルクの「House SK -Remodeling Kallmorgen-」です。
モダニズムの建築家が手掛けた住宅の改修です。建築家は、明るく広々とした空間への転換を求め、既存の構成を踏襲しつつ“吹抜”の新設や“開口部”の拡大等を含む計画を考案しました。そして、空間の繋がりが実寸以上の奥行と広がりを呼起すことも意図されました。
戦後1940年代後半、ハンブルクに駐留するイギリス軍のために、市の郊外に長屋の住宅街が建設されました。地上2階、地下1階、屋根裏部屋を合わせて4階建ての、ドイツでは典型的な長屋形式で、設計したのはハンブルクのモダニズムを牽引したアーキテクトのひとりでもあるヴェルナー・カルモーゲン(Werner Kallmorgen)という著名な建築家※1です。
イギリス軍が引き揚げた後、この長屋群は個人に売却され、それからふた世代時代が下った2019年、この長屋の端部の家を相続したクライアントからわれわれが改築の依頼を受けました。
単なる住宅設計を超えて、その作品の多くが文化遺産に登録されているカルモーゲンの作品にどのように向かい合うのかという点でもプランニングに影響を与えたと思います。
既存の家屋は幅7m、奥行き8.5m、家の南側にはさらに奥行き18mの庭が大小の木々に縁どられて続いています。カルモーゲンの採用した平面形は単純な田の字型、いわゆるフォー・スクエア・グリッド(4-square-grid)のプランニングで、北側の2つのエリアに(1)キッチンや浴室などの水回り、(2)縦動線と各階での諸室への動線エリア、南側の2つのエリアに(3)リビング、ダイニング、そして(4)寝室群を配置し、コンパクトに効率よく計画されています。
しかし戦後の混迷期に低予算かつ短い工期で建設されたであろうこの長屋群は、天井が極めて低い上に、内部空間の奥行きに対して窓が小さく、さらに1階の南東の角をえぐる形でテラスが配置されていたため、それがさらに内部空間に陰を作り、全体としてどんよりと暗く、巣穴のような印象が先立つ状態でした。
こうした現状を踏まえたクライアントとの対話の中では、より開放的で明るく、広々とした空間を、という方向性を自然と共有していくことができました。
スタディを進めていく中で、既存の田の字の幾何学を上書きする方向も検討しましたが、田の字を踏襲しつつ、空間の形を立体的にリモデリングしていくことに集中しました。このときに家の内部空間だけをみるのではなく、その延長としての庭の奥行きや、そこに立つ木々の高さに釣り合うような内部空間の構えやプロポーションを模索していきました。
2023年6月に撮影した写真
以下の写真はクリックで拡大します
2024年6月に撮影した写真
以下の写真はクリックで拡大します
図面と模型写真
以下の写真はクリックで拡大します
以下、建築家によるテキストです。
戦後1940年代後半、ハンブルクに駐留するイギリス軍のために、市の郊外に長屋の住宅街が建設されました。地上2階、地下1階、屋根裏部屋を合わせて4階建ての、ドイツでは典型的な長屋形式で、設計したのはハンブルクのモダニズムを牽引したアーキテクトのひとりでもあるヴェルナー・カルモーゲン(Werner Kallmorgen)という著名な建築家※1です。
イギリス軍が引き揚げた後、この長屋群は個人に売却され、それからふた世代時代が下った2019年、この長屋の端部の家を相続したクライアントからわれわれが改築の依頼を受けました。
単なる住宅設計を超えて、その作品の多くが文化遺産に登録されているカルモーゲンの作品にどのように向かい合うのかという点でもプランニングに影響を与えたと思います。
