大野友資 / DOMINO ARCHITECTSが設計した、北海道・札幌市の「BANKEI FARM」です。
企業が運営する森の中の牧場の計画です。建築家は、地域の自主施工の“農作業小屋”から着想し、使用者自身での拡張を可能とする“特注フレーム”用いた空間を考案しました。そして、工夫の重なりが“この場所らしさ”を作る“いい道具”の様な存在が目指されました。
北海道、札幌。中心部から車を20分ほど走らせた盤渓地区の22ヘクタールの森林を敷地として、お菓子メーカー・ユートピアアグリカルチャーが運営する牧場を設計した。まずはその第一段階として、厩舎、牛舎、鶏舎と卵の直売所などが設置された。
動物や植物を扱う牧場に必要とされている機能は、原則としてとてもシンプルでプリミティブなものだ。そんな場所に、建築ができることはなんだろう。慣れ親しんだ一般的な牛舎や鶏舎と違うものになったら、使う人がアレルギーやハレーションを起こさないだろうか。そんなことを悶々と考えながら盤渓の山の中を歩いていると、地元の農家がセルフビルドで建てたかわいらしい農作業小屋を見つけた。
ビニールシートの屋根と丸太柱だけでつくられた、トラクターと農作業用具が最低限おさまるサイズの小屋。梁からはにんにくや玉ねぎが吊るされている。それはまるで熟練の職人が使う、工夫の詰まったオリジナルの道具みたいで、とても「しっくりくる」光景だった。この小屋の延長線上に、今回の牧場のあるべき姿が見えた気がした。
建築の骨組みとして、北海道を拠点にしている農業用パイプハウスのメーカーと既製品をベースにした特注のフレームを開発した。骨組みに取り付けるオプションパーツは農業用ホームセンターなどで簡単に手に入るので、開口部を追加したり、ネットを張ったり、建具を取り付けたりするなど、運用しながら必要に応じて自分たちで機能を拡張できる。
メインの外装材として、銀色の熱線反射シートを用いている。熱負荷を軽減しつつ、一定間隔で透明なビニール素材に切り替えることで、室内に日光が入るようにした。夏季はオペラカーテンみたいにシートを束ねることで風通しをよくしたり、冬季には閉じることで断熱性能を上げたりできる。牧場の一角は卵の無人販売所になっていて、オリジナルの自動販売機を設置した。機構はできるだけシンプルにすることで、何かあった時に自分たちで簡単に直せるような設計になっている。