松本樹 / 愛知工業大学大学院+白石卓央 / 愛媛建築研究所が設計した、愛媛・松山市の、アート事業の交流拠点「ひみつジャナイ基地」です。施設の公式ページはこちら。愛媛県松山市でのアート事業の一環で建築設計コンペが行われ、日比野克彦、藤村龍至、石川智子の審査によって松本の作品が最優秀作品に選出され、実現したとの事。
四国は松山、道後地区に点在する神社仏閣の一つに、時宗開祖である一遍上人の生誕地と伝わる宝厳寺がある。 道後温泉本館の東、山裾に鎮座する宝厳寺へと向かう「上人坂」は、門前町としての歴史から始まり、夏目漱石名著「坊っちゃん」では花街として描かれ、通称ネオン坂とも呼ばれた場所である。現在ではそれらのコンテクストが薄れる中、社会状況に伴う空き家の点在も起因し、混沌とした空気を纏う場となっている。
本計画案が据えられるのは、その上人坂を登り切った先にある、アールの効いたエッジである。わずか50坪程の土地であるが、向かいにある宝厳寺から見下ろす風景を決定付ける立地条件を持つ。 無論、そこから映るのは歴史的コンテクストのみならず、山裾ゆえ両脇に広がる山々、坂上という立地条件から望む遠景が効いた、デプスを持った風景である。
本拠点が担う役割は、歴史・社会状況・風景という重層するコンテクストを纏う「上人坂の再編」である。薄れゆく歴史への応答、沈みゆく地域社会への鼓舞、連なる風景への責任、それらを“一にして遍き”、土地の真価をアートとしてのスケールを超越した「建築」によって示すこと、地域再編へ向けた多様な活動を内包する「多義的な拠点」を生み出す事が課せられた使命であった。
本提案を創造する手掛かりとして、上人坂を含む道後地区に歴史的拠点として点在する神社仏閣を参照した。既にこの地において、数百年に渡り小規模分散拠点として根を下ろしてきたそれらをメタファーとする事は至極必然な判断であった。取り分け着目し、本提案における建築構成要素のアウトラインとして設定されたのは、破風や緩やかな勾配によって表現される、優美な曲面屋根という形式である。
そして、その形状を定めるのは上人坂の歴史・風景というコンテクストである。 アールの効いたエッジと屋根の外形線の近似、かつての花街としての歴史を匂わせる妖艶なフォルム、周囲の山々に近似するフォルムを近景として添える事で完成する風景という様に、描かれる曲線は私の意思のみならず、歴史・風景との合意形成のもとにある。そのようにして描かれる線は、違わず美しいものである。