SHARE 森田一弥によるレンガ造のパビリオン「Brick-pod」
森田一弥によるレンガ造のパビリオン「Brick-pod」です。2012年に韓国で行われた昌原彫刻ビエンナーレのために作られたもの。
以下、建築家によるテキストです。
Brick-pod
2012年10月27日から11月25日にかけて韓国昌原市で行われる昌原彫刻ビエンナーレのために会場である現地の小島に建設した、レンガ造のパビリオンである。彫刻のビエンナーレに建築家として作品を出展するに際して「内部空間のある彫刻」として建築を位置づけ、現地の伝統的な建築素材であり磚(せん)と呼ばれる黒レンガを使ったドーム建築を建設した。
韓国におけるドーム建築は、慶州郊外の石窟庵など石造仏教建築の一部に見られるが、半ば地中に埋もれた仏像の設置場所としての空間であり、人のいる場所としてのドーム建築の系譜は存在しない。そこで、伝統的な黒レンガを用い、通常のレンガ造の建築に特徴的な重厚な空間ではなく出来る限り薄い「膜」のようなドームを建設することで、彫刻としてだけでなく韓国の建築文化に対しても新しいレンガの可能性を提示したいと考えた。
またこのドームは自然豊かな小島の一角に建設されることから、内部にいる人が外部の風のそよぎや日光の揺らめき、樹木のざわめきを屋外にいる時以上に敏感に感じることができるように壁面に無数に穴を空けた。外部環境を室内に積極的に導き入れるレンガ建築の事例には、中国新疆ウイグル自治区のトルファン近郊にある日干しレンガ造の葡萄乾燥小屋がある。そこでドームの表面にレンガと同じ大きさの穴を開けることで、この葡萄小屋の系譜にも接続を試みている。
ローマのパンテオンやイスタンブールのアヤ・ソフィアを代表とする世界のドーム建築の歴史は、より薄く、より明るく、より軽快なドーム空間の実現へ向けての技術開発の歴史でもある。このドームの建設にあたっては、わずか15ミリに加工された薄いレンガとスペインの伝統的なレンガ工法であるカタランボールト工法によって15ミリの厚みのレンガのシェルを形成し、それにガラス繊維を混入したセメントモルタルを日本の左官鏝の技術で薄く塗り付け、その後ディスクグラインダーで壁面の穴を切開する、というプロセスで建設している。
ドーム建築の歴史をさらに押し進めた、卵の殻のように薄くて軽快な、わずか30ミリにして耐震性能をもつハイブリッドレンガ造のドームである。
■建築概要
作品名:Brick-pod
敷地:大韓民国慶尚南道昌原市
設計:森田一弥建築設計事務所
構造:満田構造計画事務所
施工:谷口達平,森田一弥,木村俊介,井上悠紀,小寺磨理子,込山翔平
材料:黒煉瓦、即硬性セメント、白セメント、砂、ガラス繊維