能作淳平建築設計事務所が設計した、東京・日本橋の、既存倉庫を改修したオフィス「101 BASE」をレポート。建て込んだ中でのカーテンウォールのデザインが事務所らしさを生み出すと共に周辺環境を内部に取り込む建築となっています。
こちらはアーキテクチャーフォトによるレポート
能作淳平が改修を手掛けた中央区の路地裏に位置する倉庫を改修したオフィス「101BASE」を訪問した。
広告に関わる企業の新しいワークスペースになるのだという。計画はこのコロナ禍の中進行された。既にクライアント企業ではテレワークでの勤務が定着しており、今まで使用していたオフィススペースの使用を取りやめ、この「101 BASE」に機能を集約することが前提で計画がすすめられた。コロナ禍以降のオフィス空間なのでである。
換気等の機能面は勿論だが、出社必要時にこのオフィスを訪問し社員の皆さんが如何に仕事に集中できるかという事が考えられている。コンパクトなフロアが3層重なった建築であり、オフィスの1階は、風通しの良い、ラウンジスペース。2階には、円形テーブルが特徴的なオフィス。3階は打ち合わせや会議などに使用できるホール空間となっている。日本橋という場所柄、1階のラウンジスペースは、将来的にカフェ等の用途としても貸し出せるようにキッチン等が配置されていたりもする。
建物の存在する環境に目を向けると、計画建物の周りにはビルが立ち並び、かなり立て込んでいることが分かる。その場所に、能作は敢えて、既存建物の壁を取り払いカーテンウォールを新設した。それはオフィスらしさをこの建物に持ち込むと共に、内部から見ると、目の前の建物の壁や配管が室内に取り込まれ、偶然が生み出した壁紙のように見える。建具枠が絵画における額縁のように機能し目の前の風景を切り取り室内に持ち込んでいる。
このような景色を取り込むことに賛否はあると思えるが、内部に佇みその景色と静かな光の変化を見ていると、そこには間違いなく豊かさや良さがある事を感じた。ビルの隙間からチラチラ見える通りを歩く人影も、フレームワークされて動く絵画の一部のように見えてしまう。
このカーテンウォールは、この固有の立て込んだ環境下で、一般的なそれとは、また違った機能や意味を持ち得ている感覚を覚えた。既存の形式を使用したとしても、それをどの環境に適応させるかで、その意味や効果が全く変わることが建築の面白いところだと思う。そしてこの場所でカーテンウォールを提案した能作のアイデアと判断は特筆すべきものだろう。勿論この建物の機能がオフィスであると言うことも前提で、これが住宅だったらまた違った感想を持ったかもしれない。
内部のデザインに目を向けると、既存の建築をよく観察し、その天高に合わせて諸機能や家具類が丁寧にデザインされていることも印象的だ。加えて、新設する部分、残す部分、の判断が丁寧である事も感じられる。それによって、新旧の対比的ではない、新しさと古さが混在したような状態でデザインがフィニッシュされ、改修だからこその心地よさが確かにある。これは、能作による自邸改修から続くものだろうとも思える。
最後になるが、法規監修には、佐久間悠の建築再構企画が関わっている。築57年の建物の改修という事で法的な裏付けを持って進められたプロジェクトであることも記載しておきたい。