既存の家屋は幅7m、奥行き8.5m、家の南側にはさらに奥行き18mの庭が大小の木々に縁どられて続いています。カルモーゲンの採用した平面形は単純な田の字型、いわゆるフォー・スクエア・グリッド(4-square-grid)のプランニングで、北側の2つのエリアに(1)キッチンや浴室などの水回り、(2)縦動線と各階での諸室への動線エリア、南側の2つのエリアに(3)リビング、ダイニング、そして(4)寝室群を配置し、コンパクトに効率よく計画されています。
しかし戦後の混迷期に低予算かつ短い工期で建設されたであろうこの長屋群は、天井が極めて低い上に、内部空間の奥行きに対して窓が小さく、さらに1階の南東の角をえぐる形でテラスが配置されていたため、それがさらに内部空間に陰を作り、全体としてどんよりと暗く、巣穴のような印象が先立つ状態でした。
こうした現状を踏まえたクライアントとの対話の中では、より開放的で明るく、広々とした空間を、という方向性を自然と共有していくことができました。
スタディを進めていく中で、既存の田の字の幾何学を上書きする方向も検討しましたが、田の字を踏襲しつつ、空間の形を立体的にリモデリングしていくことに集中しました。このときに家の内部空間だけをみるのではなく、その延長としての庭の奥行きや、そこに立つ木々の高さに釣り合うような内部空間の構えやプロポーションを模索していきました。
南側の庭に面して設けた大きな吹き抜けの空間に、もともと北側にあった垂直移動の動線である階段と諸室への動線エリアをゆったりと計画しなおしました。吹き抜けに面する2階の窓もFIX窓として大きくし、それがハイサイドライトのように1階のリビングに光を注ぎ込み、その窓際には小さなベンチも用意しました。
階段によって動きが可視化された上へ上へと延びていく光に満ちた吹き抜けの空間、大きな掃き出し窓を通して強調される庭との連続性とその庭も含めたリビングの奥行き、これら垂直な空間と水平な空間が適正なバランスで重なり合うことで、実際の寸法以上の身体感覚を呼び起こしてくれるように思います。
さらに南側に配置し直した階段は折り返しにせず、遠回りで面倒だけれど吹き抜け周りをぐるりと動くこと大切にし、その動きの中で、「水平的な活動」(食べる、くつろぐ、遊ぶ、寝る)と「垂直的な移動」がつねに一定の時間をかけて交差することを大切にしました。
必ずしも効率的ではない、時間のかかる移動の途中に、毎日反復して見下ろす階下の生活の風景や、吹き抜けを回り込むときに目に入ってくる窓を通した庭の様子やその変化に対する小さな気づき、あるいは吹き抜けを通して起こりうる小さな会話、そうした長い時間をかけて醸成されるちいさな瞬間の集まりをこの空間構成に期待しました。
施工の完了という意味での竣工は2023年になりその時点で住宅の竣工写真を撮影しましたが、クライアント家族がひと通りの季節を経験しながら住み込んだ1年後に改めてもう一度、彼らの暮らしぶり含めた住まいの竣工写真を撮影しました。その1年の間に頻繁にここを訪れながら垣間見た暮らしの風景が、これからさらにゆっくりと時間をかけて住み手の思い出の中に沈殿していくとき、その背景にこの空間が慎ましくも美しく佇んでいることを願っています。
※1 カルモーゲンの作品として、例えばエプルフィルハーモニーが載る倉庫が有名。
■建築概要
題名:House SK – Remodeling Kallmorgen –
所在地:ハンブルク、ドイツ
主用途:住宅
設計:KAWAHARA KRAUSE ARCHITECTS 担当/川原達也、Ellen Kristina KRAUSE、Laurina Schraeder
施工:Moeller Bau- und Energieberatung GmbH
構造:混構造(RC造、レンガ造、木造)、S造(吹き抜けおよび開口周囲補強部分)
階数:地上3階、地下1階
敷地面積:61.5m²
建築面積:385m²
延床面積:246m²
設計:2019年12月~2021年12月
工事:2021年1月~2023年6月
竣工:2024年6月
写真:KAWAHARA KRAUSE ARCHITECTS