建築家でありアトリエ・ワンのパートナーを務める玉井洋一は、日常の中にひっそりと存在する建築物に注目しSNSに投稿してきた。それは、誰に頼まれたわけでもなく、半ばライフワーク的に続けられてきた。一見すると写真と短い文章が掲載される何気ない投稿であるが、そこには、観察し、解釈し、文章化し他者に伝える、という建築家に求められる技術が凝縮されている。本連載ではそのアーカイブの中から、アーキテクチャーフォトがセレクトした投稿を玉井がリライトしたものを掲載する。何気ない風景から気づきを引き出し意味づける玉井の姿勢は、建築に関わる誰にとっても学びとなるはずだ。
(アーキテクチャーフォト編集部)
小屋の佇まい ─── “擬”斜線制限の小屋
渋谷駅近くの坂の上に建つ小屋。
集合住宅を建てた残余である不定形なヘタ地に増築されたように見える小さな建物である。集合住宅と仕様を揃えた白い吹き付けタイルの外装は、建物の所属を明確に宣言している。
また、ヘタ地の形状や斜線制限によって細かく切り出されたような多面体の外形は、階段状にセットバックする集合住宅のボリュームと形態的な対比をつくっている。
このように母家に対して小さな建物が付属するいわゆる「付属建物 」は、前回の「 “偽”ペット・アーキテクチャー」と同様に、それらの佇まいやつくられ方に、母屋との共通性や独自性を観察してみると面白い。
ところで、小屋の上部に僅かに見えるハシゴや配管から、実はこれは4mほどの高さの貯水槽とそれを隠すための擁壁に、管理人室をハイブリッドした建物なのではないかと考え始めた。多面体の理由を安易に斜線制限としたのは間違いで、「ヘタ地に建つこと」、「貯水槽を隠すこと」、「管理人室をつくること」、「住戸の採光や眺めを阻害しないこと」、「目立たないこと」、「小さく見えること」など、複合的な条件の中で生まれた有機的な形だったのではないか。