元木大輔 / DDAAが設計した「NOT A HOTEL ANYWHERE」です。
車両を改修したホテルとしても利用可能なモバイルハウスの計画です。建築家は、“移動可能な新しい暮らし”を想定し、車体毎に別の機能を与え“5台でひとつの居住空間”となる仕組みも考案しました。また、建築的な“車両”として様々な工夫を込めました。
現在(2024年1月時点)はベースキャンプとして宮崎市に設置されています。施設の公式ページはこちら。
年に限られた日数しか使われない別荘の所有形態を考え直すことで、新しい暮らしを提案するスタートアップNOT A HOTEL。
彼らの数あるプロジェクトの中でも「NOT A HOTEL ANYWHERE」は実験的なプロジェクトで、ビンテージのトレーラーを母体に、場所に依存しない移動可能な新しい暮らしをデザインをしてほしいという依頼から始まった。5台を制作し貸し出したいという要望に対して、僕たちは寝室車や書斎車といったように、1台にひとつの機能だけが備わった車体が5台でひとつの居住空間をつくることを提案した。そのときどきで必要な車体を選んで旅先にもち運ぶことで、土地に縛られることのない、従来の家より豊かな暮らし方を目指した。
今回改修した5台のうち、大きな2台はスパルタン社製で、残りの3台はエアストリーム社製のキャンピングトレーラー(以下、トレーラー)だ。5台の機能を選ぶにあたって、現地調達の難しいお風呂やキッチン、スナックと、プライバシー性の高い寝室や書斎を車両化した。リビングは広いほど贅沢なので、雨天時は大きな寝室でその機能を担えるようにしつつも、車体間にタープを張ることで、行く先々の環境を取り入れたゆったりとしたアウトドアリビングをつくれるようにしている。
移動を前提としているので、このプロジェクトには決められた敷地はない。しかし、移動先のさまざまな風景を常に楽しめるようにしたい。つまり、まだ見ぬ敷地の固有性を享受しながらも、さまざまな環境に対応できるユニバーサルなデザインが求められるという、ある意味で矛盾した条件がこのプロジェクトの特徴である。
そこで、どんな環境でも窓から360度景色を楽しめるように、トレーラーの上半分と下半分で素材を切り替え、窓に干渉しない下半分に各部屋に必要なすべての機能を集約させ、腰高さより上に機能的なヴォリュームが出ないようにした。どうしても上半分にはみ出てしまう家具は、メッシュや透明な素材を使ったり、ヴォリュームが小さくなるようにすべてデザインしている。下半分は特徴的な木目の材を選定し、重心を低くすることで室内を広く感じられるようにしている。外壁は手を加えると既存部分とのコントラストがつきすぎてしまうため、ヴィンテージの質感をできるだけそのまま活かし防水対策など最小限の手数にとどめた。