SHARE 妹島和世による、東京・中央区の、浜離宮恩賜庭園でのパヴィリオン「水明」。歴史的庭園と現代的景観を繋ぎ新たな風景を創出
- 日程
- 2021年7月1日(木)–9月5日(日)
妹島和世が設計した、東京・中央区の、浜離宮恩賜庭園でのパヴィリオン「水明」です。歴史的庭園と現代的景観を繋ぎ新たな風景を訪問した人たちに感じさせる作品となっています。“パビリオン・トウキョウ2021”の一環として制作された作品です。作品の設置場所はこちら(Google Map)。開催期間は2021年9月5日(日)まで。
こちらはアーキテクチャーフォトによるレポート(特別な許可を得て芝生内で撮影しています。ご了承ください)
妹島和世が設計したパヴィリオン「水明」は、東京・中央区の、浜離宮恩賜庭園内・延遼館跡につくられた。
施設にて配られている資料によれば、浜離宮は江戸時代には、江戸城の出城としての機能を果たしていた徳川将軍家の庭園であった。明治維新後は皇室の離宮となり浜離宮と名付けられた。関東大震災や戦災により建造物や樹木は損傷したが、東京都に下賜され整備の後1946年に浜離宮恩賜庭園として公開された。そのような歴史を持った場所である。
また浜離宮は、東京の海辺に位置し、築地川・汐留川・東京湾に囲まれている。加えて、庭園内に海水を引き入れた「潮入の池」と呼ばれる池があるのも特徴的だ。その他にも内堀や二つの鴨場(かつて鴨猟が行われていた場所)があったり、小さな小川が流れていたりする。このように様々な形の水辺が特徴的な場所である。
妹島のパヴィリオンは、浜離宮の大手門から入ってすぐの場所に位置している。ここは浜離宮内の最も北側部分にあり、見え上げると高層ビル群が間近に目に入る場所でもある。古くから続いている庭園と同時に現代的な高層ビルが目に入るという特徴をもった場所だと言える。
そして、妹島はこの場所を「歴史と現代という東京のふたつの側面にふれることができる場所だ」と表現する。その言葉は、このパヴィリオンを体験する大きなヒントになりえると思えた。
実際の作品を経験して感じたのは、この敷地の環境や歴史に対し絶妙な関係性をもってこの作品が完成しているということだ。また、この作品に、みる人たちが思い思いの感情をそこに重ねられる作品になっているということである。
まず印象的だったのは、その作品の長さ。幅80cmの水面が約111m続いているのだという。この作品の水平に展開する様子は、周囲にたつ高層ビル群の垂直に伸びる様子と対比させる意図でデザインされているように感じた。垂直のビル群を背景として、作品が水平に伸びやかに広がっているように感させてくれる。そして168m続く水面の平面形状は幾何学が特徴的だ。それはこの庭園の植栽の中にあっては明らかに人工物として作品としての明確な存在感を示しているが、無機質な人工物という視点では周囲のビル群とは呼応しているようにも感じられる。また無機質ではあるのだが、水面を支える素材の鏡面仕様は、周囲の植栽や景観を映し出し、その場所に溶け込むかのような効果を持っているように見える。
このように作品のそれぞれの要素が周辺環境に対し対比的であったり調和的であったりしていて、強いコントラストをつくりだしたり、完全に調和するようなデザインの、どちらも巧妙に避けているように感じられた。それによって何が生まれているのか。
そのようなデザイン操作によって生み出された「水明」という作品は、この場所における“歴史的な庭園”と“現代的なビル”との間に関係性をつくり、今までは対比的な存在であった両者をつなぐ役割を果たし、この場所の風景として一体として感じさせる装置のような役割を果たしていると感じた。歴史的庭園と現代的景観を繋ぎ新たな風景が創出されているのだ。
最後になるが、作品の出発点となるコンセプトが「曲水(平安時代の庭園にあった水路)」であったことは、浜離宮恩賜庭園が多様な水辺をもつ場所であったことによるのは言うまでもない。それはこの作品が景観だけでなく、日本固有の歴史とも接続していることを意味している。
筆者は、この場所の固有性に妹島がどう向き合ったのかという視点で感じたところを書き綴ってきたが、同時に作品の視覚的な美しさや、妹島作品らしさということ等にも思いがめぐらされた。それは、この場所にパヴィリオンをつくるという課題に対し様々な視点や意味が、思考され、検討され、重ねられ、ひとつの形に到達しているからに他ならない。
ある人はこの作品に美しさを強く感じるかもしれない。ある人は妹島建築の進化に感銘を受けるかもしれない。また筆者と同じように場所性の読み解き方に驚嘆する人もいるだろう。「水明」はそんな多様な解釈を誘発する作品であることは間違いない。そして建築や芸術の世界の歴史を振り返っても評価を得続けている作品にはそんな様々な評価を想起させる力を持ったものが多い。
本作品は、実際に体験した喜びや驚きを与えてくれると同時に、デザインへの取り組み方への知的な学びも与えてくれる作品である。
※参考資料、浜離宮恩賜庭園パンフレット
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浜離宮恩賜庭園内の水場のある風景
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こちらはワタリウム美術館で展示されている、妹島によるパヴィリオンの資料
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作品解説はこちら
浜離宮恩賜庭園は、潮入の池(海水を導き潮の満ち引きによって池の趣を変える池)とふたつの鴨場をもつ江戸時代の代表的な大名庭園です。
妹島和世(1956年~)は、汐留の高層ビル群を背に広がるこの伝統的な庭園を「歴史と現代という東京のふたつの側面にふれることができる場所だ」と確信し、多様な水場をもつ庭園に合わせて、曲水(平安時代の庭園にあった水路)をイメージしたパビリオンを設計しました。
鏡面の水路に浅く張られた水は、空や周囲の風景を映してきらきらと輝きます。設置されたのは明治初期に整備された迎賓館「延遼館」があった場所です。タイトルの「水明」は、澄んだ水が日や月の光で美しく輝く様子を示す言葉です。東京のこれまでを映しながらも常に変わり続ける水面から、清らかな未来を想像できるように、という期待が込められています。
妹島和世は建築内外の関係をつなげ、様々な人がそれぞれの時間を過ごせる公園のような空間を設計し続けている、日本を代表する建築家です。
■開催概要
Tokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13
パビリオン・トウキョウ 2021
開催時期:2021年7月1日(木)~9月5日(日)
鑑賞時間:各パビリオンごとに異なります。最新情報を公式サイトにてご確認ください。
*一部のパビリオンには休館日がございます。また、入場料や事前予約が必要な会場がありますのでご注意ください。
会場:新国立競技場周辺エリアを中心に東京都内各所
パビリオン・クリエイター:藤森照信、妹島和世、藤本壮介、石上純也、平田晃久、藤原徹平、会田誠、草間彌生
特別参加:真鍋大度 + Rhizomatiks
主催:東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京、パビリオン・トウキョウ2021実行委員会
企画:ワタリウム美術館
公式サイト:https://paviliontokyo.jp/